幕間――暗君の最重要機密、あるいはおとぎ話の端役
フライトポリプが占拠したショッピングモールに公安の特殊部隊が「民間人に死傷者が出ることを厭わず殲滅せよ」の命を受けて突入した時と同時刻――
とある会議室にて、法と権威の盾に隠れる暗君たちが安堵の息をついていた。
暗君と言ったが彼らは交差世界では決して強者の立場にはいない。
異能を持たず、信念も矜持も持たず、ただ基準世界の日本にて社会的強者たる今の自分を守るだけの、さかしまの愚か者たちだ。
「いやはや、どうにか最重要機密の露呈は免れたようですね」
「民間人に危険を伴うことになりましたが、しかたない事でしょう」
「異能を持たざる我らの国を守るために必要な犠牲ということで」
聞いただけで胸の悪くなるような、保身と虚飾にまみれた言葉が飛び交う。
彼らに指導者としての責務など存在しない。ただ権威の旨味を得るだけに腐心する、生きて自我のある死骸人。
それが彼らの在り方だった。
「おや?」
「どうしましたかな?」
「民間人が突入部隊と交戦しているようです」
その言葉を聞いて会議室の主はスクリーンを起動するよう命じた。古代ローマのグラデュエータ―、その観客に洒落こもうとしているのだ。
やがて映し出された映像を見て、大きな感情がその場にいた全員に襲い掛かった。
三人の少年少女が、鍛え上げられた鋼鉄の兵士たちを歯牙にもかけずになぎ倒しているその映像を見たことによる恐怖と焦燥が、死骸人たちに。
そしてもう一つの感情を抱く者は――
「まずい……!! かの戦争屋たちを皆殺しにして悪役にしないと我々はおしまいです!! 無事に人質全員が解放されるなんていい話で終わらせるわけにはいかないというのに……!!」
「す、すぐに増援を送らせろ!!」
「すでに送り込んでいるようです!!」
半狂乱になりながら事態を悲劇の終わりに修正しようとする喰骸人ども。
しかしそれ以前に、この突入は失敗に終わるのが当然だった。
突入部隊は常識の範囲内でしか鍛え上げておらず、異能者が存在しないのだ。
不意をつけてフライトポリプの二、三人小間使いを倒せようが、一軍相手にはほぼ無力だ。
つまり、彼らの命運はアルカディアたちが関わって来なくともとうに尽きていたのだ。
加えて言えば、彼らに残されている時間はもう三分とて存在しない。
彼らが行ってきた愚行と悦楽の報いが、この時間にてついにやってきた。
大規模な警備を真正面から誰とも戦闘を行うこともなく潜り抜け、静かに会議室の扉を開けて、来たのだ。
――13分後。
会議室から出てきた暗君たちの死神は電脳と心理、どちらの視線と記憶領域にも彼女の情報を伝えることなく普通に通路を歩き、正面入り口から出て、門から市街地に出て三分立てば、通行人の誰もが白いセーラー服に身を包んだ地味だがかなり容姿の整った色素の薄い髪の少女としか思わなかった。
朝のワイドショーにて
一般市民の勇気ある行動が犠牲無き結末を迎えられたと言って良いでしょう。次のニュースです。内閣官僚を含めた八人が会議室にて殺害されていた事件について、現場には官僚の不正行為が記された資料が押収されており――
遅れてすみません。幕間、序章が終わる時の次の物語、その小話。