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異世界最強は大家さんでした  作者: つよぐち2号
17/59

アリアさんの出張 NTR物語②

ふぅ~~ やっと撒いたか……」


 あの後、人だかりからの脱出に成功したと思ったら、オルテナ親衛隊粛清班から襲撃を受けて20分ほど街中を逃げ回っていた。あまりにレベルの高い統制力と情報伝達速度に戦慄を禁じ得ない。

 これからギルドに行く度、背中に気を付けなければいけないのかと暗澹たる気持ちになるが、とりあえず今は目の前の依頼をどうにかしなくてはならない。俺は早足で東門へと向かった。

 

 すると東門城壁にもたれて腕を組んでいる女性が一人。オルテナさんだ。

 理由は未だにわからないが先程酷く怒らせてしまったので、とりあえず謝ろうと思ってしまうのは、和を以て尊しとする農耕民族の性なのでしょうがない。

 俺はオルテナに向かって歩き出すが、向こうもこちらに気付いたようでスタスタ近づいてきた。


「しっかりしなさいっておばちゃんに怒られた。ヒカリゴケ採取は東門から行くだろうと聞いたから待っていたんだ。私も行くぞ」

「お、おう……」


 何に怒られて、どうして付いて行くことに繋がるのかサッパリわからないが、とりあえずもう怒ってないらしいので密かに胸を撫で下ろす。

 

「なんか…… 剣ありがとうな、そんでさっきはごめん」

「いいんだ、私は頑張るんだ」

「あ、ああ……」

 

 会話が全く成り立っていない気がするが、彼女が納得しているならいいのだろう。

 俺達は東門を出て、俺が先導する形で亡者の大空洞へと高速移動を開始する。

 そもそも馬車で半日程度という距離なので1時間程度で着いてしまった。 

 オルテナがキョロキョロ周りを見渡しながら聞いてくる。


「ヒカリゴケはどこで採取するんだ? もしかしてこの洞窟の中か?」

「ああ、この洞窟の一番奥にあるんだ」

 

 オルテナと絡む場面が多かったため忘れていたが、そういえばオルテナがゼプツィールを拠点にしたのは最近のことだ。それにこの依頼は駆け出しの冒険者が請け負う仕事なので、Sランカーの彼女は知らなかったのだろう。


「洞窟は…… ちょっと苦手かも……」


 黒の巫女とは思えぬ意外な発言に少しだけ驚いた。


「そんなに時間はかからないから、待ってるか?」

「いや、行く! 頑張れっておばちゃんに言われたんだ」

「あ、ああわかったよ。じゃあノリちゃん、暗くなるまでに戻ってくるから待てるかな?」

「うんとなー ノリおひるねしてる……」


 ノリちゃんちょっとションボリ。

 最近、俺から離れるのをイヤがるノリちゃんだが、彼女は洞窟が苦手なので外で待っててもらう事にする。長時間潜るわけではないし、彼女を害せる存在がいるとも思えないので、そのあたりの心配はない。

 俺達はノリちゃんに行ってきますと手を振って大空洞内部へ。光源魔法の灯りを頼りに奥へと進む。 

 前回、クルルちゃんの護衛任務で来た時は、彼女の後をつける形で遠回りのルートを採ってしまったが、今日は迷わず最短ルートを選択した。

 この洞窟は、いくつもの大広間が数珠つなぎになって最奥へと続くのだが、最初の大広間までは結構な距離がある。

 最短ルートへの分岐を済ませ、中ほどまでの距離を進んだ時、奥の方から「オオオオォォ」という音が聞こえた。風の音ではない、亡者の哭く声だ。

 

「な、なんだ今のは!?」


 心なしか首をすぼめて不安そうに周りを伺うオルテナさん。

 俺は、相変わらずいいリアクションだなあとボンヤリ思いながら、普通に答えた。 


「アンデッドじゃない? ここ亡者の大空洞だから」

「あ、アンデッド? 聞いてないぞ! ぞ、ゾンビだけだよな、ふわふわっとしたやつはいないよな!?」


 いきなりキョドり出したオルテナさんが今にも掴みかからんばかりの焦りを見せている。


「え? 低級霊ならいるよ?」


 やはり普通に答える俺。

 すると彼女の口から衝撃発言が飛び出した。


「う、嘘だ! 幽霊なんかいない! 私は幽霊なんか信じないからな!」

「あなた一体何を言ってるんです?」


 モンスター相手に散々魔法をブッ放す世界の住人が今更何を言っているのだ。

 魔法は使いたいけど幽霊は信じません♪ なんていう都合の良いファンタジーがあるわけないし、そんなことを言い出したら、人間を凍らせて巣に持って帰る鳥さんとか、人間に幻を見せて養分にする植物さんとか、そういった人外生物共は一体どうなってしまうというのか。


 ウチのノリちゃんは神竜だし、ウチの頭が可哀想な金属は喋るし、ウチの大家はSSSランカーを完封するんですよ。そんな無茶がまかり通ってしまうのがこの異世界ファンタジーではないのでしょうか。


「いや、幽霊っつーか、普通にギルドに討伐依頼だされたりすんじゃん…… レイスとかポピュラーじゃん?」

「私は信じないぞ! 斬れないものは信じない派だ!」


 そんな派閥無いです。

 大体、さっき「ふわふわっとしたやつ」とか。しっかり見たことあるじゃないですか。

 だが確かに彼女の様に魔法が使えない生粋の剣士にとってゴーストタイプの敵は天敵といえるのだろう。それにほとんどソロで活動してきたみたいだから、きっと痛い目にあったこともあるのかも知れなかった。

 そう考えると彼女の脅えようもあながち大げさなものではないように思えて、俺は彼女に声をかけた。


「え、と…… じゃあ待ってる?」

「私を一人にする気か!?」

「じゃあ先戻ってる?」

「アンデッドが出たらどうするんだっ!」


 必死に縋り付いてくるオルテナさん。

 飼い主に捨てないでと懇願するペットのようで、ちょっとだけ萌えた。


「あの、もしかして幽霊とか苦手な方です?」

「そんなはずないでしょ! 大丈夫だもんっ!!」

 

 そうやって俺達はまた進みだすが、オルテナが「もん」とか言い出したら、もう大概テンパってるのを俺は知っている。

 元々、今回は戦闘はしないで、ちゃちゃーっと行ってちゃちゃーっと帰ってくるつもりだったのだが、外套の裾を摘まんでついてくる彼女を放り出すわけにもいかない。

 物凄いヘッピリ腰で歩きながら物音一つでビクっと跳ねるオルテナを見ていると、迫撃最強と謳われながらもシングルS止まりの理由がよくわかる。きっとギルドはこの弱点を把握しているのだ。

 今日俺は確信した。この子は出来ない子だ。


 少し進むと、近くでコウモリかなんかがバサバサっと羽ばたいた。

 

「きゃあぁぁぁっ!!」


 「きゃあ」ですって奥さん聞きました?

