テレパスデビュー3
南極都市を疑似太陽が照らす。快晴に設定されているのだ。もっとも積もる雪が溶けることはなく、相変わらず街は白色と灰色に包まれている。
赤れんが探偵事務所に来客は来ていない。
だが依頼は届いている――探偵と助手の脳に直接。
「私は場所の特定を急ぐので」
マリアはもう言うことはない、というように眼を閉じる。明らかに蛍との会話を拒んでいる。
「よろしくお願いします」
蛍は緊張した声で言った。彼女の中にも自分が見つかるのかどうかという不安がある。テレパシーは孤独感を和らげるが、それでも暗闇の密封状態というのは気持ちのいいものではない。
玉髄は思念通信でマリアに問う。
〈彼女が怖いなら、なんで殺さなかったんだろう〉
〈ずいぶんと物騒な物言いね〉
二人はもはや蛍のいう「彼氏」が犯人であると確信していた。
〈棺桶を個人で用意したとも思えないわ……依頼したはず〉
〈そんなに高いのかい?〉
〈「軍」や「組織」のレベルじゃないとそもそも素材すら――〉
〈マリア、まさかとは思うけど〉
〈確認してみるわ。内緒でね〉
マリアは座ったまま調査をしている。何人もの協力者で構成したネットワークを活用している。「軍」や「組織」の情報も獲得できる。どちらも大きい組織だからこそ隙はいくらでもある、と彼女は豪語する。
「蛍さん……彼氏さんのことだけど。喧嘩がきっかけだったと思う?」
「うーん。実を言うとあまり」
「他に心当たりは?」
「私を守るためだったんじゃないかって今は思っています」
玉髄は言葉に詰まる。思ってもみない回答であった。守るために監禁とはまさに重いわけだが、相手が相手なので否定もしきれない。
「電波暗室の中なら安全でしょう?」
蛍の発言は間違っていない。物理的な破壊はともかく、緊急停止信号や破壊信号に対しての堅牢さは南極都市最高である。だから「守るため」という目的は確かにあり得るのだ。
もっともその「守るため」に閉じ込めた彼女から連絡を受け、彼氏は命乞いまでしてみせたのだが。
「その発想はなかったよ……」
「相思相愛ですから」
ポジティブな発言の連続に、玉髄は目を伏せる。殺し屋や悪徳商人なんかとの会話の方がよっぽど理解できた気がする。彼らの発言は納得も支持もできないが、何を言っているのかは分かった。
(微妙に筋が通ってるのが怖いんだよな)
閉じ込めた結果、蛍は超能力者になった。それはマリアやケント、ルイ――ひいては「軍」と「組織」からの保護を受けることにつながる。
(まして彼女は通信系の能力者――ちょうど空席だ)
無償の奉仕を嫌うマリアが積極的に動いている。蛍を守ろうとしているのは間違いない。玉髄はソファから立ち上がり、二階へと向かう。場合によっては戦闘の可能性もある。
帰還計画は危ういパワーバランスの上に成り立っている。天秤が傾けば、主導権争いは激化するだろう。蛍を確保し、その上で問い詰める必要がある。
(展開次第で――僕も使うことになるかもな)
玉髄は武器庫のドアを開ける。




