第16話 凰和国への道標
シャーレットとは隣国であり、険悪な仲にある国―― 凰和国。
その国は他の国民に対する差別が激しいと有名だった。
碧波の正体や奴らの目的を探る為にも、クロウはその国には行かなければならない。
しかし、厳重警備で他国の干渉すら受け付けない、今のシャーレット国から脱出するのは容易ではないのだ。
「この国から出るのは容易じゃないかもしれないな」
そう考えているクロウの右ポケットが震えている、ラートフォンに誰かから電話がかかって来ていたのだ。
画面を見ると非通知で誰からなのか分からない、クロウは少し疑いながらもその電話に出た。
「はい」
「はじめまして、クロウ」
誰なのかは分からず、碧波のように変声された声で喋っている。
謎の人物はその電話越しにクロウの事を知っているような言動を続けた。
「私が今から君をこの国から出してあげよう。まずは君が昔行っていたであろうショッピングモールに行ってくれ」
ショッピングモール、その言葉を聞くのは何年ぶりだっただろうか。
クロウはかつて自分の両親が殺害された場所へと再び行く事になる、謎の人物はそこに何があるのかは行ってから話すという。
ショッピングモールの跡地に着くのにそこまで時間はかからなかった。
「おい、着いたぞ。ここには一体何があるんだよ」
「実はここにはこの国から脱出出来る通路が地下に存在している。ちなみに碧波も知らない」
碧波も知らないという通路が地下に存在するという。
恐らく両親は自分達を連れて、ここから国を脱出しようと試みたのだろう。クロウはそう考えた。
そして、ショッピングモールの中を進んでいくと――
「確かにあるな、地下」
モール内は廃墟と化しており、その内部の少し奥には確かに地下へと続く階段が存在した。
クロウはその階段を進んでいくと、そこには海水が浸水していた。
「ここって埋め立て地だったのか」
「そこにボートがあるでしょう、私が用意したものだから。それに乗ってシャーレットから抜け出せる」
謎の人物が自分の用意したボートに乗れと勧めてくる。
しかし、当然ながら誰かも分からない人の言葉をクロウは簡単に信用できなかった。
「ちょっと待て、お前が誰かも分からないのに信用しろってのか」
「なるほど、分かった」
そういうと、相手は自分の名を口にした。
「私の名はラクーン、君の敵でないという事だけ今は伝えておくよ」
謎の人物の名はラクーン―― 明らかに通称名だ、本名ではない。
それでも今はラクーンの言葉を信じるしかなかったのだ。
「そうか、ラクーン。今はお前の言う通りにしよう」
そうラクーンに伝えたクロウはボートに乗ってシャーレット国を脱出した。
キャットがいない今、頼れるのは自分だけ。クロウはそう胸に刻んだ。
「では、クロウ。また向こうに着いたら私から連絡しよう。検討を祈る」
そういうと、ラクーンは電話の回線を切った。
誰だかまだ不明だが、クロウは考える暇がなかった。
船から見る後ろの景色ではシャーレット国が小さくなっていき、遂には見えなくなった。
クロウはボートで海を進む―― 凰和国へと向かうために。