 リアルお化け屋敷状態の今、オルテナが、ガッシリ腰に抱き着いて来ているが、如何せん俺も彼女も防具をつけているので、何と言うか、こう、「ひ、肘が胸に当たって……っ!」みたいなお約束的葛藤はあんまり無い。

 年頃の女の子に抱き着かれている事でドキドキしなくもないが、おそらく真横から見たらケンタウロス状態なので、いまいちピンとこない。

 

 俺達は、なまじオルテナを引き摺るような形で、更に奥へと進んだ。

 以前見た昼ドラ、博奕に赴くダメ亭主に健気な妻が縋り付くシーンを思い出して微妙な気分になる。これで「放せ!」と頬の一つでも張れば、見事に「最低人間」の称号を獲得できるだろう 

 

 そんなこんなでようやく一つ目の広間に出る。

 俺みたいな底辺冒険者にとっては見慣れた光景が広がっていた。

 特に目的も無く歩いているゾンビさん達。カタカタうるさいスケルトンの方々。そしてふよふよと空中を漂う低級霊の皆様。


 みんな揃いもそろって、いつも通り。

 だから俺もいつも通り頭をポリポリ

 ならば我らがオルテナ様は如何したか


 「ふえ~~~~ん!!!」 


 泣き出しました。




□□□□□□□□






 亡者の大空洞、ヒカリゴケも無事採取して、出口に向かって帰り道。

 俺は腰に収納魔具をぶら下げて、オルテナさんをおんぶしていた。


「きょ、今日はちょっと調子が悪かったんだ……」

「はいはい」

 

 この期に及んでも弱点を認めない根性はアッパレだが、腰を抜かして泣き出した後に言われたところで残念なだけだ。

 おんぶしたら、彼女の生意気なおっぱいが生意気な事になるかなー とちょっとだけ期待したが、背中に当たるダマスカスの胸当てがゴリゴリするだけだった。

 ただ、彼女が喋るたびに耳元にかかる吐息とか、髪から漂ういい匂いとかに年甲斐も無くドキドキしている自分がちょっと情けない。


「聞きたいことがあるんだ」


 来た、と思った。

 ここ数週間、オルテナとなんとなく一緒にいるが、ふとした拍子に口を開いては言葉を呑込む彼女を幾度か見てきた。

 暗黙の了解的にこの話題を避けている俺達だが、いつか話さねばならない事だと言うのはお互いが認識している。その「いつか」が来たのだ。


「イサオは、勇者…… なんだろう?」


 拳鬼とやり合ったところを彼女には見られている。

 どう考えたって迫撃特化のSSSランカーと迫撃勝負が出来るDランカーなど存在する筈がないのだ。

 それにもう彼女はアリアとも当たり前の様に会話をしている。もう隠すことは出来ない。そして、彼女に隠す必要は無いかなと思っている自分がいた。


「もう隠してもしょうがないよな。そうだよ、俺は4年前レガリアに召喚された勇者、いや元勇者だよ。最初は悪かったな嘘ついて」

「いいんだ。『異端者』『悪魔』『逆賊』 敵だって多いだろう、隠して当然だ。私はあなたに命を救われた。お礼を言いたかったんだ」

「ははは、なんだかんだ助けた人も多いからイマイチわかんないけど」

「なっ! 私の事を覚えていないのか!?」


 ほっぺたとほっぺたがくっつくくらい身を乗り出してくるオルテナ。

 ちょっとやめて、ウチの息子がビックリするからやめて。


「う、うーん。そうかなって思う子もいたけど、考えてみたら違うかなーと」

「それはどんな子だ?」

「私兵っぽい連中に襲撃された魔境寄りの集落の唯一の生き残りだよ。黒髪だったし目も確か紅かった気がするなあ。でも弱っちくて小汚いチビガキだったからさ」

「わた……っ いやいい、私からは言わない。絶対に思い出させてやるんだから!」


 何となく思い出さないのが申し訳ない気持ちになって唸ってみるが、やはり思いあたる人物はいなかった。

 そもそも顔と名前を覚えるのは苦手だし、無我夢中で必死に戦っていた時代に会った人の顔などほとんど思い出せない。

 俺は勇者だったし、その他は村人Aであり村人Bだった。そう思わなければやっていけないほど追いつめられていたのだ。途中まで一緒に旅した3人がいなければ、とっくに俺は壊れていただろうと思う。


「ははは、まあ、もう仲間なんだしそういうのはやめようぜ、どっちかといったら最近じゃ俺のほうが助かってるしさ、ちゃんとしたもの食わせてもらってるせいか体調がいいんだ」

「そうか…… じゃあノリちゃんにもちゃんとピーマンを食べてもらわなきゃな」


 そうだなと二人で笑う。そして再度落ちる沈黙。

 しばらくの間、自分の乾いた足音と、オルテナの湿った吐息だけが世界の全てだった。

 その世界を壊すかのように小さくコツンという音が鳴る。オルテナが俺の頭におでこを当てたのだ。

 そのまま彼女が囁く。


「恋人……とかは、つくらないのか?」

 

 思わず立ち止まる。

 背中、オルテナが触れている部分全てが熱く燃え上がったような感覚に陥る。頭に吹き付けられる吐息が恐ろしく熱かった。

 

「な、何だよ突然……」

「いいから答えて……」


 思いの外真剣な声音に、俺は思わず下を向く。

 逃げた俺の頭に彼女のおでこが容赦なく追いすがってきた。彼女は今、どんな表情をしているのだろうか無性に怖くなる。


「俺は、冒険者なんかやってたら恋人なんて作れない。わかるだろ? 遠征にも行くし不安にもさせる。収入は安定しないし、ずっと出来る商売じゃない。何よりいつ命を落とすかもわからないんだ」


 俺は自嘲するように笑った。


「俺は女の子と付き合うなら結婚を前提に考えたいんだ。でも今結婚したって養っていけない。俺には強さしかない。それなのに俺は魔獣すら殺すのは嫌なんだ。冒険者としても欠陥品だ俺は」

「でも何でそんなに討伐がイヤなんだ……?」

「知っての通り俺は召喚された。俺は動物でもむやみに殺したら犯罪になるような平和な国で育った。人一人死ねば大事件さ。俺は死体なんか見たことも無かったよ。葬式以外では死体なんか一生見ない人の方が多いと思う」


 俺は何でこんなことを話しているんだろうと思いながらも止められなかった。


「でも肉は普通に食べてたよ。知らないところで知らない人がそういう仕事をしてくれて食べていられたんだなって今なら思う。だけど、都合がいいと思うかも知れないけど、自分がそれをするとなると抵抗があるんだ。それも食べるためではない殺生とか、人型の魔獣なんかはもう絶対無理だよ……」

「元の世界に、戻りたい?」

「最初はずっとそう思ってたけど無理だったしさ、何より今はもうノリちゃんがいる。もし元の世界に戻れるようになるとしても俺はノリちゃんを選ぶよ。それに迷いはないから。それにさ、俺は……」

 

 一瞬、その先の言葉を呑込んで、俺は振り向いた。

 互いの吐息がかかるほどの距離、驚くほど近くにあった彼女の顔。

 俺が急に振り向いた事への驚きなのか、それとも俺の答えに驚いたのか、綺麗な紅目を見開いて俺を見つめている。 

 あまりに真っ直ぐなその瞳を直視できず、俺は逃げるように目を逸らした。


「それに、俺は…… 人を、殺した。もう戻れないよ……」


 それはこの世界の理で生きる彼女に浴びせていい言葉だったのか、俺にはわからない。彼女が人を殺すところを俺は見たが、決してそれを非難したいわけではなかった。

 この世界にはこの世界の理屈があって、そうしなければ生きていけないという厳しい現実がそこらじゅうに転がっている。そんな悲しさから目を背けてまで俺の価値観を押し付けようなどとは思わない。それでも、それが俺の素直な気持ちだったのだ。


