表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界最強は大家さんでした  作者: つよぐち2号
PR
49/59

ノリちゃんとおままごと パート2

「あー たまにはこんなのもいいよなぁ~~~」


 足早に中央通りへと急ぐ人々を眺めながら、俺は何の気無しに呟いた。

 道を行きかう人々は、何とも言えぬ仄かな期待を笑顔に込めながら、足早に中央通へと急いでいる。

 今日はこの国にとっては特別な日だ。

 建国記念日。

 国家という巨大なコミュニティが建国を祝う事は、この世界でも元の世界でも珍しい事では無い。

 俺みたいな他国民、いや、異世界住民にとってこの建国祝賀が身近だとは言い難いが、それでも普段お世話になっていることに感謝しようくらいの道徳は俺にもあった。

 それに、今日はただの建国記念日ではない。今年12歳になる皇国第4皇女、リタ・グングニルのお披露目式を兼ねているのだ。人々の期待の理由はそれだ。


 実際のところは、勇者である俺に容赦のない金的攻撃を加え、さらに変態じいやのじいや自身を躊躇なく撃ち抜く豪快なお転婆姫であるが、この国の人々にとっては、見目麗しい天上4姉妹の一人であることに変わりはない。


「今日は…… メシどうしようか……。ドロテアさんが餓死しないほどの在庫あったっけ……」


 今日は市場も商会も露店も、ギルドすらも休業なので、俺みたいな木っ端冒険者が出来るようなことは何もないし、食料が足りなくとも我慢するしかない。

 ドロテアさんが来てから跳ね上がったエンゲル係数に悲鳴を上げつつ、「……栄養はすべておっぱいに行く」と言われてしまったからには、歯を食いしばってでも黙って食料を調達するのが男の甲斐性だ。哺乳類は例外無くそういうふうに出来ているのだから。

 視線を部屋に戻すと、ドロテアが部屋の隅で逆立ちするようなアクロバティックな格好で昼寝をしている。

 谷間と呼ぶには凶悪過ぎるほどの深い亀裂を目の当たりにして、重力という名の神に祈りを捧げる所存だ。

 うへへへぇ~ と、やましい薄ら笑いを浮かべながらベッドに目をやると、先ほどまで天使のような寝顔を晒していたノリちゃんが、じぃ~っと俺の様子を伺っていた。


「の、ノリちゃん! 違うんだっ! これは俺のDNAに宿る本能でっ―――」


するとサッと顔を伏せ、寝たふりを始めてしまうノリちゃん。

 寝たふりをするノリちゃんは初めて見る。くーくーと、寝ていますアピールをしているが思いの外へたくそで可愛いのだが、俺は焦りに焦っていた。

 ノリちゃんが見なかったフリをするほど如何わしい笑みを浮かべてしまっていたというのか。それはよくない。教育上良くないし、何より彼女にそんな目で見られたくない。


「の、ノリちゃ~ん? 起きてるのかな~?」

「くーくー」


 俺は意を決して少しだけ難しい話をすることにした。


「ノリちゃん。あるじ今からメンデル博士の偉業を絡めた人間の社会学的行動パターンについて解説しようと思うんだ。そもそも哺乳類っていうのはね、母乳がよく出そうな異性に惹かれる傾向が―――」


 先程の行動は遺伝子に刻まれた本能的行動であって、これは♂ならば決して避ける事の出来ない生まれながらのSAGAなので、決して変な妄想をしていたとかそんなことではないんだよ?

