三文芝居4
赤れんが探偵事務所。
南極都市でもっとも有名な探偵事務所だ。探偵少女のマリア、助手の玉髄もまた有名であり、多くの依頼が持ち込まれる。
例えば失せ物を探すことである。
例えば殺人事件である。
だが、ときには探偵も人を殺そうとする。
マリアが銃口を向けても、瑠璃は逃げなかった。逃げるような動きがあれば撃たれるだろう。ただ瑠璃は頭で理解しているというよりは、すでにそう決めているのだった。銃を持った相手に丸腰で会いに行くのだ……撃ち殺される覚悟はできている。
「マリアは犯人じゃない」
玉髄が断定した。
瑠璃が、そしてマリアも彼を見る。問いかけの視線だ。
「瑠璃さんからもらったデータの画像解析の結果だよ。細かい傷の位置がマリアの銃とは違う。僕のセンサーを信じてくれ」
玉髄の言ったことは半ば嘘だった。
確かにマリアの銃は、瑠璃の友人を撃ち殺したものとは違う。
なぜならグリップに刻まれた数字が違うからだ。瑠璃の位置からは見えず、マリアの斜め後ろにいる玉髄だから見えている。
マリアはⅢで、殺人犯はⅣである。
(製造番号ならⅠからⅣまであるってことか? ⅠとⅡの銃はどこに? いや彼女が作ったのなら――三賢者が一丁ずつ保有しているはずだ)
玉髄はマリアたちをかばった。
自衛のために製造、保有しているのだろうと信じることにしたのだ。
次の疑問点はひとつ。
「なぜ、銃を持ってるのことに気づいたの?」
マリアが尋ねた。表情はプログラムされたもので、平生は自然体のマリアがすると一層と不気味だった。
瑠璃は落ち着いた声色で答える。
「超能力です」
「透視?」
「いいえ、千里眼みたいなものです」
その答えをうけてマリアがさらに追求する。
「私たちを監視していたのかしら」
「いいえ、超能力を試しに使ってみただけです。犯人を捜そうと使ってみて、見つからなくて、もっと練習すれば上手くいくかなって思って……そうしたら、あなたが銃を持っていました」
「あなたのことを信じる根拠がないわ」
マリアは銃を下ろさない。
「はい、私もあなたたちのことは信じられません」
瑠璃も視線を外さない。
二人のやりとりを見ていた玉髄は考える。いずれにせよ恐ろしい殺人鬼がいることは確かだ。そのバックに「軍」や「組織」がいるなら慎重な対応が必要だ。情報が必要である、それも駆け引きや規則を超えた方法での。
「マリア、分かってるだろう」
玉髄の呼びかけにマリアは応じない。
「差し迫った危機をなんとかするのに、彼女の力はうってつけだ」
「……どんな危機かは分からないわ」
「それを知るのに役に立つ」
玉髄は瑠璃を見る。
「情報があれば、マリアが適切に判断できる――そして武力が必要なら」
多勢に無勢でも。
暗殺を企てられても。
圧倒的な力で押しつぶす。
「僕がいる」
瑠璃の視線がようやく動く。玉髄の眼をじっと見つめる。
「協力はしましょう。信じ切れてはいませんが」
またマリアを見つめる。
マリアは、銃を下ろした。