 だが、そんな独りよがりの言葉をぶつけられた彼女は何を思ったのだろうか。

 オルテナが泣きそうな顔で笑う。


「でも、それはしょうがなかったのでは?」


 俺は困った笑いを返した。


「それでもさ、『しょうがなかったから人を殺しました』って俺は家族の目を見て言えないよ。そういう世界で育ったし、そういう風に育てらてたんだ。そして今でもそれが間違っているとは思ってない」

「私は……」

「いや、そういう意味じゃない。だからそんな顔をしないでくれオルテナ。この世界にはこの世界の価値観やルールがある。俺はそれを否定しない。だから俺はお前を絶対に否定しない」


 俺の髪に顔を埋めて鼻をすするオルテナ。

 彼女は彼女で必死に生きているだけだというのに、自身の罪悪感を拭うためだけに無数の魔獣を殺せるような仮初めの正義を振りかざした結果、俺が泣かせてしまったのだ。

 

 自分の都合でコロコロ変わる道義や倫理に一体どれほどの価値があるというのか、それでもその独善に縋らなければ立つこともままならない俺は二つの世界の狭間で踊る道化でしかない。

 人を笑わすことも出来ず、傷付ける事しか出来ない道化、それが俺だ。最低だ。


 暗くなった雰囲気を少しでも変えたくて俺は口を開いた


「とにかく、俺はこの世界で生きていくよ。最初の話に戻るけどさ、商人も職人も小さいころから修行して技術を身に着けていて今さら俺の入る余地は無い。何か商売をと言っても何をしていいかわからないし冒険者としても中途半端だ。でも最近、俺の故郷の料理を出すお店とかやってみたいと思ったりもしてるんだ」


 オルテナはガバッと顔を上げて俺の胸をバシバシ叩く。


「わ、私も手伝うぞ!!」


 俺は苦笑した。傷付けられてもなお俺のために協力すると断言してくれる彼女の優しさが嬉しかったんだ。


「だけど、調味料も素材もアテが無いからさ。魚を使った料理が多いけど海は遠いし値段も高い。この前一緒に行った店でそれらしい調味料を使っていたんだけど、今度聞いてみようかな」


 するとオルテナが俺の首にギューっと抱き着いてきて、耳元で囁く。


「また3人で行こうよ」


 何故か涙がじんわり浮かび、誤魔化すために空あくびをした。

 感謝の言葉や謝罪の言葉がいくつもせり上がってきたがそれら全てを呑込む。

 きっと彼女は感謝して欲しいわけでも謝罪してほしいわけでも無いと思ったからだ。

 「そうだな」、誰に向けたわけでもなく呟いた言葉。

 背中の彼女が笑ったような気がして、俺は軽く俯くと再び歩き出した。



 




◇ ◇ ◇ ◇







アリアは思った。


――え、超イケメンなんですけど!

 

 南西のとある領地に向かう馬車の中、アリアは興奮していた。

 これまで、2,3度は対面したことがあるはずだが、外出中は大人しくしてることと、他人をちゃんと見たことなどなかったので、この男がこんなに男前だとは思わなかったのだ。

 アリアは高鳴る鼓動を感じていた。脈動など無いのだが、とにかく感じていた。

 

 そしてドキドキしながらも自身を諌めようとする。

 そうだ、ちょっとカッコイイからと言って何なのだ、イサオだって十分イケメンではないか。 女顔でちょっと頼りない感じだけど、それが好みだって人も多いはずだ。

 現に、魔王からはラブレターが届いているし、オルテナは押し掛け女房状態だし、マイラに至ってはどんどんエライことになっていっている。

 本人は気付いていないが、自分の主は十分に魅力的なのだ。

 アリアが、『そうじゃ、主の方が男前じゃもん』とかブツブツ呟いていると、チャラ男が声をかけてきた。


「っつーかさー マジインテリジェンスソードなんだよね? 名前はマジ何ていうの?」


 ちょっと軽めのハスキーボイス。

 イサオも声が重いほうではないが、目の前の男の甘く擦れた声が、やけ色っぽく感じる。

 顔を見てイケメンだなあ と思っていただけだったが、鞘を握られ、声をかけられることで、自分が今、他の男の手にあるという事を突然実感した。


『は、はじめまして、我…… わたくしアリアと申しますぅ』

「アリア!? マジいい名前じゃね!? チョー可愛い系っつーの? マジアリだわ~ アリアちゃんマジアリだからアリアリな! アリアリ超ヤッベ!」 


 一体お前は何を言っているんだい?

 さすがのアリアも普段ならそう思っていただろう。

 だが、今、イサオのいないところで、自身が他の男に握られているという特殊なシチュエーションが、彼女の煩悩に火をつけていた。


 可愛いだと!? 超ヤバイくらいアリだと!? アリアリアリアだと!?

 もしかしてアレか、この男は自分のことを好きなのか? もしかして一目ぼれしてしまったのか? いや違う。そんな生半可なものじゃない。それだけならばこれほど褒められるはずがない。

 

―――愛されてる。我、今超愛されてる!

 

 自分はなんて罪な女だろうか。ちょっとしなを作って挨拶しただけで男が落ちてしまったのだ。

 アリアは思う。このままでは戦争だ。

 自分がちょっと誘っただけで、世の男共がみな虜になってしまうのだ、その先には、男共が容赦なく自分を奪い合う血みどろの未来しかないではないか。

 アリアは己の罪深さを認識し嘆息した。


『ふう、我って罪な女だわ』

「??」  


 しかし、残念ながらそんなに自分は安くない。イケメンにちょっと甘い言葉をささやかれただけで傾くような軽い女ではないのだ。

 4年だ、4年間だ。4年もの間、血と泥の冥道をイサオと共に歩んできた。生死を彷徨うイサオだって見てきたし、泣きじゃくる彼を慰めもした。自分たちの絆はそんな浅く軽いではない。

 確かに過去の主達はそれよりも長期に渡って共に戦ってきたが、一度だって二君に仕えたことなど無い。ちょっとした浮気はゴニョゴニョ……かもしれないが、とにかく今はイサオに尽くすのだ。


「いやー、アリアリってマジオレのタイプかも知んねーし。 つーかオレの名前はチャラウォード・カラドボルグっス! シクヨロ~ アリアリかわウィ~ネ~!」 


 何て軽い男だろうか。そんなあまり話したことも無いような男に褒められたって嬉しくない。そんな言葉は聞き飽きて―――

 

『あ、はい! 前々からお顔は拝見してて知っておる…… ますわっ! カラドボルグにも会った事がありますのよっ!』


 ちょっとだけ声が裏返ったのは秘密だ。


「え、マジ!?」

『ええ、我…… わたくしの時代はもう装甲はダメになっていましたが、機甲剣は健在でしたもの』 

「オイオイまじかよー っつーか前々からマジ思ってたんだけどさー アリアリってぶっちゃけ聖剣っしょ? っつーかバレバレだから、オレマジ神リスペクトしてる系なんだよねー」

 

 イサオから、もうチャラ男にはバレてもいいと言われているが、正直、正体を明かすつもりは無かった。そんなポンポンバラしていたら、簡単な女みたいで嫌だったからだ。

 だが、これだけ褒めてくれたし、神をリスぺクトしてるって言うし、教えてあげたら喜ぶかな、と思い教えてあげることにする。

 