 

 滔々と語りはじめた俺だったのだが、隣の部屋から聞こえてくる壁に爪を立てる様な異音が気になって中断する。途端に聞こえなくなったので再開すると、またもやギーギー変な音がした。

 どうしたんだろう。まさかこれは噂に聞くニートスキル『腹減ったからメシ持ってこいや』なのだろうか。

 あんなに凛々しくかっこよかった女戦士がどうしてこんなことに……

 軽く頭を振って諸行無常を痛感していると、ベッドのほうから声が上がった。


「あ、あんなー あるじは…… おつかれさまんさ……?」


 うつ伏せになりながら、上目づかいでチラチラこちらを覗う天使様。

 ああノリちゃん。なんで君はそんなに可愛いんだい? あるじ君の笑顔だけでご飯がいっぱいたべられるよ。

 顔面の筋肉がストライキを起こしたのがわかったがしょうがない。合法的組合活動は許容するのが文明人だ。

 そんな事よりノリちゃんが何か言いたそうに口を開いては閉じているのが気になる。

 彼女がこんな仕草をするのは、決まってやりたい事を口に出来ない時だ。彼女の保護者としてそれは放っておくわけにはいかない。


「あるじ疲れてないよ? ノリちゃんどうしたのかな?」

「うんとなー あるじ、きのう『ゆっくりやすめるー』ってゆってなー」


 チラッと俺を見て、ボフッと毛布に顔を埋めるノリちゃん。

 俺はそれでピーンときた。

 何という事だろう。彼女は俺と遊んでほしいのだ。

 

 最近、罪滅ぼしのような気分で西街の復興に参加してはずっと走り回っていて、今日は久しぶりの休みだった。

 丁度建国記念日で復興作業が休みとということで、昨日は3人で晩ご飯を食べながら、今日は一日中ごろごろする宣言をしたのだ。

 ノリちゃんはお尻をぷりぷり振りながら「ごろごろごーろ ごーろごろー♪」と嬉しそうに歌っていたし、ドロテアは「……生物学的には疲れた時がチャンス」とワケのわからない事を呟きながらノリちゃんと一緒にお尻を振っていた。

 

 ノリちゃんはそんな俺の疲れに気付いたに違いない。

 確かに肩の張りが取れないし、首筋や胸のあたりに謎の小さな鬱血痕があったりするのだが、そんな事は関係無い。

 いつだって俺の最優先対象はノリちゃんだ。俺はさりげない態度で言った。


「今日はよく寝たな~ よく寝たらあるじ遊びたくなってきたな~」

「―――っ!」


 毛布からガバッと顔を上げるノリちゃん。


「……遊びはイヤ。本気が欲しい」


 部屋の隅から聞こえた危険な呟きに視線で抗議をすると、部屋の隅で逆立ちになりながら目を爛々と輝かせる魔王様。今にもおっぱいが零れ落ちそうで、レシーブが間に合うかどうか判断に迷った。

 

「ノリなー! ノリちょーどあそびたいところだったっ!」


 ぱあぁぁ っと満面の笑みを浮かべたノリちゃんを抱き上げると頬っぺたすりすり。

 むいむい目を細める彼女に聞いてみる。


「ノリちゃん、ノリちゃんは何して遊びたいのかな~?」

「うんとなー えっとなー うーん……」

「……昼下がりの人妻の危険なあそ―――」

「ドロテアさんやめて!」


 ちぇ っと言葉で言ったドロテアがムクリと起き上がって伸びをする。

 ボリュームのある銀髪が天井に届きそうなほどそそり立っているのもいつもの光景で、ぶるるんと揺れる巨乳(グランマ)もいつもの事だ。

 隣の部屋からカリカリと爪を噛むような音が聞こえるが、爪を食べてしまうほどお腹が減っているのだろうかと心配になる。

 

「とりあえずアレしようか。アッチ向いてホイしようノリちゃん!」

「それはいいな! あっちむいてほいはいいな!」


 じゃあはじめようかとノリちゃんを床に下ろすと、視界の端に、頬を染めて俯きながらモジモジするドロテアさんが目に入る。

 彼女が感情を表に出すのは非情に珍しい。もしかして何か他の遊びをしたかったのだろうか。いや、きっと「あっち向いてホイ」がどんな遊びか知らないのだ。似たような遊びはこの世界にもあるが、あっち向いてホイの掛け声だけは井川家のものだった。

 言い出せずに溜め込むのはよくないし、彼女の意見も聞くべきだ。俺の大事な仲間の一人なのだから。


「ドロテアさんどうしたの? 気を使わないで言ってみなよ」


 するとドロテアは胸を挟み込みながら、指をツンツンして言った。


「……だって、アッチ剥いてだなんて…… いっくん、気にする事無い。別に包茎は珍しいことではな―――」

「はいストップ~! ドロテアさんストップ~!」


 何でもかんでもそっちに持っていくのはやめてくれ!

