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エモーション データ  作者: 微風シオン
シャーレット編:復讐の奏
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第11話 ファイトレスバード

 ――ココルでの激闘は終わった……。

でも、嬉しい気持ちにはとてもなれない。それは当然だ、仲間が大勢死んだのだから……。

仲間をも平気で切り捨てるという非道なやり方をする比楽光晴あいつとそれを命じた碧波。

取締役の奴らは何を考えているのかが分からない。

そう、クロウは迷走していたのだ。なんの目的も持たずに……。


「そうだ、一度私の知ってるあの店に行ってみない?」


キャットの口から出たのは脱獄犯とは思えない言葉だった。

昨夜脱獄して死体の山を見て、あれだけ叫んでいたのに切り替えが早い。


「アルビーも一緒にどう?」


「いや、俺は遠慮しとくよ。ここは離れた方がよさそうだし」


「そう、じゃあまたね」


そう思えば、自分の暴走を止めたのもキャットだ。

でも、「俺までおかしくなる」ってどうゆう意味だ?単に殺人犯になる事がおかしいって事か?


クロウはそんな簡単な意味ではないと思うようになっていた、いや直感でそう思ったのだ。

そして、事を考えているうちにアルビーは既にいなくなっていた。

収容所は無残に破壊され、もはや瓦礫の山だ。

こんな所に8年も収容されていたクリスはどんな思いで日々を過ごしていたのだろう。

空いた穴は塞がらない。それが心というものだ――。


「こらー、何ボーッとしてるの!?置いて行くわよ!」


「あーすまん!」


クロウは走ってキャットの居る場所へ向かった。

走るごとにその足取りは軽く、自由に走れるとは実は幸せな事であると実感した。

後ろを振り向くと、既に破壊された収容所は見えなくなっていた……。


走りながらシャーレットの海が見えた。

ココルは島の端にあったんだなと、そして人間の感情はこの海の波のようなんだなと。

時には高くなって時には低くなる。人を引っ張る程の力があって

その気になれば感情一つで人を殺せる。

人間が持つ感情という武器はやっぱり恐ろしい――。


そして、それを兵器化するような真似が出来るというのも恐ろしく、下手をすれば世界そのものを破壊できるのではないだろうか。人間に限られた事ではない、動物も虫もみんな感情を持っているのだ。

キャットはなぜ、8年前に自分を助けたのだろう。彼がそんな事を気にしていたのはこの頃からだ――。


「はい、着いたわよ」


「ここは?」


「ファイトレスバード、私の友達が経営してるお店」


また喫茶店かと呆れる。

こないだのようなドンパチな展開は二度とごめんだった。

そう思った顔をしながら、クロウは右側のドアノブを掴み店内へと入る。

「カランカラン」と音がするのはどこも同じ、そして誰もいない。


「ん?誰もいないのか?」


――次の瞬間、彼の視界から天上が見えた。


「侵入者さん、いらっしゃいませ」


次に女性の声、クロウには全く状況が分からない。

彼は今、一瞬にして倒され眼鏡をかけた女性に体術をかけられている。


「痛たたたたたたた」


「何しに来たか知らないけど新聞なら要らないわよ、それともここを閉店に追い込もうとしてるならいい度胸ね」


「そんなんじゃねーよ、話を聞いてくれ!」


クロウの言葉のやり取りが効かずに悪戦苦闘していた時にやっとキャットが乱入してきた。


「ちょっと~、メアリーやりすぎよ」


「あら?もしかしてお仲間?」


両目を閉じて腕を組みながら首を縦に振るキャットを見て店員の女性はやっとクロウを解放した。


「おっと、それは失礼~」


解放された後でもまだ身体に響いている。

この人が強いのは明らかだった。


「紹介するわねクロウ、この人は私の友人メアリー」


「ファイトレスバードを経営しているメアリー・マグノリアです。第一印象最悪だったでしょうがお見知りおきを」


自己紹介だけは妙に礼儀正しいが、確かに第一印象は最悪だった。

クロウは少し戸惑いながらも自己紹介をする。


「クロウです、どうぞよろしく」


「よろしくね、ところでクロウ。なんで今日はここに来たの?」


「そ、それは」


そういえばまだ来た理由をキャットから聞かされていなかった。


「私が連れてきたのよ」


「ココルから脱獄しておまけに収容所ごとぶっ壊したから取締役が黙ってないと思って」


「あーあ、あんたたちそこまで派手にやったの!?」


「そりゃ急いだほうがいいね」


そう言うとメアリーはある場所をクロウ達に教えてくれた。


「ここはディース監視塔、シャーレット全体を監視している取締役が居る」


「つまり、こいつを叩けばシャーレットの感情規制法を廃止させる事が出来るの」


――電光石火の衝撃が走った。

ディース監視塔、ここに行って取締役を倒せばシャーレットを救える。

なんでそんな情報をこの人が知っているのか……。


「そんな情報を知ってるなんて、メアリーあんたは何者なんだ」


「私はただの一般人だよ」


少し笑いながら言うその顔は何かを物語っていた。

キャットの顔も少し笑っているように見えたが、目は笑っていなかった。

この二人はこんな状況の国でも笑うだけの覚悟と強さがあるというのだろうか――。

ディースの場所はライムシティを過ぎた少し先、ここから少し遠いのは明らかだった。


「それじゃあクロウ、ディース監視塔を目指すわよ」


キャットのその言葉と共に店を出る。

最後にメアリーは振り向くクロウに対して、こう告げた――。


――検討を祈るわ。














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