『そのとーり! 我は…… わたくしはあの聖剣アリアですのよっ!」

「アリアリ マジすっげっ!!」


 本当に驚いた様子のチャラ男。顔を輝かせてアリアを見つめる彼は、お世辞抜きで感激しているようだった。

 アリアはその熱視線に刀身をグネグネとくねらせた。


『えー そんなことないよ~~』(喜) 


 謙遜してはいるが、これはアラフォー女子的には「もっと褒めろ」のサインだ。

 それに気付いてか気付かないでか、チャラ男は軽い追撃を仕掛けた。


「いやマジで! 刀身とかマジパなく綺麗だし、全体的にマジでキラキラ光っちゃってる系」

『うそだぁ 思ってもないくせにぃ~~』

「いや、マジだって! 大マジよホント! アリアリマジマジよ?」

『えぇ~ ホント~~? ホントにアリアリマジマジぃ~?』


 チラっ


 イサオだったら全力でイラつくであろうアリアのチラ見

 チャラ男はこれに気付いてはいないが、天性の軽さで言ってのけた。


「マジで! 超アリアリマジマジ!」


 正直な話、さすがのアリアも冷静な部分では「アリアリマジマジ」って何よ? と思ってはいるが、何か褒められているっぽいのでどうでも良かった。言葉ではない、心が重要なのだ。

 

 イサオもいつもこれくらい褒めてくれればいいのに。それだったら何でも素直に言う事を聞いてあげるのに、尽くしてあげるのに。

 お世辞でもいいのだ、褒めて気持ち良くさせてくれるだけで、自分だって気持ちよく仕事ができるのだ。

 それでもアリアは知ってる。イサオが手入れする時は隅々まで優しく愛情込めて手入れしてくれている事を。昔の話を振ると、軽く照れ笑いをしながら「いつもありがとな」と言ってくれる事を。

 

 アリアはそれを思い出してハッとした。いけない、こんなことじゃイケナイ。はしゃぎ過ぎだ。

 何だかんだ優しくて愛しい主を裏切れるわけが無いではないか。

 確かに今日は楽しみにしていたが、アリアは自身の言動を振り返って急に恥ずかしくなった。淑女にあるまじき痴態を晒しているかもしれないと反省する。

 褒めるだけが優しさではない。そしてそれだけでイサオの価値は図れない。

 今回はちょっと体が熱く疼いてきてるけど、自分はそれだけで乗り換えるほどビッチではないのだ。

 

『し、仕事をしに来たんじゃ』

「だよねー マジそろそろ着くからさー」


 カッポカッポのどかな道を馬車が行く。




□□□□□□□□




 南西部にあるとある地方領主の領主邸内中庭で二人の男が睨みあっていた。

 真ん中に立会人としてチャラ男が立ち、決闘の内容を確認している。当事者が互いに持つエモノは木刀。

 貴族同士の決闘には、結局家の事情も絡んでくるので、基本的には致死性武器は使われない事の方が多い。今回も多分に漏れずそういう決闘なのだろう。


 まず片方の貴族が口上を始めた。背がひょろっと高くガリガリで、強い風が吹いたら飛びそうな貴族だった。


「僕が勝ったら、僕を『もやしボーイ』と侮辱したことを撤回し謝罪してもらうよデブリル! 僕はちょっと痩せ型なだけだ!」

「笑わせるなガリクソンっ!」


 もやしボーイの口上にケチをつけた相手の貴族。こちらはそこらの女性より背が小さく、坂で押したら転がりそうなほど丸っこい貴族だった。


「勝つのは俺だ! そして俺を『ビア樽ボーイ』と侮辱した事を撤回して謝罪してもらう! 俺はちょっとぽっちゃりしているだけだ!」


 心底どうでもいい決闘だった。

 だがチャラ男は至って真剣な表情で双方の言い分を確認している。

 名目上、決闘は神聖なものであり、特に格式が重んじられる貴族同士の決闘ともなれば、正当な立会人として品位を損なう行動はとれないのだ。後から不当だとイチャモンつけられても困るし、体面が傷ついたと矛先がこちらに向く可能性すらある。

 チャラ男はその軽い見た目に反し、あくまで粛々と立会人の職務をこなしていった。そして高まる緊張感。

 

 そんな中、アリアはイラついていた。

 構えや足運び、身のこなしを見たらわかる。貴族だか何だかしらんが、仕事とはいえ、大して鍛えてもいないボンボンのチャンバラに、数多の修羅場を潜ってきた聖剣である自分が引っ張られた事に納得がいかなかったのだ。


 決闘前の体ならしが始まる。

 やあ~~ と女みたいな奇声を上げて木刀に振り回されているもやしボーイ。

 とお~~ と間抜けな掛け声をあげるも、お腹に邪魔されて上手く木刀を振れないビア樽ボーイ。

 一体何なのだ、とアリアは思う。


 イサオだったらあんなカッコ悪い戦いはしない。イサオはもっとカッコイイ。瞬時に相手に詰め寄り、相手の驚愕の視線の中ニヤリと笑って、無言で自分を首筋に突き付けるのだ。

 彼は自分を使いこなしてくれる。魔獣の肉を切り裂き骨を断ち、時に魔力を自分に流し込み、鉄の扉でさえ易々と両断する。


 家の威を借り、口だけで何とかなると思っている貴族のボンボン共とはわけが違う。

 イサオは凄い。やはり最高の主なのだ。ああ、イサオ早く我を使って……

 そうやって彼女が己の熱い思いを滾らせた時だった。


『んあッ』


 地面に軽く突きたてられた。 

 電撃が走ったかのような衝撃が体に走り、息を荒げながらチャラ男を見上げる。


「マジごめんね、ちょっとだけ我慢してねアリアリ」


 タイミングが悪かったのだ。

 イサオを想って体が疼いた時にもたらされた衝撃、そして甘い言葉。


「土に刺さっててもマジ綺麗だよアリアリ」

『え、あ、待って、我は―――』

「始まるよ」


 地面に軽く突きたてられた自分の柄尻にチャラ男がそっと手を添える。

 そして添えられた手が、柄尻の魔石を優しく愛撫した。


『ンンッ!!』


 地面に刺さるなんて屈辱意外のなにものでもなかったのに、全然平気だった。いや、むしろ歓喜に震えていると言っていい。柄の上に重ねられた手の温度が燃えるように熱く感じる。 

 そしてこの決闘が正当な立ち合いの下行われたことを証明するための、証明魔法陣がアリアを通して地面に描かれ始めた。徐々に広がっていく幾何学的な紋様。

 何? 何コレ……? 何でこんなに……っ

 イサオが初めて自分を手にした時にも似た衝撃。イサオの場合は彼のその圧倒的な魔力に中てられて、そしてこの男は……

 

「オレ属性が光だから、マジ相性がいいのかもね」


 上から囁かれる睦み合いにも似た爛れた言葉に、燻っていた情欲が燃え上がる。

 完全に油断していた。

 イケメンだけのチャラい男ではなかったのか、ちょっと優しいだけの軽い男ではなかったのか。

 イサオはやさしいのだ。大事にしてくれるのだ。ダメだ、負けてはだめだ。

 ハアハアと息が乱れる。魔法陣構築のためのチャラ男の魔力が流れ込むたびに体が細かく痙攣した。


「マジどうしたの? 調子悪い?無理しちゃだめだよ?」

『違っ あっ 、くぅっ……』


 ああ、や、やめて! 優しい言葉をかけるな! 本当に、今は不味いからっ!

