ショウウィズ2-1話
アマカが初めてのライブをしてから時が経ち、彼女は2年生に進級した。
リン「今年も同じクラスだね」
教室の中でリンはアマカに声をかける。
アマカ「うん、またよろしくね」
リン「そういや歌はまだやってるの?」
アマカ「うん、とりあえずアカウントは登録したけど・・」
リン「ふーん・・ねえここで歌ってみてよ」
アマカ「え?」
リン「結構練習したんでしょ?」
アマカ「したけど・・教室で大声出すのはちょっと、ダンスするにも狭いし」
リン「ケチくさいなぁ」
アマカ「じゃあ一緒に練習場所に来る? ちょっと遠めの河の方でやってるけど」
リン「そんな興味はない」
アマカ「人に頼んできてそれ?」
リン「この場でちょっと歌うかなって思っただけだし」
リンの態度に少し呆れながら外の景色に目をやる。
アマカ「あ、屋上ならできるかも」
アマカの提案にのって屋上へ足を運ぶ二人、幸いな事にアマカがダンスできるだけの広さは十分にあった。
アマカ「それじゃ歌うけど、この曲でいい?」
アマカは自分のホロフォを操作し、リンに曲を聞かせた。
リン「ん? ああテレビで聞いたことあるかも」
アマカ「この曲の振り付けなら練習してるし、知ってる曲の方がいいでしょ?」
リン「じゃあそれで・・」
それを聞いたアマカは声の入ってないバージョンの曲に変えて『ドリームエンド』を歌った。
歌い終わるとリンはアマカに拍手を送る。
リン「おお、上手いじゃん」
アマカ「ありがとう。あれ・・?」
アマカはリンの向こう側、屋上の入り口に制服を着た一人の男が立ってるのに気が付く。アマカの様子に気づいたリンも屋上の入り口に目をやった。
アマカ「こ、こんにちは」
男「下手だな」
リン「ちょっと! 勝手に聞いた上にそれって酷くない」
男「俺の方が先に来てたよ、おまえらが気が付かなかっただけ。カラオケしたいなら店にいけよ」
そう言うと彼は大きなバッグを肩にかけ学校へ入ろうとする。
アマカ「あの! 私って下手ですか?」
男「お前の友達に聞けよ、終わるのが寂しいか」
そう言い残して男は学校の中へ入っていった。
リン「あいつ、同じクラスの奴だ。きっとつけてきたんだ、気をつけた方がいいよ」
アマカ「・・多分、あの人の言う通り先に来てたんじゃないかな?」
リン「えー! 何でそう思うの?」
アマカ「私も、好きな人の歌が終わっちゃう時が寂しい、っていうのわかるから」
アマカはいつもの練習場所へ一人で来るとそこにいたチヅに話しかけた。
アマカ「私ってまだまだ下手なんだね」
チヅ「どうしたの? 突然」
アマカ「ある人に言われたんです、下手だって」
チヅ「友達?」
アマカ「いえ、全然知らない人なんだけど、確かにそうだなって。私、この前チヅとしたライブで応援してもらえて、ちょっと浮かれてたかも・・」
チヅ「・・確かにアマカは下手かもしれない。でもそれはアマカがまだまだ伸びる事ができるって事」
アマカ「うん、上手になれるように頑張る」
チヅ「それにね、ライブは上手いだけじゃ駄目なんだよ」
アマカ「そうなんだ・・」
チヅ「今度の日曜、楽しみにしててね」
アマカ「日曜? ライブの予定とか入れてたっけ?」
アマカは聞いたがチヅはそれ以上答えなかった。
そしてチヅから説明がないままアマカは日曜日を迎えた。
アマカ「そろそろ教えてくれてもいいんじゃないの?」
といつもの河原で彼女はチヅに聞いた。
チヅ「今日、ウィザーが来るんだ。二人」
アマカ「ウィザーって、私やチヅみたいにライブしてる人だよね?」
チヅ「そう『ビーグロウ』っていうユニット組んでる二人、アマカと同い年だから話しやすいと思うよ」
アマカ「その二人は何しに来るの?」
チヅ「その二人のユニットに私を入れてもらおうと思ってね」
アマカ「え? チヅはその人達とライブするって事? 何で?」
チヅ「それは・・、と来たみたいだね」
チヅは河原に面した道路の方を見る。そこには一台の黒いリムジンが止まっていた。
リムジンからスーツ姿の運転手が現れ、彼は後部座席のドアを開いた。
そこから降りてきたのは普通のアマカと同じ少女、と高価な服を身に着けた近寄りがたい雰囲気を持つ背の低い少女だった。
二人はチヅ達の元へ向かうとお辞儀して挨拶した。
コウナ「ごきげんよう、私がビーグロウの白藤院光那ですわ」
ホマレ「高崎 穂希です」
コウナは丁寧に挨拶し、ホマレは淡々と挨拶した。
チヅ「こんにちは、私がハスト チヅです。そしてこちらはアマカです」