 下ネタは嫌いじゃないけどノリちゃんの前ではやめて! 

 そして俺の息子は寒がりなだけだから気にしないで!

 俺は未だに頬を染めるドロテアをスルーしてノリちゃんと向き合う


「あるじー ほーけーってな―――」

「さあ! 始めようねノリちゃんっ! じゃーんけーん……」


「「ほいっ!」」


 俺がパーを出したら、ノリちゃんが手足をピーンと広げて嬉しそうにしている。


「あーいこーで、しょっ!」


 俺はグー。ノリちゃんは両手を胸の前に折り畳んで、グッと体を縮こめている。

 

「あーいこーで、しょっ!」


 俺はまたグー、ノリちゃんは両手を合わせて天に向かって突き上げていた。


「あっちむいて~  ホイっ! はーい、あるじの勝ち~」

「や、やられたー!」


 負けたと言うのにキャッキャとはしゃぐノリちゃん。

 彼女は指が短いので、グーチョキパーを体全体で表現するのだが、それが頭おかしいくらいに可愛い。

 ウズウズと前のめりになりながら次を催促する彼女を見を、神竜がうんたらかんたら言うボケ共に見せてやりたい。

 一瞬で誰もが改心するに違いない。

 まあ天使にあらぬ疑いをかける様な下郎はこの俺が切り刻んで燻製にかけてやるがな。


 俺はだらしない笑顔を浮かべながら、あっち向いてホイをする。

 終わるタイミングは彼女が飽きるまでだ。俺が飽きる事は絶対に無いので妥当な基準だった。

 そうして10数回目


「あ、負けた~!」

「ノリのかち~~~っ!」

「じゃあ、もう一回する?」


 俺が満面の笑みを浮かべながらノリちゃんに聞くと、彼女は神をも虜にするであろうエンゼルスマイルを浮かべながら、こう言い放った。



「うんとなー つぎはなー おままごとするー!」


 

 冷や汗が一筋、俺の頬を伝った。






◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇







ノリちゃんは神をも虜にするであろうエンゼルスマイルを浮かべながら、こう言い放った。



「うんとなー つぎはなー おままごとするー!」



 冷や汗が一筋、俺の頬を伝った。

 思い出されるのは、以前、嫁姑戦争で幕を開けたノリちゃんとのおままごとだ。それは奥さんの不倫、間男との邂逅という、水面下の家庭内不和を経て、YES・NO枕に着地するという、波乱に満ちたモノだった。

 

 彼女は無邪気さを如何なく発揮し、その中身を理解しないまま、大喜びで危険な綱渡りをこなしていったわけだが、正直俺は気が気じゃなかった。

 道徳に反することは教えなければならないが、タイミングというものがあるし、正直『性』に関する知識は、いつの間にか、俺の知らない所で知っていて欲しいというのは、都合の良い親心なのだろうか。

 『子供はどうやったら出来るの?』 と幼い俺に聞かれ、言葉に詰まった父ちゃんの顔を思い出して切なくなる。

 

―――あらあら~、イサオ。それは男の人がおちんち―――

―――か、かあさん! やめなさいっ!



 かーちゃんはかーちゃんでどうかと思うが、それでも子供の『性』に関してはドギマギしていたに違いないのだ。

 俺はそんな事を思い出しながら、無表情でこちらを見ているドロテアに視線を向ける。どうしたの? と小首を傾げるその姿は本当に可愛らしいのだが、正直、地雷の気配しかしなかった。


 どうにか穏便に収めたい。ここは、やんわりと違う遊びに誘導すべきだろうか。

 そう思っても、綺麗なお眼目をキラキラさせながら、おままごとを楽しみにしているノリちゃんを前にすると、中々そういうわけにもいかない。普段は働いてばかりで、こんなに時間をとって彼女と遊べていないだけに、こういう時間は何よりも大切にしたいのだ。


