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もし、明日が来ないなら  作者: 淺田亮介
3/5

~第三話 図書室~



3話


夏休みに海に行く約束をした日は思ったよりも疲れが溜まっていた。しかも窓側の席はカーテンをしていても暑さが伝わる。あまり授業に集中できない。昼休みに大河は寝ていると、声をかけられた。

「ねぇ、真中君は佐倉さんと仲良いの?」

といきなり起こされたので、大河はめんどくさそうに答えた。

「いや、そんなに仲良くない」

と大河が答えても、質問をした濱野智也(はまのともや)はあまり納得していない。

「本当に何にもない」

と大河が付け加える。そもそもこういう事は昔からよくあった。佐倉に振られた人は大体、大河に佐倉との関係を聞く。大河には、このやり取りの意味が分からない。

そもそもなんで俺がそんなに疑われるんだよ、普通は学と佐倉の関係を聞けよ、

と大河は昔から思っていた。

「なら何で佐倉さんはオレを振ったんだよ」

と切れ気味で言いながら、濱野は教室を出て行った。

しかし、二組のスクールカーストの頂点に君臨するグループの人から告られるとはすごいな~と大河は思っていた。ちなみにこの学校の二年生は四組あり、佐倉と学は一組、大河は四組だ。

そんな事を考えて窓の外を見た。クラスの窓側は特等席だ。それは授業中に外の景色を見ることができる。つまらない授業中には丁度いい気分転換となる。

五限と六限の授業が終わり、ホームルームも終わると大河は図書室に向かった。ここ二ヶ月は放課後は図書室で時間をつぶしている。三階の図書室に着くと、一番後ろの席に座り勉強を始めた。そろそろ期末テストがあり、このテストの結果で前期の成績が決まる。なので、それなりに対策をしなくてはならないのだ。

真面目に大河が勉強をしていると席の反対側にドンと荷物を下ろす音がした。

「大河、また勉強かよ」

と学はめんどくさそうに聞いた。

「まあな、俺はお前みたいに元から頭がいいって訳じゃないんだよ。力がないヤツは努力しかないんだよ」

と大河は言った。

そう学は授業を聞いたら大体の事は理解出来るらしい。

「俺にはあまり分からないな~。少し勉強したらいい点は取れるからな」

と学が素っ気無く言う。

おいなんだよ、一生懸命勉強している俺がバカバカしく思うだろうが。まぁ俺は学のように頭が良くないからな、何にも言えねぇな。

学は更に続ける。

「今日は何時まで学校にいるんだよ。今日もあれを作らないといけないからな」

「そうだな、早く完成させないとな、まぁ六時ぐらいに帰るよ」と大河が答える。

「そっか、分かった」

と学は言い、スマートフォンを取り出してゲームを始めた。

おい、この学校は携帯電話は持ち込み禁止なんだよ、と大河は思った。

「そう言えば、今日クラスで二組の濱野に、また佐倉との関係を聞かれたんだが。佐倉また告られたのか?」

と大河が学に聞いた。学はスマートフォンを置いてため息をついた、その後答えた。

「そうなんだよな~、咲のヤツまた告られたんだよ。今回は二組の濱野君。サッカー部のストライカー、二年でスタメンで試合に出ているスーパスターなんだよ。何で断ったのかは見当がつくしな」

サッカーの話が出てきたので大河は気になっていた事を聞いた。

「何で学はサッカー部に入らなかったんだ?」

「俺はな、自由がいいんだよ。くだらない事で時間を使いたく無いんだよ」

「スポーツはくだらない事なのか」

と大河が鋭い視線で聞く。

「言い方が悪かった。俺がくだらないってのは、仲間の為に自己犠牲をする事。そして誰かのミスをドンマイと言って罪意識をなくす。まぁ、それは自分がミスした時の自己保身なんだろうけど」

と学が色々と不満を言い出した所で大河が止めた。

「おい、話の論点を変えるな。質問に答えろ。何でサッカーをしないんだよ」

学は少し答えるのを躊躇いながら言った。

「簡単なことだよ。俺にはチームプレイは合わなかったんだよ」

確かにな。学には向いていない。

「色々あるんだな」

ここは共感してはいけない。と大河は思った。

「サッカーをする時間よりも、大河達と遊んだほうが面白いし、楽しいからな」

と学は笑顔で言った。

「そうか?佐倉はともかく、オレと居ても面白くないだろ」

大河は少し笑いながら言った。学はため息をついた。

「そんな事はないだろ」

学は下をお向いて、少し元気がない声で言う。下を向いた学に夕日がさす。大河はこんな姿に見覚えがあった。いつだったかはお覚えていない。

でも確かなのは、こんな顔を見たのはその時以来だろう。

その後、黙々と勉強をした。気づくと六時を回っていた。

「学、もう帰ろう」

と大河は笑顔で言った。学もニコッと笑い。

「帰るか」

と立ち上がり、言った。図書室の中には管理人の人しかいない。出る時に挨拶をして二人は階段を下りる。

「なぁ、今日は俺んちでメシ食おうぜ」

階段を下りて靴箱から靴を取り出す時に大河は学に言った。一人暮らしをしている大河の家に集まることが大半だが、いつも七時になると必ず解散する。昔からの暗黙のルールだ。なのでご飯は一緒に食べることはない。

突然の誘いに学は躊躇なく答えた。

「良いよ。咲も呼ぼうぜ」

「そうだな」

と二人は笑顔で言う。

こんな風に学と笑うのは何年ぶりだろう。俺たちの関係はきっと環境によって変えられてしまったのだろう。そして俺も変えられた。本当の自分を隠してしまったのだ。

そして拒絶した。俺は怖かったのだろう、距離が近くなるとその分。失った時がつらいから。

そしてなにより、裏切られたのように感じるから。

                                                       









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