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エモーション データ  作者: 微風シオン
凰和国編
18/19

第18話 ライ(Rye)


 ――やっと着いたか。


その台詞と共にクロウは『凰和国』へと上陸した。

この国は紅葉が辺り一面に広がっており、和風な雰囲気と秋の季節を思わせる。

しかし、上陸して即座に再び非通知の電話が鳴り響き――


「もしもし」


「ああ、クロウ。無事に上陸出来たみたいだね」


電話の相手は謎の人物である『ラクーン』からだった。

今のクロウにとってラクーンは貴重な味方であると言えるだろう、この国ではユートピアの崇拝者もいなければキャットも居ない。さらには人工知能アライも国に上陸する少し前から反応がないのだ。

アライはこの国では機能出来ないのかと思っている矢先、ラクーンからの忠告が入る――


「アライは今、この国にある障害となる者を排除している所だろう。全く賢い人工知能だよ」


「障害って何のことだよ」


「まあ、その内分かるだろうね。それでは私は失礼するよ、あまり長話をするとセンティメントの連中に感づかれるからね」


そういうと電話は一方的に切られた――。

アライはこの国の障害となる何かを排除している最中だという。それは考えても分かるものではなく、クロウは今専用モードが使えないという事だけを頭に叩き込んだ。


「まいったな、今敵が襲って来たりしたらヤバいかもしれない」


凰和国は別の国の人間に対して差別が激しい国、状況はシャーレットと何ら変わってはいなかった。

唯一の救いがあるとすれば、感情規制法を気にして動かなくてもいいという事だろうか。

その点だけは胸を撫で下ろした。


「助けてくださーい!」


それもつかの間、突如として助けを求める声と共に走っているのは白い髪を持ち、緑色の眼をした幼い少年だった。

追っているのは凰和国の人間達だろうか、茶色の警備服を着ていて『三十八式歩兵銃』を背中に担いでいる兵士が三人。現代で例えるのなら昭和の日本兵が持っていただろう。

幼い少年が助けを求めている以上は助ければいいものを周りの大人達は彼を助ける素振りを見せない。

この国には縛るものなどないはずなのに、なぜ大人達は助けないのだろうか。

その疑問がクロウの胸を締め付け、彼の足を動かした。


「おい、お前ら。そいつ嫌がってんだろ」


次に言葉、堂々としたその態度は兵士達の目に留まり、注目を集めた。

シャーレットから来ている以上、本来ならば言語の問題などもあっただろう。

しかし、クロウは凰和国の言語は既に物にしている。初めて母親から習っていて良かったと思った瞬間だ。


「誰だ、貴様。この国の者ではないな」


三人の内、リーダー格に立つ一人の兵士はクロウを鋭い目つきで睨みつけて警戒する。彼の背中に記されている『不死鳥の紋章』は凰和国の兵士の中でも上位の者が持つものであった。しかし、クロウは怯むどころか余裕の表情を浮かべてその兵士に盾突いた。


「シャーレットから来たならず者ですよ。この国じゃこんな小さい子供相手にそんな危ない玩具を振り回すんですか」


その台詞に対して周りに居る二人の兵士達は鼻で笑って答えた。それよりもクロウの放った台詞は自殺行為に等しい。なぜならば、シャーレットと凰和国はセンティメントが操作した影響で険悪な仲が続いており戦争状態になってもおかしくない状況に陥っていたからだ。

当然の如く、そのクロウの発言はリーダー格の兵士を怒らせた。


「シャーレットから来たという事は感情に対してナーバスになるだろう。我々のように思いっきり感情を出したこともない貴様など……」


その言葉を最後まで言わせなかったのはクロウのラートフォンだった。

専用モードは使えなくても、銃の形に変形させてリーダー格である兵士の顎へと銃口を突きつける――。

この状況はクロウが兵士達との会話の最中にゆっくり接近して作り出したものだ。

殺気も感じさせずに接近し、堂々と銃口を突きつけられるというのはクロウがただ者ではない事を意味している。突き付けられたその瞬間、兵士を襲ったのはただならぬ『恐怖』だろう。足は固まり、顔には汗が一気に出て涙目になっている。無論、そういう『恐怖の感情』を表に出した時点でクロウへの勝ち目はない。

そして、その一部始終を静観していた一人の兵士が――


「それは、取締役のラートフォン。センティメントの方でしたか、失礼しました!」


そういうと兵士は少年を解放し、クロウの方へと歩かせた。

クロウも突きつけていたラートフォンを下ろして少年を保護する。

その後、兵士達はそそくさと帰って行った――。


兵士のあの言葉に耳を貸す必要はない、クロウは感情を表に出す事に関しては何も思わない。

事実、彼はシャーレットで二回『感情規制法』を破っているのだから。


「あの、助けてくれてありがとうございます。お兄さんもセンティメントの人なの?」


「いや、あいつらが勝手に勘違いしただけだ」


少し不思議そうな顔をする少年に目線を合わせる。クロウは昔の自分を重ねたのだろう、自分が兵に囲まれたのもこれぐらいの歳だったなと――。


「そういえば、お前名前はなんていうんだ」


「分からない……」


名前が分からない、少年の口から出た言葉を推測するならば『記憶喪失』である可能性が高い。

少年が狙われる理由も不明だが、クロウはそれを見ていられなかった。

すると、クロウは少し微笑んで少年の目線までしゃがんで告げた――


「じゃあ、お前の名前は『ライ』でどうだ」


「ライ?」


「ああ、名前が分からないんなら俺が付けてやる」


「うん、ライって名前気に入ったよ。ありがとうお兄ちゃん」


少年のその反応を見て、クロウは昔の自分とまた重ね合わせた。

それは八年前に終息不明になった、あの妹にお礼を言われる自分の姿だ――。


――ありがとうお兄ちゃん。


一瞬、妹の声が聞こえたように感じ、クロウは涙を流した。

両親が殺害された後に逃げ出して妹を救えなかった事とあの日の自分に対する怒りが込められた涙だ。


「どうしたの、お兄ちゃん」


「いや、何でもないよ」


涙を拭いて前を見ると、横から微風が吹く――。

それは心地よく、涙の後に触れると少し寒く感じた。































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