「よし! じゃあおままごとしようか!」

「やたー!」

「それじゃあ、どうしようか」

「うんとなー さいしょはなー やくをきめます! ノリちょっとかんがえる」  


 うーん うーん。

 短い手を組みながら、右に左に首を倒して真剣に悩むノリちゃん。

 子供の遊びは真剣勝負だ。俺たち大人にとってはたかが遊びと、どうでもいいことでも、幼い彼女にとっては譲れない大事な部分だったりする。ここは黙ってノリちゃんに任せよう。

 それではその間にお茶でも入れようかと腰を浮かせかけた時、


「……待ってる間、お茶入れてくる」


 驚くべきことに、我が屋の明るい方の無職が台所へ向かった。

 何が起きたのかと、幾分嬉しそうなドロテアさんの背中を見送る。

 3人分のお茶を入れてちゃぶ台へと戻ってきた彼女の瞳におままごとに対する意気込みのようなものが感じられて非常に嫌な予感がした。

 コトリと目の前に置かれたお茶は猛烈に濁っていて、恐る恐る口をつけてみると、とんでもなく渋い。

 うへぇ という顔になりそうだったのを、ドロテアがこちらの様子を伺う気配を感じて何とか堪える。


「お、おいしいよ……」

「……うれしい」


 無表情ながらどこか嬉しそうなドロテアにチェンジを要求するほど鬼には成れない。

 むしろ、爆発系メシマズ女子である彼女が、まがりなりにも飲めるお茶を入れた事を褒めるべきなのだろう。とんでもなく渋いと言っても飲めないほどではないのだから。

 するとドロテアは俺の隣に腰を下ろし、俺の肩に頭を乗せてきた。となりの部屋から歯ぎしりのような不気味な音が聞こえてくるのは気のせいだろうか。


「……いっくんのお嫁さんは私」


 とりあえず嫌な予感がしたので釘を刺しておく


「ど、ドロテアさん…… おままごとだからね? ノリちゃんの配役に異論は駄目よ……?」

「……知ってるもん」


 またしても「ちぇ」と言葉で言ったドロテアさんが、ちゃぶ台の上に置かれた湯呑みを掴んでお茶を一口。


「……まずっ」


 自由だなオイ

 とりあえずお湯で薄める事になり、沸かしたお湯を湯呑みに入れた時、ちょうどノリちゃんのシンキングタイムが終了した。


「きまったー! はっぴょーします!」

「「おー」」


――――パチパチパチッ


 

 盛り上げるために拍手をすると、オルテナさんの部屋の方からも微かに拍手が聞こえてくる。

 あ、聞こえてるのね? と思ったら、今度は反対側の壁から音が鳴った。



――――いようっ! エルマキナ様ぁ~~~!!! パチパチパチっ



 壁をブチ抜く勢いで壁ドン。ついでに追尾式の(ハープーン)をぶっ放しておいた。

 響き渡る断末魔を当然の如く無視して、ノリちゃんに先を促す。

 以前、ここでまさかの彼氏が発表されて動揺したが、今回は俺も心の準備が出来ている。突飛も無い彼女の成長にも不意を突かれる事は無い。

 俺はお茶を一口啜りながら気合を入れた。


「うんとなー だんなさまはなー のりおくん」



―――ブフゥゥ~~~~っ!!!



「ま、待って! ノリちゃんちょっと待って!」


 まさかの略奪劇に気が動転した。 


「う、嘘だよねっ!? ノリちゃん嘘だよね!? あるじが旦那様だよねっ!?」


 正体不明の喪失感に襲われ、俺はノリちゃんに縋りつく。

 以前のおままごとで、旦那様である俺の帰宅時に我が家に遊びに来ていた間男ノリ男君(ぬいぐるみ)

 まごう事無き修羅場で、ヘタれて大人しく帰した俺がいけなかったのか。あの時キッチリ殲滅すべきだったのだろうか。

 すると我が家の天使が首を傾げてこう言った。


「うんとなー さいばんのけっかー」


 泥沼離婚だった。

 法廷闘争すら経た凄まじい設定は、最早おままごとの領域を超えているのではないかと頭が痛くなる。

 


―――傑作だ! 淫獣が身の程を弁えないからこういう事にっ!



