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テレパスデビュー6

 玉髄(ぎょくずい)はマリアから不撓(ふとう)とのやりとりを聞いた。

「なるほど……(ほたる)さんは将軍がゲットか、実際バランス的にはどうなんだい」

「悪くないと思うわ。確かに技術に関するシステム制限は多いから」

 探偵事務所でマリアは腰掛けている。対面の位置には玉髄がソファに深々と座っている。暖炉の中にあるランプが、ぼんやりと二人の顔を照らす。

「マリアがいいなら、僕も構わないよ」

 マリアは会話の一部を隠している。玉髄を利用すればいいという不撓の発言、加えて「告解」に関する質問とそれに対する沈黙は……話していない。彼女はまだ話すべきではないと考えている。

「聞き分けが良くて大変結構」

「蛍さんは今どうしてるの」

「……彼氏と仲良くしてるそうよ」

 マリアが苦虫を噛み潰したような顔で言った。

「そんな顔しなくても」

「棺桶越しに仲良くしてるの」

「蛍はもう出たはずじゃ――」

「彼氏の方が棺桶の中に」

 玉髄は信じられないと呟いた。過去に蛍を「愛が重い」と評したことがあったが、それが愛なのか狂気なのか分からなくなってきた。

「つまり彼氏にとっては唯一話せる相手が彼女になるわ」

 暗く狭い棺桶の中でなら、恋人だろうが狂人だろうがいいのかもしれない。話せる相手がいるということはそれだけで救いだ。転じて、誰とも話せなければそれこそ気でも狂うだろう。

「それは蛍さんが?」

「ええ、彼女自身が望んだこと。帰還計画への協力の見返りに「彼氏に関する諸権利とそれを実行するための権限」を要求したそうよ。将軍様からご丁寧に連絡があったわ」

「あの人絶対笑ってたでしょ」

「当然でしょ。腹黒ですもの」

「いやいやそれはマリアも人のこと言えないんじゃ……」

 玉髄の言葉が尻すぼみになって消えていく。自分の発言でマリアが怯えたように見えたからだ。ただ、それは一瞬のことで、彼は気のせいだろうと考え直した。マリアに限ってそれはないと結論づける。

「蛍さんは相思相愛って言ってたけど、彼氏さんはどうなんなんだろうね」

「喧嘩の原因は、彼氏の浮気よ」

「浮気相手が死体になってたりしないよね?」

 玉髄は本気で心配になって尋ねる。ありそうなことだ。

「相手の自宅に押しかけはしたらしいわ」

「へー」

「その後ずっと付きまとって、自分たちの愛について語ったそうよ。浮気相手はうんざりになって、降参したから、ある意味話し合いで解決したと言えるわね」

「マリアはどう思う?」

「は?」

 マリアの眼に攻撃的な光が宿る。

「蛍さんは交際相手を信じすぎだし、彼氏さんは軽んじすぎだと思うんだよね。これは恋愛に限らず、人間関係全般で言えることだと思うんだけど――いい塩梅ってどんな感じなんだろうね」

 玉髄は必死に話を誤魔化そうとした。

「……それは私とあなたの話?」

 想像していなかった着地点に、玉髄は驚く。彼はこれまで一度もマリアを恋愛対象として考えたことはない。これからだってないし、というかそれはロリコンであり、自分の場合は同棲もしているのだから犯罪にあたるだろう。そもそも自分とマリアは協力関係であり、むしろ自分の方が立場は弱いはずだ。マリアの導きがなければ本当の世界に帰還できないのだから。

「ちょっと動揺してる」

「見れば分かる。……冗談よ」

「だよね、良かった。キミの部下と呼ばれるのは構わないし、キミは嫌だろうけど保護者と呼ばれることもあるがそれも問題ない。でもロリコンだけは勘弁したいね。色々議論はあるようだけど、少なくとも僕らのケースだと完全に犯罪だろう。誓って言うけど僕はそういう――変な気を起こすことはない。そうなる兆候があれば自害を命じてくれてもいいよ、従うから」

 マリアが少しだけ笑う。いつもの意地悪な笑みではなく、寂しげで弱々しいものだった。

 玉髄はそれどころじゃなく、気づかない。

「休みましょう」

 マリアが席を立つ。

「お疲れ様、マリア」

「あなたもよくやったわ、褒めてあげる」

 玉髄がマリアの頭を撫でる。

 そして足を踏まれた。

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