1-1話 「ファーストライブ」
冷たい風を肌に感じながら、少女 天果は街灯で照らされる住宅街の中を歩いていた。
アマカ「天樹、どこ行ったの」
出かけてから家に帰ってこない弟のアマキを探し、公園、学校、弟がいそうな場所は既に探し終え、当てもなく歩いていく。
その時、アマカのポケットから携帯電話の音が鳴った。
彼女はポケットからホログラムフォン(ホログラムを空中に映し出すことができるスマホ、以降はホロフォ)を取り出して電話に出た。
ホロフォからアマカの母親の画面が映し出される。
アマカの母「アマカ、あとは私が探すからもう帰りなさい」
アマカ「もうちょっとだけ探す」
アマカの母「駄目よ、あなた家から離れていってるじゃない」
アマカ「GPSで場所分かるんだからまだいいじゃん、9時になったら帰るから」
アマカの母「あ、ちょっと・・」
アマカは電話を切り上げて弟探しを再開した。
弟を探すうちにアマカは普段来ない河原にまで足を運んでいた。
その時、ふとアマカの耳に歌が聞こえてきた。
犬の♪おまわりさん♪困ってしまって♪
そんな歌が聞こえ、アマカは河の方を見る。そこには一人の女性とその前でうずくまる弟アマキの姿があった。
アマカ「アマキ!」
アマカは弟の方へと走っていく。
アマカが近づくと歌っていた女性は歌うのをやめてアマカの方へ振り向いて微笑んだ。
チヅ「こんばんは」
アマカ「こ、こんばんは」
チヅ「この子のお姉さん?」
アマカ「そうです」
アマカは弟に手を伸ばし、肩に手を置いた。
アマカ「携帯くらい持ちなさいよ。ほら帰るよ」
アマキはアマカの言葉に反応せずうずくまっていた。
アマカ「アマキ? どうしたの?」
チヅ「・・アマキくん、帰りたくないの?」
アマキ「・・うん」
アマカ「え!? 何で?」
とアマカは聞いたがアマキは答えなかった。
チヅ「家出するの?」
アマキ「・・うん」
アマカ「家出って・・」
チヅ「お姉さんも座りませんか? 疲れたでしょう?」
そう言いながらチヅはアマキの隣に座る。
チヅに促されたアマカもアマキを挟んで座った。
アマキの体がわずかに震えているのを見たアマカは自分の上着を一枚アマキに羽織らせた。
チヅ「・・アマキくんはどうして家出するの?」
アマキ「これ・・」
うずくまっていたアマキは自分の手の中にあったものを見せる。
それは綺麗に二つに割れた鳥の形をしたクリスタルだった。
アマカ「それ、お母さんとお父さんが大事にしていたやつ・・」
チヅ「そっか、二人に怒られると思ったんだね?」
チヅの言葉にアマキを首を振る。
アマキ「お母さん達が悲しむから・・」
アマカ「そんなので悲しまないよ」
アマキ「これはお父さんがお母さんに初めてプレゼントした奴なんだ! 悲しむよ!」
アマキは強く叫ぶと目に涙を浮かべた。
アマカ「そんな事より・・」チヅ「確かに悲しむかもね、でも二人がもっと悲しむことがあるよ」
アマキ「・・何?」
チヅ「一番大切な物がかえってこない時だよ」
チヅは立ち上がるとアマキの前に立つ。
チヅ「こんな歌があるよ」
ポンポンポン、あなた聞こえるかしら
ポンポンポン、私のお腹を打つの
ポンポンポン、二人の大切なもの
おはよう・・
歌うのをやめてチヅはアマキに聞いた。
チヅ「続き、分かる?」
アマキ「・・赤ちゃん」
チヅ「アマキくんの事だよ」
アマキ「うん」
チヅ「アマキくんが帰らないと二人とももっと悲しむよ、ここまで探しに来たお姉ちゃんもね」
アマキ「・・うん」
アマカとアマキの母「アマキ!」
アマカから連絡を受けて家で待っていた母はアマキの姿を見て彼を抱きしめた。
母「良かった、心配したのよ」
アマカ「あの、ありがとうございました」
アマカは一緒について来てくれたチヅに頭を下げる。
アマカとアマキの父「息子を見つけてもらってありがとうございます」
チヅ「良かったです、無事に済んで。それじゃあ私はここで失礼します」
アマカとアマキの父「よければ送りますよ。もう暗いですから」
チヅ「いえ、大丈夫です。アマキくん」
チヅに呼ばれアマキは振り向く。
チヅ「頑張って」
笑顔で手を振りながらチヅはアマカ達から離れていく。
その時、アマカはチヅの元へ駆け寄っていった。
アマカ「あの! すみません。お名前聞いてもいいですか?」
チヅは立ち止まるとアマカの方へ振り向いて言った。
チヅ「蓮渡、蓮渡 千津です」
アマカ「また会えますか?」
チヅ「私、あの河原によくいるから、来れば会えると思いますよ」
アマカ「じゃあ今度行きます」
チヅ「はい、それじゃまた」
アマカ「さようなら」
去っていくチヅにアマカは大きく手を振った
アマキ「お父さん、お母さん、あのね・・」
家の中に入ったアマキは両親に話しかける。そして手の中にあった鳥のクリスタルを見せた。
アマキ「壊してごめんなさい」
アマキはぎゅっと目を閉じて頭を下げた。
そしてアマキの手の中にある壊れたクリスタルを見た二人は笑った。
父「何だ、アマキも壊したか」
アマキ「え?」
アマキは顔を上げて二人を見た。
母「それね、お姉ちゃんも壊したのよ」
アマカ「え? 私が壊したって?」
母「覚えてない? アマカが四歳の頃よ」
アマカ「いや全然、覚えてない」
父「元々は鳥のカップルでね、二羽いたんだよ」
母「それで片方はアマカが落として壊したのよね」
笑う両親の姿を見てアマキはほっとする、そして。
アマカ「えー? それ本当?」
不満げな声を出す自分の姉を見て、アマキは笑った。