 イケメンの上に優しくたって、イサオと築いた時間の前ではそんなもの全然―――


「土なんかに刺しちゃってマジごめんね。後でマジ隅々まで磨いてあげるから。今日のお礼にマジ全身くまなく磨いちゃうよオレ」


 聞き様によっては淫猥に聞こえるその言葉と共に、チャラ男の白い歯が光る。肌が不自然に浅黒いせいで綺麗な歯が余計目立っている。

 秋の草原、柔らかな陽光を浴びて微笑む彼は、まるで一枚の名画から飛び出した忠義の騎士のように凛々しく、そして暖かかった。


 アリアが絶句する。

 そんな、そんな、嘘じゃ! 恋じゃない! 恋なんかじゃない! ちょっと彼がキラキラして見えるからってそんなことは有り得ない。自分は決してイサオを裏切―――


「始めっ!」

『んあぁ―――っ!』


 掛け声と同時に躰を駆け巡った光属性魔力。

 それはあまりにも甘く、倒錯的で退廃的な刺激を彼女に齎す。

 その暴力的とも言い得る甘美な刺激に包まれたアリアは一瞬で頂点に達し、そして……

 失神した。






◇ ◇ ◇ ◇







 カッポカッポ馬車が行く 


 決闘はデブリルの勝利で幕を閉じた。

 木刀に振り回され転んだガリクソンの上に、躓いたデブリルが圧し掛かって、もやしボーイはあっさりと意識を手放したのだ。「プオォォ~~っ!」と勝利の雄叫びを上げていたが、オークが仲間を呼ぶ声そっくりだったので、勘弁してくれと思った。

 向こうの森から地響きが聞こえた気がしたが、きっと気のせいだ。


 約定通り「ビア樽ボーイ」と侮辱した事を撤回し謝罪したガリクソンだが、帰り際に「ワイン樽野郎は転がって帰れ!」とか言ってたので、近々また立ち合いに呼ばれるような気がした。


 そして今は帰り道。

 ゼプツィールにも無事到着し、あと数十分もすれば大通りに出る。今回は貴族からの指名依頼と面倒くさい仕事だったがきちんとやり遂げた。

 普段なら、どこに飲みに行こうかとか、どこでナンパをしようとかそわそわしだす頃なのだが、チャラオは珍しく焦っていた。


「アリアリ~ ねえアリアリ~ マジ大丈夫!? ちょマジ返事して……!」


 あんなに元気に喋っていたアリアが、決闘開始時の魔力導入で悲鳴を上げてから一度も口を開かないのだ。

 時折、思い出したかのようにビクンと痙攣するので、死んでしまったわけではないらしいが心配にもなる。

 何故なら彼女はそんじょそこらの剣ではないからだ。


 宝剣中の宝剣、聖剣中の聖剣。その剣無しに聖魔大戦後期は語れないと史学者は口を揃え、多くの詩人にその偉業を謡い継がれてきた、伝説の御剣、『聖剣アリア』なのだ。

 聖剣アリアより上位の武器など、カラドボルグ含む12神器以外には存在しない。少なくともチャラオは知らなかった。そして12神器といっても、完全な形で現存する神器は無いと言われており、聖遺物指定をした教会の脚色があったとしても、実質、聖剣アリアが頂点に立っていると言っても過言ではない。

 神話の忘れ形見、死んだ伝説12神器などよりも、生きた伝説聖剣アリアなのだ。


「もしかして、オレやっちゃった系……?」


 なにより、アリアはチャラオの数少ない友人の一人である、イサオの厚意によって貸してもらった剣なのだ。

 彼が召喚されて以来、ずっと一緒に戦ってきたであろう相棒を自分が壊してしまったとすれば、一体全体何て謝ればいいのか想像もつかない。

 チャラオが馬車に揺られながら頭を抱えている時だった。

 

『う、うん…… んんっあっ あれ、私は……』

「うおっ! アリアリ起きたん!? っつーかマジどーしちゃった系なの急に?」

『あ、いや、急にスゴイのが来んあっ…… まだ……残って、あっ みたい……』


 アリアは目が覚めてもまだ断続的に痙攣したり、刀身を捩らせたりしている。

 金属が痙攣したり捩ったりちゃんちゃらおかしい話なのだが、不思議金属だからしょうがない。

 だがそんなアリアの様子を見たチャラオは一つの懸念を抱いた。そうだ、これではまるで……


「アリアリ、うんこしたいの?」


 排泄を我慢する淑女みたいではないか。剣に何を言ってるんだと言われるかもしれないが、その剣が喋ったり跳ねたりうねったりするのだ、うんこしたって今更驚きはしない。

 するとアリアは寝起きとは思えないほど熱く濡れそぼった声で言った。


『いいえ、違うのよ』


 剣とはいえ、自称女性に向かって暴言とも取れる発言をしたチャラオに対し、少しの憤りもないのだと妖艶に微笑む声音。それはまるで大人の女の余裕のようだった。


『私は聖剣だからうんこしないのよ?』


 さも普通の剣ならうんこします的な言い草だが、不思議と説得力があった。チャラ男は安心する。

 正直、借りたものをちゃんと返せないとかありえないし、それが親友に無理を言って借りた愛剣ともなると尚更だ。

 ちょっと扱い方を間違えて彼女の意識を失わせてしまった事と、結果として断続的な痙攣が治らないことをキチンと報告しなければならないと思うが、最悪の事態は回避できたようだ。

 気が軽くなったチャラオはいつになく軽口を叩く。


「おならもマジしないの?」

『おならもしないわ、聖剣だもの』

「アリアリマジウケるし! っつーか今回はマジ感謝!」

『いいえ、感謝しているのは私よ、新しい世界を見れたのだから』 


 何やら最初に比べ口調がおかしくなっているような気がしないでもなかったが、あまり気にしない事にした。


「いやいや、マジこっちのセリフだから。っつーかオレマジ超感激してっし 伝説の聖剣をマジ一瞬でも触れるなんてマジありえねーっしょ」


 素直な気持ちだった。それに間違いなく事実でもあるだろう。生きている間に伝説の聖剣に触れられる冒険者が一体どれくらいいるというのか。

 するとアリアがこんなことを言いだした・


『もっと触っても、いいんだよ……?』


 文字だけを見たら甘く退廃的な台詞、だがそれを言ってるのが剣だというのだからどうしようもない。しかしそれでもチャラオは優しかった。

 

「えーマジっすか じゃあちょっと刀身マジ見せてもらっちゃうね」


 とは言うものの、聖剣アリアの美しさはホンモノだ。

 今やその製法すら残っていないロストマターで鍛え上げられた刀身。そしてそこに宿るのは気高き魂と、白刃の海を泳ぎ魔弾の嵐を進み、それでもなお折れない強靭な誇り。

 それは妖刀や魔剣と呼ばれる武器に感じる陶酔感とはまた別の感覚だ。この刀身が見せつけるのは、完膚なきまで正しき生き様。見る者を捉えて離さぬほどそれは暴力的に煌めくのだ。

