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ネズミの王2

 その工場は南にある通天閣(例によって、レプリカ)から車で10分ほどの場所にあった。壁は全面がクリーム色に塗装されている。しかも、周囲には灰色の建物が建ち並ぶばかりで、空き家と思われるものも多い。柔らかい色の工場はとても目立っていた。

「さぁどうぞどうぞ」

 工場の玄関口で、玉髄(ぎょくずい)とマリアを男が手招く。

 遠人(とおひと)と名乗った男は工場長である。黒づくめのスーツスタイルだが威圧感はない。南極都市の多くのプレイヤーがそうであるように彼はハンサムだ。

「ここでは現在12人の社員が共同生活しています」

 玄関に入るや否や、遠人は説明を始める。

「資源の解体や加工といったことが主な作業ですね。手順さえ覚えればお二人にも簡単にできますよ」

「その資源というのは」

 歩きながら玉髄が尋ねた。

「ええ、鉱石生物を含みます」

 南極都市における害獣であり、また重要な資源でもあるのが鉱石生物だ。

「ですので、軍が主な取引先です」

 軍は鉱石生物との戦いとために組織された。彼らは防衛と資源獲得をこなす。メガラニカの中心で怪物を倒し、その死骸からは鉱石が手に入る。

「南方司令部から大通りを通って、死骸が運ばれてきます。そうしたら最初の解体から、最低限の加工までやります。外殻や皮、肉、骨などをバラバラにする作業ですね」

「なんだかすごいです!」

 マリアが興奮したように言った。

「ありがとう。ちょうど、外殻を割る作業をしていますね」

 遠人の視線の先、ガラス越しに鉱石生物が解体されていた。作業用ロボットがせわしなく動く。死骸は四つの足がきちんと残っていた。犬のような頭も、魚のような鱗も、鳥のような羽もついている。

 だが最大の特徴とも言える外殻はそのほとんどが剥がされ、砕かれている。ベルトコンベアーに乗せられ、次の作業員のもとに運ばれていく。

「なるほど。これなら危険はなさそうですね」

 玉髄が言った。不安が消えて、安心したように笑う。

「ええ、マリアちゃんにも立派に務まります」

「頑張ります!」

 マリアがこぶしを作って気合いを入れた。マリアたちは職業体験、という名目で工場に来ている。マリアが玉髄に頼り切りではよくないと思い、仕事をやってみることに。そんな筋書きだ。

〈マリア、大体仕込みは終わったんじゃないか〉

〈宿舎にも必要でしょ〉

〈了解〉

 二人は手早く思念通信を行った。

「ここは泊まり込みでしたよね」

 玉髄は遠人の目を見て言った。

「ええ、そうです」

「私、お部屋見てみたいですっ」

 すると遠人の表情が固くなる。

「うーん。ごめんね。社員の許可を取るのを忘れちゃって。プライベートな空間だからさ。勝手に案内したら怒られちゃうよ」

「では、全員共通の部屋なのですか」

「リビングを通らないと小部屋には入れません。申し訳ないです、準備が悪くて」

「お気になさらず」

 面倒だと玉髄は思った。さっさと()()()()()()を終えておきたかった。とはいえ、派手に動いてはマリアの意に背くことになる。

〈ネズミだけでいいわ〉

〈いいのかい。まぁ、それならすぐに済むけど〉

 玉髄は遠人の死角でネズミを床に投げる。それは音もなく落ち、そして物陰に隠れた。

「では次に……」

 遠人の説明が続く。

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