第7話 喜びの来客
――囚人番号五十六番!、起きろ!
クロウは俺の事かと目を覚ます、こんなうるさい朝を何年も迎えるなんてごめんだ。
朝から起床したかと思ったら服を着替えて速攻で仕事開始。
こきつかわれているが、これも全部よく見れば監視カメラやチョーカーの開発だ。
つまり、取締役の奴らにいいように使われている事になる。
せっせと働かなかったら鞭打ち、それで倒れたやつはどこかに連れて行かれていた。
連れて行かれたやつは二度と戻らない、それを他の囚人から聞いた瞬間クロウは分かった。
――使えないやつは処刑される。
これも当然ということなのか……彼の中にある恐怖心がこみ上げてくる。
でも、周りの奴らは見て見ぬふりをして恐怖心を押し殺している。
ここはもう、地獄だ――。
俺は牢獄で働いて今日は初日、動揺するのも無理はないと周りは言う。
そして、クロウ達が働いていると昨日クリスが話していた取締役の1人が偵察に来ていた。
喜納立夏、喜びの感情を取り締まる政府の人間らしい。
「この人達が、ココルの従業員たちですかね?」
「そうだ。使えないやつもいるが、みんなせっせと働いているよ」
一緒に話している相手は怒りの感情を取り締まるこの収容所の署長、赫怒蓮だ。
クリスの言った通り、取締役が二人。とても今日は脱獄できそうにない。
そして、午後六時。みんな牢屋へ戻される時間だ。
戻される直前、みんなは怪しいものを持ち込んでいないか徹底的にチェックされる。
クロウ達の検査をするのは偵察に来ている喜納立夏だった。
彼女は彼の身体をボディチェックする。そして、チェックを終えると無言で突き放す
ちょっと強引な感じでクロウ達を投獄し、彼女は去っていった。
そしてクロウは一つ、あることに気付く。クリスの姿がそこにはない――。
「全員、ちゅうもーーく」
監視者の1人が大きな声でみんなの注目を集めた。
「これより、本日この収容所を去った者達を告げる」
去った者ってつまりは釈放されたって事なのか?
こんな国にも『懲役』という概念があったという事なのだろうか……
そんな事を考えている間にクロウの知っている名前が挙がった。
「クリス・レイアード!」
クリス?クリスが釈放されたのか!と期待は高まる。
だが、やはり現実はそんな甘くなかった……
「以上の者達は本日、碧波様の命により黄泉へと向かった!」
黄泉へ向かった……
その瞬間、俺は青ざめた。一気に血の気がなくなって、完全に絶望したんだ。
黄泉……冷静さを失った。黄泉……感覚を失った。黄泉……クロウは8年前……
家族を失った――。
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」
全てがフラッシュバックした。
もしかしたら、もう一生ここから出られないかもしれない。
もう二度とキャットにも会えないかもしれない。
次の瞬間に彼、――レヴィ・ディアスは意識を失った。
「……おい、大丈夫か?」
聞き覚えのある声と共に目覚めた。監視役は既にいなくなっていて、時刻は午後九時すぎ。
倒れた彼に声を当て続けていたのはアルビーだった。
クロウは目覚めたばかりとはいえ、居ても立っても居られずに……
「クリスは?なあ、あいつは死んじまったのか?」
クロウはアルビーを強く揺さぶりながら聞き出した。
そして、アルビーは下を向いて答える……
「ああ、残念だが……。ここはいきなりの死刑宣告と同時に執行されるからな」
あまりにも残酷な現実。クロウはここに入った時に思った事を撤回した。『外よりも安全に計画が練れる』という甘すぎる考えを……
本当なら、今日クリスから取締役の正体を聞き出して2人で脱獄計画を練る予定だった。
でも今は、脱獄どころか動揺してそれどころではない。
手足は震え、髪をぐしゃぐしゃにして頭を抱え、恐怖と絶望だけが身体に刻まれた。
アルビーもダロンも今まで共に過ごした奴がある日突然、なんの前触れもなく死んだというのは受け止められないはず……
でも二人は哀しまない。いや哀しまないんじゃない、恐怖に支配されて感覚が麻痺してるんだ……
そんな二人を見て、クロウは何も出来ない自分が一番情けなかった。
『少し冷静になろう……』そう自分に言い聞かせる。落ち着いて手を下ろしてみると、囚人服のポケットに違和感がある事に気付いた。
何かと思って取り出してみると……『鍵』が入っていた。
「鍵……?」「鍵が入ってる!」
それを聞いてアルビーとダロンは驚く。
「それ、確かにカギだ」
「ああ、しかもただの鍵じゃない!マスターキーだ!」
アルビーは即座にマスターキーであると見抜いた。
それは彼が、赫怒蓮の持ち歩いていたマスターキーの形を覚えていたからだ。
こいつは観察力が鋭い、クロウはそう思った。
これは『脱獄しろ』という神からのお告げだろうか。
しかし、なんでクロウのポケットの中にマスターキーが入ってるのかは全くの謎である。
「おい、クロウ。これはもう決行するしかないぞ!収容所の内部について教えるからちょっと来い!」
「あ……ああ!」
――この時、クロウは考える事を止めた。
今はなんでキーが入ってたかなんてどうでもいい。
とりあえず、みんなで脱獄を計画する。
そして、絶対にここを抜け出してやる!
もう、何もできない自分からは卒業する。
誰かを守れるような人間になる。
そして、今度は自分がキャットを助け出してみせる!
――絶望するのはその後でいい。