解放戦――決戦フェイズ03
激しい風切り音と金属音が頓珍漢な円舞曲を奏でていた。
召喚獣が、変化する武装が、影の刃が、
触腕が、細胞の銃弾が、悪意ある風が、
三対三の戦場にて、狂想曲へと移り変わりながら破壊と共に謳い上げられていた。
「量子銃弾!!」
「其処ッ!!」
「おらよっと」
アルカディアが凝縮した量子を散弾の如く人型のアルファ1にぶつける。
優世が七支刀の如き鞭でポリプを抉る。
玖路が人を握りつぶせる程巨大な影の掌の貫手にて貫き持ち上げ叩きつける。
共通することは、アルカディアたちの方が有利な戦いを演じられているということである。
この状況においてアルファ1の胸の中に焦りはあれど疑問はない。
目の前にいる学生が、自分たちと同じく幾度もの修羅場と鉄火場を潜り抜けているということは命のやり取りにてすでに理解していた。
故に油断も慢心もせず、ただ合理的に命を狩るだけ。
「フォーメーション08」
「「了解」」
アルファ1が高速移動にてコンバットナイフを頸に振るう。
アルファ2が多数の触腕を多次元方向から伸ばす。
アルファ3が渇きの風を壁の如く吹き付ける。
学生たちは攻撃を止めて防御、回避、迎撃を行う。
アルカディアが量子の魔術防壁にて頸を斬撃から守る。
優世が優れた量子にて身体能力を強化、攻撃の間を潜り抜ける。
玖路が体を影だけでなく焔や雷等の自然現象に変換させて相殺する。
結果、彼らに傷は一つとして存在しない。
だが、隙は三人のうち二人に僅かに生まれた。
「なっ!?」
アルカディアの胸に投擲されたナイフが、優世の頭蓋に銃撃が強襲する。
その攻撃はアルファ2と3の本来の固有法則。
共通して『「攻撃が着弾する直前」という「状況」を差し込む』という物。
驚異的だが注意していれば対処は十分可能。
だが、激戦の最中に発動すれば対処困難の度合いが跳ね上がるのは言うまでもないだろう。
弾丸は弾かれた。だが刃は目標の身体にめり込み命諸共破壊していく。
心臓を破壊され、溢れ出す鮮血により白いシャツが深紅に染まっていく。
アレキサンドライトの少女を庇った、濡烏とアメジストの少年の胸に突き刺さった刃がそれらの結果をもたらす。
倒れる玖路。吠えるアルカディア。悲痛な表情を浮かべる優世。
「目標沈黙。数のアドバンテージを確保。無力化を続行する」
淡々としたアルファ1の声が、アルカディアの憤怒を更に燃やしてゆく。
「……調子に乗ってんじゃないわよ」
今日初めて出会い、ルームメイトとなっただけの相手だった。
だが、それでもウマの合った人物で少なからず好感を抱いていたのは確かだ。
そんな人物が、自分の不手際で理不尽に命を落とした。
それが許せない。殺して相手はもちろん、不甲斐ない自分も含めてだ。
「アンタたちは――」
それ以上の言葉がなかなか出てこない。
許さない。思い知らせてやる。
そんな言葉では陳腐すぎて使えない。
「行くぞ」
優世が黒い武器の切っ先を向けて告げる。
アルカディアと同じく止めどない怒りをみなぎらせながら。
五人が構える。攻撃に移り、致命打を叩きこむために。
刹那の静寂。
破ったのは肉に鋭いものが突き刺さる音であった。
「な、に……!?」
三つのポリプの体を持つ生物が鋭い杭に全身を貫かれて縫い留められる。
黒い影のような杭によって、だ。
「内から焼き尽くせ」
言葉と同時に杭を介してポリプから高温が発生し、やがて瞬時に炎に包まれるほどの発火現象を起こす。
やがて収まると黒焦げであるが、息が僅かに確認できる人類種が三人転がっていた。
「ったく。心臓をやられたのは久しぶりだ。何時でも慣れないもんだな」
まあ、それくらいじゃ再生力で死ねないんだけどな、という言葉と心臓の傷が塞がっている体と共に、けだるげそうな濡烏の髪とアメジストの瞳持つ少年。
千里玖路はピンピンとした姿で事件を解決していた。
心臓を破壊されても死なない少年の謎を提示して、ひとまずは義勇軍の勝利――
遅れて申し訳ないのです。