テレパスデビュー1
玉髄は悩んでいた。自分の存在価値についてである。もとの世界への帰還を目指し、マリアとやってきた。自分なりの貢献が出来ていると思っていたが、これからは分からない。
玉髄の脳には女の声が響く。
「聞こえてますよね……」
直接、脳に聞こえるのだ。センサーを介さずに、脳に響くのだ。これは感覚だけでなくデータとしても事実である。ゆえにこれは玉髄の問題なのだ。機械が悪いのではない。
玉髄は自分探しの旅でもしようかと思った。
「あの、もしかして落ち込んでますか?」
マリアになんと伝えるか、玉髄は考える。彼女はいつもの椅子に座って、協力者たちとの定期連絡をこなしているのだろう。眼を閉じ、精神に集中している。
「聞こえてるなら返事をしてほしいです」
「何かな」
か細い声で、玉髄は応えた。
「やっぱり! もう、意地悪しないで下さいよ」
「はぁ……」
ため息をついたのは二人同時。マリアと玉髄は顔を見合わせる。
「マリア、もしかして……」
玉髄はソファから腰を上げる。中腰のような半端な体勢で、マリアを見た。
「ええ、幻聴ではないようね」
恐るるべき現実を受け止めた、マリアはそういう顔で言った。
そして二人は胸をなで下ろし、深く座り直す。玉髄は中断していた映画鑑賞に、マリアは協力者との定期連絡の作業に戻る。二人とも遅れた分だけ、集中して取り組む。幻聴じゃないならどうでもいいと言わんばかりである。
そんな二人を気にもせず、
「私は蛍です。えっとよろしくお願いしますね」
不思議な声は名乗った。
蛍と名乗る女性が超能力者であることは疑いようがない。
だが疑わしい点はある――なぜ超能力者であることをバラしたのか――である。南極都市において超能力者は異端である。都市伝説として畏怖される存在なのだ。銃や車には安全装置がある。だが、超能力にはきっとないだろう、というのがプレイヤーの共通認識だ。一部では「ゲームまたは実験の仕様に過ぎない」という意見もある。
「超能力は隠すものだとばかり」
「そうなんですか?」
蛍は不思議そうに問い返す。
「百害あって一利なし、だよ」
玉髄がそう言うと、蛍は感心したように声を上げる。
「すごい、頭良さそう」
つまり実際にどうかは分からないということだが、玉髄は満足げに頷く。それを見たマリアは軽く舌打ちをする。
「それで、なんの用かしら?」
マリアは尋ねた。
「はい。私を見つけて欲しいんです」
「自分探しの旅?」
玉髄をマリアが睨みつける。もう喋るなと、眼で伝える。
蛍が言う。
「違うんです。今、どこにいるか分からなくて……」
「迷子かしら」
マリアは高圧的な喋り方を隠さない。幻聴だと思っていた間に散々罵ったからだ。今さら猫をかぶっても恥をかくのは彼女の方だ。
「そんな感じです」
「マップ機能ぐらいあるでしょう? それを使いなさい」
「オフラインです」
それは、にわかには信じがたい返答であった。
この南極都市において、そうそうオフラインになることはない。
「どこにいるの?」
「分かりません。……私を探して下さい」
そして蛍は続ける。
「多分、棺桶の中だと思います」