 チャラオはブルっと身を震わせ我に返った。呑まれると思ったのだ。


『もっと、ずっと見ててもいいんだよ……?』 


 グイグイ来るアリア。

 チャラオは、そんな彼女に対し、言葉に言い表せぬ違和感を感じ始めていた。


『このまま私を持っていてもらったって構わないのよ?』

「でもさー アリアリって女っしょ~? オレマジ他人の女には絶対手ぇ出さないってマジ決めちゃってる系なんだよねー ガチで」

『他人の女? イサオのこと? 違うのよ、彼とは何でもないの。ホントよ』


 一体君は何を言ってるんだい?と突っ込む場面なのかも知れなかった。

 だがチャラオは突っ込まない。尻軽女のような彼女の振る舞いに感じる違和感、その正体が何となくわかってしまったからだ。


「いやー嬉しいんだけどさー マジ俺的にねーわー なんだかんだマジ忘れられないよー? イサオちゃんほどちゃんとした男もいねーって」


 いつもと同じ軽い調子で返した言葉、だがその言葉が的確に本質を抉った。


『だって、イサオは私よりノリやオルテナのほうが大事なんだもの! 私はいつもお留守番よ、お荷物なの! だって…… 構ってって言っても構ってくれないし…… お昼寝だって一緒にしてくれるって言ってたのに忘れてる……っ! 頼むぞって撫でてくれなくなったし、ちっとも褒めてくれないし、怒ってばっかりだし、入浴させるとか塩水とか死刑とか……っ! 我だって…… 我だって大事にされたいのに全然見てくれない…… 我のこと見てくれんのじゃっ!! うぅ、ふぐぅ……』 


 声を上げて泣き始めるアリア。チャラオはそんな彼女を優しくさすりながら語りかける。


「ほらねー マジ好きなんジャンよ? それに見てたらマジわかっちゃうんだよねー アリアリちゃんと手入れされてるよ? ちゃんとマジ大事にされてるよ。イサオちゃんには俺からもマジ言っとくからさ。ホラ、泣いちゃったら可愛いアリアリマジ台無しよ?」

『だって…… だってぇ……!』

「いいから、ホラマジ思い出してみ、悪い事ばっかじゃないっしょ?」


 しゃっくり上げながらアリアが逡巡する。

 しばらく、蹄が地面を食む音と車輪が地面を掻く音だけが耳に届いた。

 たっぷり5分はそんな時間が過ぎただろうか、アリアがポツリポツリと語り始める。


『鞘を新調してくれた……』

「他には?」

『名前入りのカバーを頼んでくれた……』

「それだけ?」

『戦争の後、いつもありがとうって……』


 チャラオは、優しい笑みを浮かべてアリアを撫でる。それはまるで、泣きじゃくる少女を優しく慰める兄のようだった。少なくとも彼には、偉大な聖剣でも何でもなく、涙を流す純粋な少女アリアの姿が見えているに違いない。

 そうしてしばらくゼプツィールの街を馬車が進んでいると西部緑地公園に差し掛かる。何となくその風景を眺めていると偶然見知った影を発見した。


『わたし、我は……』

「あ、ホラ、マジイサオちゃんだよ、ホラ見てちょ、なんか超マジで植木刈ってるんスけど。う~い!イサオちゃ~~ん!!」 


 すると緑地公園の植木を奇抜なフォルムに刈っていた親友が、剣を持ったままこっちに手を振ってきた。いつも通り頭の上にいる幼竜もブンブン右手を振っている。

 何となく癒されたチャラオは苦笑しながらアリアに目を向けた。そして異変に気付く。


『なん、じゃ……アレは……?』


 アリアがまるで鮮魚のようにブルブル震えていたのだ。


「ん? アリアリどしたん?」

『誰じゃ……』


 それは怨嗟。

 喜怒哀楽の激しい天真爛漫な彼女から漏れ出すドス黒い呪言。

 か弱い少女が健気に立ち上がろうとしていた、そんな先程までの雰囲気など最初から無かったかのように、一瞬で禍々しい空気があたりに満ちる。

 シューシューと音を立てて噴き出す黒紫の聖気があっという間に馬車に充満した。


「え? ちょ、え、アリアリ? アリアリマジどーしちゃった!?」


 伝説の聖剣から明らかに有毒な何かが出ていることにビビるチャラオ

 普段は何事も適当に流し、のらりくらり生きている彼が全力でテンパっていた。

 だがそれは一向に収まる気配はなく、それどころかアリアの震えは魔力震を伴い始める。

 局地的な魔界と化した馬車周辺、その中心でアリアが絶叫した。



『その()は誰じゃぁぁぁぁ~~~っ!!!』




 □□□□□□□□








◇ ◇ ◇ ◇










 今日、俺は最近は当たり前になってしまったオルテナの弁当を持って、緑地公園の植木の枝刈りに来ていた。

 去年、初めてこの仕事を受け、あまりに単調な仕事に嫌気が差した俺は、何の気なしに1本植木を人の形に刈ってみた。すると何だか楽しくなってきて、他の植木をイルカっぽく刈ってみたり、船っぽくしてみたりした。

 途中から変なスイッチが入り夢中になってやっていると、公園管理事務局の人からお呼び出しがかかる。ふと我に返って顔を青くした俺だったが、是非このまま色々作ってみて欲しいと言われ、大義名分を得た事もあって節操無く色々試してしまったのだ。

 

 結果としてそれらの植木目当てに公園に遊びに来る人が増え、事務局の偉い人には、「今度からは指名依頼を出すから必ず参加してくれ」とまで言われてしまう。

 それ以来、年数回指名される枝刈りは、俺の持ち仕事の中で一番割のいい仕事となっていた。


 元々凝り性の気があるらしい俺は恐ろしい集中力を発揮し、どんどん腕を上げて今ではノリちゃんの形に刈れるまでになってきている。

 今刈り終わった目の前の植木は、4方どこから見ても盾に見えるように仕上げた。隣に根付く細長い形の植木を今度は剣の形に整えれば、小さい男の子が大喜び間違いなしのカッコイイ植木となるはずだ。

 

 俺は植木を見て喜ぶガキ共の顔を想像してニヤついた。

 よしっと気合を入れ、次の相手である細長い植木に一刀入れた時、チャラ男の声が聞こえた。


―――うーい! イサオちゃ~ん!


 声の方を見ると、簡素な馬車に乗ったチャラ男が手を振っている。

 どうやら無事立ち合いを終え帰って来たようだ。アリアが迷惑をかけていないか心配だったが、パッと見た感じ参っている様子は伺えない。


「おーう、おつかれー!」


 俺はホッとしながら両手を振った。すると頭の上のノリちゃんも手をブンブン振っていた。相手がいつも優しくしてくれるチャラ男だから嬉しかったんだろうと思う。

 馬車は別に止まる事も無くゆっくりと大通りに向かって行く、ギルドの報告を先に済ますのだろう。ああ見えてあいつは律儀な男だから、急がなくても直接アリアを返しに来るだろう。そう思って仕事に戻ろうとしたその時

 

 凄まじい怒号が響き渡った。

 