「の、ノリちゃんちょっと待っててね。あるじお隣さんの便秘のお悩みを解消して来るからっ!」



 俺は急いで隣の部屋に侵入し、お隣さんの肛門を爆破させてから部屋に戻った。

 そう言えば年明け、竜の里で若頭を決める大会があると言っていたが出場すら出来ないだろう。頭とケツの具合が悪すぎる。

 とにかく、ノリちゃん本人がそんなドロドロの人間模様など意識すらしていないのが救いだが、俺は保護者としてはっきりさせなければいけない事があった。


「の、ノリちゃん? 裁判とかそういうお話、誰に教えてもらったのかな~?」

「うんとなー ありあー」


 やっぱりテメーかクソ剣め。

 満面の笑みで我が家のアホに目を向けると、『ヒィっ』と怯えた声が上がる。


「アリアさん、後でちょっとお話があります。あと有形力の行使を躊躇うつもりはありません」

『だ、だって! こういうのは気持ちだけではなく形式もキッチリしとくのが大事じゃぞ! 未練も綺麗に断ち切らんと、ストーカー犯罪が怖くて我は夜も眠れ―――』

「『肉』だな。肉と書いた鞘に差して街を練り歩いてやる」

『「肉」はイヤじゃあぁぁぁぁ~~~~っ!!」


 永遠に眠らせてやろうか金属。

 それに結婚も離婚もストーカーも最初から最後まで貴様の人生には関係無い。

 まあヤツの始末は後にするとして、今はこの局面を乗り切らねばなるまい。

 

 俺は恥を捨ててノリちゃんに頼み込み、なんとか旦那様の座に収まる事に成功した。


「ノリはしってる! 『もとさや』ってゆいます!」


 それは再婚って言うんだノリちゃん。

 そもそも離婚なんてしてなかったんだから『仲直り』が正しいかもしれないね?


「……いっくん、ノリの配役に異論はダメって」

「ドロテアさんお願いします。見逃してください」


 おままごとは始まってすらいないというのに、既に俺は土下座だった。

 強い夫婦の危機を感じるが、一度崩壊した家庭なのでそのへんは我慢するしかない。

 他の役は決まったかなとノリちゃんを促すと、彼女は元気に宣言した。


「うんとなー どろままはなー おかーさん」

「……ノリ、可愛い子」

「え、うん…… ま、まあそうなんだけども」


 え……と。誰の? 

 誰のお母さんな感じ?


 俺としては大黒柱として家庭に尽くす気はマンマンなのだが、婿に行ったのか嫁に貰ったのか少し気なるところだった。

 しかしキャッキャとはしゃぐ二人の雰囲気的には俺が婿設定のような気がするので、一応ドロテアをお義母さんと呼ぶ心の準備をしておく。


 チラリと横目でドロテアを確認すると、たれ目に猛禽類のような光が宿っていて戦慄が走る、恐ろしい事に彼女がそういう種類のプレイと勘違いしている事は間違いなかった。 

 ノリちゃんは気にした様子も無く、どんどん配役を発表していく


「そんでなー のりおくんがなー しんせきのちゃらお」

「へ、へえ~~~」

「まじやばい ちょーぱない ってゆーの」


 親戚のチャラ男って何? どういうこと? 

 ていうかもしかしてノリ男君が旦那様だったら俺がそのポジションだった感じ?


