1-2話
アマカとチヅが出会った、次の日
アマカは学校を終えた後、制服姿のまま昨日来た河原にやってくる。そこには既にチヅの姿があった。
アマカ「あの、こんにちは」
アマカはチヅの元まで来て声をかける。
チヅ「あ、昨日の・・、もう来てくれたんですね」
アマカ「はい」
チヅ「・・何か私に話したい事があるんですか?」
アマカ「え?」
チヅ「昨日私と話したそうに見えたから。それに今も、早く私に会いたくて来たみたいだったので」
アマカ「・・あの、お願いしたい事があるんです」
チヅ「お願いですか?」
アマカ「私に歌を教えてもらえませんか?」
チヅ「歌を?」
アマカ「駄目、ですか?」
チヅ「いいけど一つ聞かせてもらっていいですか」
アマカ「何でしょう?」
チヅ「どうして私に教えてほしいんですか?」
アマカ「昨日の歌ってる姿が綺麗でした、それに・・」
チヅ「それに?」
アマカ「私の言う事聞かなかったアマキがハストさんの歌を聞いて簡単に言う事を聞いたから、私もそういう事ができるようになりたいんです」
チヅ「そう。それじゃよろしく。・・えっと、名前なんでしたっけ?」
アマカ「アマカです、敷島 天果」
チヅ「それじゃよろしくね、アマカさん」
アマカ「あの、ハストさん。私に敬語じゃなくていいですよ、私見ての通り中学生ですし」
チヅ「アマカさんも敬語じゃなくていいですよ、私も中学生ですから」
アマカ「え!? そうなんですか?」
チヅ「背が高いからよく勘違いされるんですけど、まだ中学二年ですよ」
アマカ「あ、私は中一です」
チヅ「そうですか、でもこれから一緒に歌っていきますから互いに敬語は止めていくようにしましょうね」
アマカ「は、はい。・・あのチヅさん、今私服ですよね? 制服とかじゃないんですか?」
チヅ「私、一回家に帰ってますから。近いんですよ、ここから」
アマカ「そうでしたか」
チヅ「それじゃ早速歌の練習しましょうか」
チヅはそう言うとバッグから箱状の機械を四つ取り出すとアマカがいる場所を中心に四方へ並べていく。
アマカ「あの? 何ですかそれは?」
チヅ「これで音が外に漏れないようにするの。ここは人があまり来ないけど、人通りが多い公園や公道とかだと歌が迷惑になる事もあるから」
アマカ「そうなんですか? 綺麗な歌なのに・・」
チヅ「ありがとう。でも時には歌を聞きたくない気分になる人もいるの。周囲に気を使うのは大切よ、特に歌はね」
アマカ「はあ・・」
チヅ「あと、この『エムデバ』・・この機械には他の機能もあるの、音楽を流したり・・」
チヅは服から自分のホロフォを取り出して操作する。
するとアマカの前に本物と見違えるほど精巧なピアノのホログラムが出された。
アマカ「わっ!」
チヅ「こういう風に立体画像が出せるの、しかもそのままピアノとしても使えるのよ」
そう言うとチヅはホログラムピアノの鍵盤を叩く。それに伴いピアノの音が鳴り響いた。
アマカ「へー、すごいですね」
アマカがピアノに手をかけようとするとアマカの手はピアノをすり抜けた。
チヅ「ふふ、本物そっくりでしょ?」
アマカ「ちょっとびっくりしました」
チヅ「まずはこれで歌の練習、ピアノの音に合わせるの」
そう言うとチヅはドレミファソとピアノの鍵盤を一つづつ叩きながら、その音程に合わせて声を出した。
チヅ「さあ、次はあなたの番」
アマカ「はい」
アマカはチヅから歌の他、ダンスを教えられ数か月の時が流れた。
少女「アーマカ!」
アマカ「チヨ、どうしたの?」
アマカは自分が通う学校でクラスメートである八月一日 鈴に声をかけられた。