アマカ「こんにちは」
コウナ「では早速ですが、本題に入らせていただきますわ。ハストさんとアマカさんが私達『ビーグロウ』に加入する。という事でよろしいですわね」
アマカ「え? 私?」
チヅ「うん、あとはこっちの約束を守ってくれればいいよ」
アマカ「ちょっと待って! 何で私もチームを組むことに?」
コウナ「あら? お話してませんの? 感心いたしませんわね」
アマカ「そうだよ。話す時間あったでしょう」
チヅ「ごめんね、アマカには二人の事を意識したまま練習して欲しくなかったから」
アマカ「どういう事?」
チヅ「私がこの二人とチームを組むとね、アマカと練習する時間が無くなっちゃうでしょう? だけど一緒に入ればそのまま練習できるって思ったの。間近で見るのは参考になると思うの、お互いにね」
コウナ「私としてはライブが下手な方はご遠慮したいのですが?」
チヅ「確かにアマカはあなた達より技術は劣る、けどあなた達に無いものを持ってるよ」
コウナ「あら、それは何です? お二人のライブは以前、拝見いたしましたが、気づきませんでしたわ」
チヅ「百聞は一見に如かず、見て分からないのは聞いても分からないよ」
コウナ「それは、私には一生分からないとおっしゃりたいのかしら?」
チヅ「そんなつもりはないよ、間近でちゃんと見れば分かると思うよ?」
コウナ「・・まあ、私の事はいいですわ。結局あなたはどうしますの?」
アマカ「私?」
コウナ「ええ、『ビーグロウ』に入るのかどうか、決めて頂けませんか?」
アマカ「私は、あなたの言う通り下手だから、だからまだ練習しなくちゃいけなくて・・うん、チヅについていく」
チヅ「それじゃあ決まり」
コウナ「それではよろしくお願いしますわ、お二方」
チヅ「あ、一応こっちの出した条件なんだけど」
コウナ「『来年の四月までチームを解散しない』ですわね。私もタカサキさんも問題ありませんわ」
チヅ「そう、よかった。じゃあ改めてよろしくね」
ホマレ「お願いします」
アマカ「はい、お願いします」
コウナ「それでは早速練習いたしませんとね」
そう言ってコウナは踵を返して、リムジンの方へと向かう。
アマカ「あれ? どこ行くの?」
コウナ「皆さんもお乗りください、私の家にご案内いたしますわ」
コウナに誘われてアマカ達はリムジンに乗り込む。
静かに走り始めた車内でアマカは口を開いた。
アマカ「あの、家でダンスなんてできるの? 隣の人とかに迷惑じゃない?」
コウナ「ご心配いりませんわ。私の家のダンスルームは十数人は踊れますし、防音設備もしっかりしてますわ」
アマカ「そうなんだ。ところで、二人とも私と同じ年って聞いたんだけど?」
コウナ「私たちは白菖蒲学園中等部の2年生に在籍しておりますが・・」
アマカ「そっか私も中学の2年生なんだ。よろしくね」
コウナ「ええ」
アマカの言葉にコウナは一言答え、ホマレは頷いた。
アマカ達を乗せた車はビルの一階にある室内駐車場で停車する。
コウナ「着きましたわ」
アマカ「着いたって? このビル?」
コウナ「ええ、ここが我が家です」
コウナはそう言うと運転手に開けてもらったドアから車を降りて、目の前のエレベーターに向かう。
ホマレ「こっちです」
ホマレはコウナの後についていきながらアマカ達に言った。
チヅ「すごい所だね」
とアマカに耳打ちする。
アマカ「チヅもそう思ってたんだ」
チヅ「そりゃそうだよ」
アマカとチヅはコウナ達のいるエレベーターの中へと入り、コウナはエレベーターのスイッチを押した。
コウナ「さあ着きましたわ」
そう言ってコウナが案内した場所は壁一面が鏡張りで四隅にスピーカーのついた広いダンスルームだった。
コウナ「今までここで二人で練習していましたわ」
アマカ「・・ここ、本当に使っていいの?」
コウナ「もちろんです。お母様の許可も得ておりますわ」
チヅ「それじゃ、早速ここで練習しようか? 二人の実力、直に見たいしね」
コウナ「奇遇ですわね、私もあなたの実力知りたいと思ってましたわ」
アマカ「ここって曲とかかけられるんですか?」
ホマレ「このケーブルを使えば自分のホロフォでスピーカーから好きな曲がかけられますよ」
ホマレは部屋の入り口近くから伸びるケーブルを掴む。
アマカ「分かりました。えっと・・タカサキさん? ありがとうございます」
ホマレ「どういたしまして」
ホマレはアマカと一緒にホロフォを操作して、チヅ達からリクエストされた曲をかけて練習した。