 どうやらノリちゃんの中で『ちゃらお』は固有名詞では無いらしかった。ノリちゃんの聡明さを褒めるところか、ジャンル名で呼ばれるチャラ男を憐れむところかがイマイチわからない。


「おるねーがなー にーと」


 最早何も言うまい。

 壁の向こうからすすり泣きが聞こえた気がしたが、気のせいだということにしたい。

 ていうか泣くくらいなら出てきなさいよ。

 俺は軽く遠い目をしながら、始めようかと声をかける。

 するとノリちゃんは窓際まで行って、短い腕を一生懸命伸ばし、窓の縁をスッとなぞった。


「むっ おかあさまー よごれていますわよー?」


 よよよ と崩れ落ちるドロテア。


「……ごめんなさいノリ。お義母さん至らなかった」

「はいストップ~!」


 なんだそれは。

 嫁姑戦争に嫁が勝ったという稀有なパターンに動揺を隠せない。

 そして意外なほどノリがいいドロテアにもびっくりだ。ていうか旦那の実母設定確定だというのに、相変わらず危険な光を灯した瞳で俺を見つめるのはやめていただけないでしょうか。あんた一体どんな妄想してるんだ。


「の、ノリちゃん、姑いびりはよくないからね? 旦那様のお母さんは大切にしなきゃ駄目だよ?」

「はーい♪」


 俺はマザコンでは無いが、嫁さんとかーちゃんは仲良くするに限る。

 無理にとは言わないが、そんなテンプレいびりをするような胃薬が手放せない関係は勘弁願いたい。

 そろそろ止めるべきなのだろうかと眉間を軽く押さえて考えるが、ニコニコはしゃぐノリちゃんを見ていると中々そうも言えない。

 すると、ノリちゃんが、ハッ! と何かに気付くと、トテトテ廊下に向かって歩き出す。

 次は何をするのかな? と視線で彼女を追っていると、ノリちゃんは廊下にある隣の部屋のドアの前で立ち止まり、両目を押さえて崩れ落ちた。


「おるてなー いつになったらはたらくのー おかーさんしんぱいでっ」 


 ノリちゃん爆弾投下。

 ガタガタっ と、隣の部屋から何かが崩れ落ちる音がした。オルテナさんの狼狽っぷりも尋常ではない。

 

「の、ノリちゃん! しぃっ! しぃ~ してっ!」


 まさか、お遊びであるおままごとから、今、井川家で最もナイーブな問題にメスを入れられると思ってなかったので俺は軽い恐慌状態に陥っていた。

 

―――お、おかあさん、ごめんね……


 わずかに空いたドアの隙間から擦れる様な涙声が聞こえて、更にいたたまれなくなる。

 オルテナさんいいから! 身を削ってまで参加しなくていいから!


 悪い事をしたわけでも無いノリちゃんを叱る訳にもいかず、とりあえず急いで彼女を呼び戻す。

 満面の笑みでバンザイしながらこっちに突進してきたノリちゃんを抱き抱えてあげると、ノリちゃんが嬉しそうにスリスリしてきた。


「だんなさまー えほんよんでー」


 旦那さんに甘える奥様の設定なのかは定かではないが、この状況をどうやって収拾すればいいのか全くわからなかった俺としては渡りに船だ。

 俺はノリちゃんと一緒に絵本を選ぶと、一緒にベッドに横になって絵本を開いた。


「むかしむかしあるところに―――」


 目をキラキラさせながら、ふんふん頷いていたノリちゃんは、5分もすると次第にウツラウツラ船をこぎ始め、そして可愛い寝息を立てはじめる。

 俺は安堵のため息を吐きながら目を瞑っていると、気疲れからか心地よい睡魔に襲われた。このままノリちゃんとお昼寝するのも良い休日だと睡魔に身を任せていると、いつの間にか俺の耳元に口を寄せていたドロテアが囁く。


「……いっくん、お母さんも一緒に寝ていい?」

「まだその設定続いてるんですか?」


 目を閉じたまま思わず苦笑。

 わかったよと答えると、今度はアリアが『我も一緒にお昼寝じゃ!』と騒ぎ出す。『肉』の分際で何言ってんだと言いたいところだが、断ると近所迷惑な音量で泣き出すのでしょうがなくベッドに引っ張り込む。

 寝息を立てるノリちゃんを挟んで、俺とドロテア。向かい合ってふふふと笑い合った。

 そうして、麗らかな日差しが差し込む室内、狭いベッドに身を縮込めて、心地よい微睡みに包まれながら、幸せだなあと一人微笑んだんだ。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