『その()は誰じゃぁぁぁぁ~~~っ!!!』



 俺はギョッとして声の出所に目を向ける。

 向けた視線の先、そこは物騒な色の瘴気が満ち満ちる魔窟と成り果てていた。

 真昼間の公園に顕現するにはあまりにも馬鹿げたその光景に数秒間、脳が活動を停止した。

 本来ならたっぷり10秒は呆けていた場面と思う。だが俺は一瞬で我に返った。

 自発的に我に返った訳ではない。急迫不正の危機が迫って来たからだ。


『こんの裏切り者ォォォ~~~~っっ!!!』


 闇が、若しくは毒々しい塊が飛んできた、そうとしか表現出来ない。

 バーンという破砕音と共に馬車の横壁が爆散し、禍々しい気配が一直線に向かってきたのだ。

 結果から言うと、とっさに避けて正解だった。あんなもん喰らったら、せっかく買ってもらった剣が粉砕されたあげく、体が爆発すること請け合いだ。


 ソレは俺に躱されたと知ると、ザザザっと地面を抉りながら止まり、ユラリとこちらを向いた。

 ソレの目は完全に裏返り、瞳の無い眼が赤黒く光る。うさんくさい金髪は黒く染まり、元々浅黒い肌は今やどこぞの魔族の様に黒紫の肌へと変貌を遂げていた。

 俺は知っている。それは呪いの武具に魂を喰われた者の特徴だった。そしてその男はチャラ男だった。


 俺の背中を薄ら寒いものが駆け抜ける。

 そしてチャラ男は、カハッと口から瘴気を吐くと再度俺に切りかかってきた。

 俺は安剣の耐久限界まで魔力を通すとその剣を受ける、金属のぶつかり合いでは有り得ない重い音が響き渡り、あたりに衝撃波を撒き散らした。

 そして俺達は鍔迫り合いへ移行。

 俺が冷や汗を流していると、チャラ男が言葉に瘴気を纏わりつかせながら口を開いた。

 

(なれ)よ、いいご身分じゃのう。我がいない間にやらかしてくれおって…… いつの間に誑し込んだんじゃ!ええ!? もういい死ねっ!!』

「おいアリア! おめーチャラ男になんてことしてくれてんだよっ! 完全に呪いの剣の所業じゃねえか!」

『黙れ…… それ以上口を開くな汝よ……』


 トチ狂っていた。チャラ男の口からアリアの声が聞こえる時点で色々終わってる。

 ノリちゃんはとっくに避難してオロオロと飛び回っている

 アリアが何を言ってるのか全く分からなかったが、とりあえずこのままだと殺されるということは良くわかった。


「ま、待てってアリア! お前何言ってんだ、ちょっとマジで話聞けって!」

『我というものがありながら他の()に手を出しおって…… その罪万死に値する……っ!』


 鍔迫り合いでは勝負がつかず互いに押し合う形で距離をとる。

 俺が肩で息をしながら正眼に構えていると、何やらそれが気に障ったのか、一本1万ギルの剣にアリアが若干涙声で威嚇し始めた。


『何をした! どんな手を使ったんじゃ! どうせあれじゃろう、体じゃろう! 大した力も無いからDTこじらせてる主にいやらしく露骨に迫ったんじゃこの泥棒猫がっ!!』


 一体何を言っているのかがもう本当にわからないが、どうやら昼ドラ的な展開になっているらしかった。言ってる台詞はもう完全に旦那を寝取られた女のソレだ。

 泥沼劇に必ず必要な役どころではあるが、それを高い攻撃力を備えた伝説の剣が人間を乗っ取ってカマしてくるとか、マジキチにも程があるのではないか。まあそこは異世界ファンタジーだから、といって笑えるラインはとっくに逸脱しているし、そこまで俺のスルースキルは高くない。コイツは正真正銘メンヘラの基地外だ。

 そしてドラマのメンヘラもこの上なく包丁と相性が良いが、俺の愛剣(メンヘラ)はそのものが刃物だから余計に性質が悪い。

 だが俺にはそんなことより気がかりな事があった。


「おいアリアっ! ノリちゃんの前でDTとか言うんじゃねえっ!」


 するとやっぱり隙は逃さないノリちゃんが素早く反応する。


「あるじー どーてーってなーにー?」

「ほらぁ~~~!」


 そして彼女は捕まえた獲物は決して逃さないタイプだ。


「あるじー どーてーって―――」

「の、ノリちゃん、あのねっ それは虎視眈々と魔法使いを目指す人の事なんだよ」

『汝はすぐそうやって嘘をつくんだから!』

「てめーは黙ってろ! それに俺の国ではそういうことになってんだよっ!」


 アリアはムキーっと叫びながら地団太を踏んだ。


『じゃあ何じゃ! 何でそんな剣持ってるんじゃ! 我じゃ不満か! 我の体だけでは不満なのかっ!』

「だから誤解されるような言い方すんじゃねえっ! どんだけキメたらそうなンだよ! 俺どんな変態だよ!」


 俺は神に誓ってノーマルだ。断じて剣プレイなんか(たしな)んでいない。ていうか何だ剣プレイって。何すんだよ。

 アリアのあまりの飛び具合に頭が痛くなってきた。 


『じゃあ…… じゃあ何でそんな剣持っとるんじゃ! 若さか?若さなのか!? 汝の炉利コンっ!』

「だからノリちゃんの前で―――」

「あるじー」

「もぉぉぉ~~~!!」


 するとアリア(チャラ男)は地面に倒れ込むと、そのままスーパーで駄々をこねるガキの様に地面を転げまわった。

 ノリちゃんも真似して転がり出した。


『じゃあ捨ててよー! そんな剣捨ててよーっ!』

「すててよー」


 誰だよこんな立派な剣にこんなアホの魂入れた奴

 芝の上で手足をバタつかせる我が愛剣の姿を見ていると涙が出そうになった。


「い、いや、これオルテナに買ってもらったモンだし……」


 ピタッとうつ伏せで止まり、芝生を引き毟りながらワナワナ震えるアリア。

 ノリちゃんはうつ伏せで大喜び


『オルテナ、またオルテナじゃ! いいもん! じゃあそっちを採るんじゃな…… 我じゃなくてその貧相な女を採るんじゃな……っ!』


 もうやだこの剣


「選ぶとかそういう話じゃねえだろ」

『選んで! 聖なる我とそのみすぼらしい女、どっちを採るのか選んでーっ!」

「ていうかこの剣そもそも女じゃねえし、生物ですらねえよ!」


 一体全体このバカ()は何に嫉妬しているのだ。

 俺はもうこのアホを放置して帰ろうかとも思ったが、このままではチャラ男がリアルに廃人になってしまうので、何とか踏みとどまる。


 1年前ほど前にもこんなことがあったのだ。

 酒場で相席になった冒険者の剣をお世辞半分に褒めた時のことだ。変なスイッチの入った彼女は怨念モードで相手の剣を腐食させるとこう言った。

―――主に色目を使うからじゃ

 俺は、ザマァ!! と高笑いする彼女を無言で引っ掴んで帰って無言で塩水に漬けた。

 ごべんなざいいぃぃ と泣き叫ぶ彼女を引き上げて、「次は溶かすぞ」と脅しを入れることも忘れなかったが、蓋をあけてみるとこのザマだ。

 

 ここで「もう勝手にしろ」と匙を投げることは簡単だ。

 だがそうすると、紫外線をこよなく愛するチャラ男は自身の想定をはるかに超えた黒い肌で生きていくことを余儀なくされてしまう。

 ただでさえ洞窟内で見にくかった彼は、魔法無しに完全に闇と同化する至高の斥候職となるだろう。

 

 昼ドラモードに入ったアリアさんには昼ドラトークしかない、真昼間の公園で金属相手になぜ桃色トークを繰り広げなくてはならないのか、納得など出来る筈も無いが、チャラ男に迷惑をかけたまま放置するわけにもいかなかった。