リン「アマカ、最近ホロゲー(ホログラムフォンでやるゲーム)にインしてないよね? 何か他に面白いゲーム見つけた?」
アマカ「ああ、ゲームじゃないんだけど」
リン「何やってるの?」
アマカ「歌とダンス、練習してるの」
リン「歌とダンス? アマカが? 何で?」
アマカ「私も歌いたいなって」
リン「何? 憧れのアイドルでも見つけたの?」
アマカ「アイドルじゃないんだけど・・リンはショウウィズって知ってる?」
リン「何それ?」
アマカ「詳しくは知らないんだけど、歌とダンスを投稿するサイトなんだって」
リン「ひょっとして投稿してるの?」
アマカ「いや、まだした事ないけど・・」
リン「じゃあそこに憧れの人がいたんだ?」
アマカ「うん、知った順番は逆なんだけど・・」
リン「逆?」
アマカ「えっと、ハスト チヅって人でね、結構前に出会って、最近ショウウィズに出てる人だって知ったんだ」
リン「ショウウィズ、ハスト チヅ、っと」
リンは自分のホロフォを取り出して検索する。
リン「この人?」
リンは画面に映し出されたチヅの顔を見せる。
アマカ「うん、そう」
リン「アマカはこの人が好きなんだ」
アマカ「そんな感じ」
リン「ショウウィズ面白い?」
アマカ「え? さあ、まだ名前知っただけだから」
リン「え? だってこのチヅさんが好きなんでしょ?」
アマカ「だから、ショウウィズで知ったんじゃなくて直接会ったの、直接」
リン「ああ、そうだっけか。でもよく知り合ったね、私達と10才くらいかけ離れてそうじゃん」
アマカ「チヅさんは一年先輩の中学生だよ」
リン「え、あ、ほんとだ14才って書いてある」
アマカ「ともかく、今その人から歌とダンス学んでるんだ」
リン「ふーん、それをゲームやめちゃうくらい熱中してるんだ」
アマカ「うん、そう」
リン「それじゃ、動画上げたら教えてね」
アマカ「うん、分かったよ」
その日の放課後もアマカはチヅと共に歌の練習をしていた。
アマカ「フィフティーサニーデー!」
アマカは一曲歌い終える。するとチヅは彼女に拍手した。
チヅ「上手くなったね、アマカ」
アマカ「そう、かな? まだまだチヅさんに追いついてない気がするけど」
チヅ「私は何年もやってるからね、アマカはこの数か月でずいぶんうまくなったよ。もう一人前って感じ」
アマカ「ありがとう」
チヅ「・・アマカはショウウィズってサイト知ってる?」
アマカ「あ、うん最近知ったけど」
チヅ「私、それに出てるんだ」
アマカ「うん、最近知った」
チヅ「そう、じゃあここから本題。アマカもショウウィズに出て」
アマカ「え!? 私が!?」
チヅ「そう。今度の日曜にやるライブ、私と一緒に出てほしいの」
アマカ「え、でも私まだまだだし、一曲しか歌えないし」
チヅ「いいんだよ、ラスト一曲だけ一緒に出てくれれば」
アマカ「あの・・私が歌を始めたのはチヅさんみたいになりたくて」
チヅ「うん」
アマカ「・・だから正直ショウウィズには出たいけど、本当に私と一緒でいいの?」
チヅ「私から頼んでるんだから気にしなくていいんだよ。私はアマカと一緒に出たい」
アマカ「チヅさんは何で、私と一緒に出たいの?」
チヅ「それは、それがアマカの為になると思うから。もっとアマカの歌を輝かせてあげたいと思ったの」
アマカ「私の歌が輝く?」
チヅ「うん、ショウウィズに出て、聞かせる人がいる事で歌は輝くんだよ。練習してるだけじゃ駄目なんだ」
アマカ「・・分かった。私、一緒に出る」
チヅ「うん、よろしくね」