解放戦――変戦フェイズ
「……どうにもおかしい」
ショッピングモールを占拠した武装グループ――民間軍事会社アレス・アウルムデトロイト支部非公認部隊『フライトポリプ』――のリーダーアルファ1は危機感を無意識の内に感じ取っていた。作戦そのものは順調であるにも関わらず。
迅速な制圧。モニター室の暗号解除。それによる完璧な店内の把握。
モニター室から送られる映像からは店内に潜伏している人物は存在しないということが充分なチェックで判明したのは大きい。
大きい、というのに――
(何だ、この焦燥は?)
彼の胸に湧き上がるのは「終わってしまった」という感情一つだけであった。
それは、誰よりも死線を潜り抜けてきたが故育った直感が今更ながら機能したのかもしれない。
しかし手遅れになっても仕方がないだろう。なぜなら彼らが相手にすることになるのは――
「意識を奪い人形にした兵を俺の能力で操り本陣を誤魔化す」
「その傀儡にした兵を使ってテロリストと義勇軍の動きをコントロールする」
「そして主導権を握っている私たちが有効に動くことによって義勇軍と接触する、ね」
言葉通りの方法で義勇軍と接触し、自分たちの持っている情報を伝えて万全な準備を整えたアルカディア、優世、玖路の三人。
彼らは義勇軍とは別の分隊で遊撃、制圧の時に人質に紛れ込んだテロリストの仲間を精密な攻撃にて無力化する役目が与えられた。無論義勇軍の方もあらかじめ伝えられた情報から伏兵が誰であるか把握しているため無力化を行うつもりだ。
「伏兵は六人。武装は拳銃とナイフを一つずつ。俺たちはそれぞれ二人ずつ制圧していけばいい、か」
「油断して無関係な市民を誤射するんじゃないわよ」
「へいへい。とはいえ問題は……その後の人質の解放と異能者との戦闘か」
「相手はプロだからね。今日アルカディアが戦った生徒とは比べ物にはならないよ」
「それも承知済みよ。義勇軍に実戦経験者が多めだったのはうれしい誤算だったけど油断はしないわ」
フードコートの屋台のキッチンにて玖路の影と同化した体に潜り込んで配置についた三人は世間話をするように、しかしぬかりも油断もなく制圧戦の火ぶたが切られる瞬間を待ち構えていた。
アルカディアは構築式を本の形にして、玖路は影の他に内包する現象を体内で調整、そして優世は展開した黒い刀を無秩序に変形する何かに変えた。
やがて変形は秩序だったものとなり、やがて片方は大鎌であるがもう片方は薙刀の刃持つ両刃の長物へと収束した。
「武器の形をただ変える能力じゃない、か。と言うかそれはそもそも武器なのか?」
「自分でもよくわからないな。ただ少なくとも暴走の危険性はないということは確かだね」
「……」
優世の固有法則を見て何気なく交わされた会話。
しかしアルカディアの沈黙はただそれだけ物のではないと代弁するかのようだった。
銃声が響き渡る。沈黙と空気を破るには十分な音響はテロリストの物ではない。
それはモールを占拠した者が血に飢えた野犬なら彼らは冷徹な警察犬だ。
紺色の防弾チョッキを着て三人のテロリストを蜂の巣にした彼らは銃弾の嵐を作ることを止めない。
そして彼らが人質の集まるフードコートへ流れ込んだ瞬間、アルカディアは『拒絶し依存する愛憎』を伏兵を除いた人質全員に付与した。
銃弾がテロリストを穿つ。人質を意に介さないような銃撃はアレキサンドライトの少女の加護がなければ無辜の死者が出ることは間違いなかっただろう。
やるべきことは変化し、決まった。
アルカディアが別部隊の義勇軍に念話を送る。
「警察も敵だ」、と
優世が暴威に震える者達を庇うように長物を右手に持ち立つ。
盾とショットガンを融合させたような武装を左手に握りながら。
玖路が両武装集団に拳ならぬ一撃を複数同時に放つ。
炎を、雷を、鉄を、様々な属性の刃を宿しながら。
三人は義憤する。
武官と文官の守護者が守護の責務を放り投げたことに激怒しながら。
遅くなって申し訳ありません......