 俺は覚悟を決めると軽く俯く。深く息を吐いて、キリっと顔を上げる。そして言った。


「アリア、コイツはな、『雑用剣』だ」

『――っ!』


 ビクっと体を震わせるアリア


「君に雑用なんかやらせられないだろ? だからコイツを買ったんだ」

『そ、そんな! だって、我だって……!』


 段々と収まっていく瘴気。普通の血色を取り戻し始めるチャラ男

 正確に言うと、この脳内爆裂娘を雑用で使うと色々うっさいから買おうと思ったモノなのだが、ウソはついていない。

 もうひと押しだった。


「君はねアリア、『トクベツ』なんだ……」

『と、とととととと、トクベツ……?』


 不穏な気配は綺麗に消え、元に戻ったチャラ男が気を失って芝生に横たわっている。アリアだけがその手を離れ動揺を隠せずカクカクしていた。俺は迷わずとどめを刺す事にする

 

「雑用剣など戯れだ。俺が本気なのはアリア、お前だけだよ」

『ほ、ほほ本気なのは我だけ……!?』


 割と最低なことを口走ったような気がするが、アリアは効いたようなのでとりあえず置いておく。

 桃色思考全開なアリア(バカ)は本当にチョロい。

 俺が内心ほくそ笑んでいると、アリアはおずおずと口を開いた。


『我は、とくべつ……?』

「ああ、そうだ」

『あの()とは、遊び……?』

「あそ…… あ、ああそうだ……」

『我が一番大事……?』

「(剣の中では)そうだ」


 するとアリアはブルブル震えだし、そしてピカーっと光った。


『やたーーーーーーっ!!!』


 びったんびったん跳ね回る聖剣様。

 アブねえって、チャラ男さん切りそうで危ないって

 

 するとノリちゃんが言った。

 

「とくべつはおやつ3つまでたべれます! あるじー ノリはとくべつですか!?」

「ノリちゃんは『最高』です。最高はおやつ5こまで許しましょう」


 キャッキャッキャッ


 アリアと一緒に跳ね回るノリちゃん。

 

『汝よ! 我も植木刈り手伝うぞ!』

「ノリもてつだうー」


 アリアの嫉妬は、正直色々アレ過ぎて勘弁してほしいが、愛剣にここまで必死になられて少しも嬉しくないかといえばそうでもない。

 頭はイカれてるとは思うがいじらしいと思わなくも無いのだ。


 俺は苦笑するとキラキラ刀身を輝かせてるアリアを掴んで、植木の枝払いを再開した。もともと剣の形に剪定をするつもりだったが、アリアをモデルに刈ってやるか。

 俺も大概毒されてるなあと思いつつも、一番付き合いの長いアリアを思うが儘、振りまくった。

 しばらくすると、チャラ男が起き出して、頭を押えながらキョロキョロあたりを伺っていた。


「あー オレマジどうしちゃった系? 全然マジ覚えてねーんスけど」

「悪ぃなチャラ男、ウチのアホが迷惑かけちゃって」

「んあ? 別に迷惑なんてマジかかってないけど?」


 どうやら先程の事は覚えていないようなので、色々と無かった事にしようと思った。

 

「んなことよりさー マジ良かったじゃーんアリアリ~ 仲直りマジ出来たんしょ?」

『うんっ!』

「うぃ~ね~~~!!!」


 なんていい奴だ。

 聞いた限りでは、おそらくアリアが相談か何かをしたのだと思うが、それをキチンと聞いていてくれたらしい。色ボケ剣のことだから、マトモな相談だったとは思えないが、それでも素直に気遣ってやれるとは、どんだけデキる男なんだと思う。

 俺が感心しているとチャラ男が俺に向かってニヤリと笑った。


「っつーかさー イサオちゃんもマジイサオちゃんでさー アリアリの事もマジちゃんと褒めてやんなきゃマジ駄目っしょ。女の子なんてマジ褒めときゃマジ大抵何とかなるんだからさー」


 割と失礼なことを軽くぶっちゃけたチャラ男


『そうじゃ! 汝は褒めておけば我は大抵何とかなるんじゃ!』

「お前はホントどうしようもない剣だな」


 俺はため息一つ、

 未だ嬉しそうに跳ね回るノリちゃんの頭を撫でると、雲一つない秋空を見上げた。

 




□□□□□□□□□






「ただいまー」

「ただいまー」

『帰ったぞ』

「おかえりみんな」


 エプロン姿のオルテナが俺からバスケットを受け取ると、いそいそとご飯の支度に戻っていった。

 俺はその足で風呂場に行くと、虚空から水を発現させ、俺特製の伝熱方陣を潜らせ湯船にお湯を張る。

 

「オルテナ― 俺先に風呂入っちゃうよー ノリちゃんおいで」

「おふろだー」


 すると隣の部屋から「い、いけませんぞ!」とか「この淫獣めが!」とか騒ぐ声が聞こえてきたので、とりあえずケツファイアーさせるべく隣の部屋に乗り込もうとした時だった。

 

―――パタパタパタ


 突然目の前に現れた鳥型の魔力体がポイッと俺に手紙を放った。

 誰かな? とかは思わない。

 世界広しと言えども、俺の生体魔力にアンカーを打っているのは彼女しかいないからだ。

 俺は困ったようにため息をつくとその手紙を広げる。そして固まった。

 

 その手紙にはこう書かれてあった。




 愛しい私の夫へ


 は~い! ドロちゃんだよっ! (キラッ☆)

 いっくんは一体今何してるのかな?(ドキドキ)

 ドロちゃんはね、今手紙を書いてました!(ズッコケ)

 でもね、なんでいっくんはいつも返事をくれないのかなあ?(シクシク)

 ドロちゃんはいっつもいっつも待ってるのに…… でもわかってる。わかってるの、恥ずかしいんだよね? そんないっくんもカワイイ!(キャっ)

 そういえばドロちゃん最近ね、ちょっとおっぱいがまた大きくなってきて、オッパイで窒息したいって前にいっくん言ってたでしょう? だからね、大きくなりますように~ って神様にお願いしてたら願いが届いたみたいなの。今はバストも93くらいあるよ! やっぱり神様も私達の事祝福してくれてるっって思っちゃったドロちゃんでした♪

 それでね、ドロちゃんはね


   ~中略~


……て思ったドロちゃんは今、いっくんのためにこの体を磨いています♪ キャっ 言っちゃった!

 何で体なんか磨いてるのかって? ウフフ…… それはね~ な・ん・と! 会いに行く事に決めちゃったからなんだ! ドロちゃんいっくんに会いに行く、の巻~ なんつって~ (テヘぺろ)

 それでねー 実はー ドロちゃんもういっくんの近くにいたりするんだよ!(エッヘン)

 でもこの街は怖いね! この前なんかはパンツを被ったヘンタイさんにパンツ何色?って絡まれちゃいました……失礼しちゃうでしょ!(プンプン)

 だからねー 被ってるパンツをちゃんと赤く染めてあげたお! ドロちゃん凄い? 褒めて褒めて~

 とにかく、今はいっくんの魔力たどり中で、もうすぐ特定しちゃうんだから! お手紙くれないいっくんが悪いんだから!

 会ったらギュ~ってしたいな? してくれるよね?

 じゃあ近々逢いに行くね~(ノシ)

                     イサオのドロテアより 


 P・S


 浮気、してないよね……?

 



 

 俺は思わずその手紙をクシャっと握りしめた。


「魔王が……来る……」


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