「そいつは責任重大だな。だが―――任せとけ」
※
「ず、随分体つきが変わりましたね」
呼び出した場所に現れたルディは、ヒロムを見てはっきりと目を泳がせた。
「そういうお前も結構ゴツくなってんじゃねぇか」
とは言うが、ルディはやや胸周りが厚みを増しているだけだ。
「この前は偶然で勝っただけだったんでな。白黒はっきりさせに来たぜ」
「アンヘル先輩から特訓してるとは伺ってましたが・・・」
「さて、俺としてはすぐにでもやってやりたいんだが、お前はどうする?」
ヒロムの笑みに、ルディは闘志を燃やし始めた目で返す。
「俺もすぐで良いです。どこでやるんですか?」
「こっちだ」
ヒロムはルディを連れて教導院の運動場の片隅に作った囲いへと向かう。そこにはアンヘルが待っていた。
「ルールはこの前と同じで良いな」
「はい」
二人とも服を脱ぎ上半身裸になると、囲いの中へと入る。
「二人とも準備は良い?」
「おう」
「はい」
頷いた二人を見てアンヘルも頷く。
「じゃ、始め!」
開始の合図とともに一気にヒロムへと詰め寄ってくるルディ。速攻で主導権を握りたいのだろう。
だがヒロムはバックステップで距離を取りつつ、軽いジャブで牽制する。
「くっ!」
腕の長さはヒロムのほうが圧倒的に長い。数発ジャブを入れると、ルディは捨て身で突っ込んできた。距離を取られると不利だからだろう。
「うおおおおっっ!!!」
だがヒロムは軽く躱すと、すれ違いざまにルディの頬を打ち抜く。
「ぶべっ!!!」
そのまま倒れこむようにロープに突っ込んだルディは、慌てた様子で立ち上がると拳を構える。
「か、かなり動きが様になってるじゃないですか」
相当動揺しているようでルディの声が震えている。
「お前を攻略するためにしっかり仕込まれたからな。ほれ、さっさと来いよ」
ヒロムの出方を窺っているルディに、ヒロムは自分から仕掛けた。
「くっ!」
ヒロムが放つ牽制のジャブに混じったストレートがルディの鼻面を掠める。
ギリギリでヒロムの射程に入らず、懐に潜りこめるチャンスがあれば一気に踏み込める距離―――距離の取り方は流石と言うしかない。
「ぶごっ!!!」
一歩踏み込んだヒロムの拳がルディの鼻を押し潰す。が―――
「ぐうっっ!!!」
ルディは一瞬の仰け反りの後にヒロムの懐に踏み込むとわき腹に拳を打ち込む。
「ぐふっ!!!ぐっ!!!!うぐうっ!!!」
距離を取ろうと下がったヒロムだが、ルディはここが攻め時と詰め寄ったままヒロムの腹を殴り続けた。
「ぐうっっ!!!しまっ!!!」
ヒロムの背にロープが触れる。
「ぐほおっっ!!!」
強烈な一撃がヒロムの腹筋を抉った。
「ぐふうっっ!!!」
続けて一撃―――
「ぶふうっっ!!!」
ルディの顔が左に大きく振られる。
そのままよろめいたルディは膝を突いた。
「ごほっ!!はあ、はあ」
ヒロムのショートフック―――振り抜くことが出来なくてもヒロムの腕力なら十分な威力がある。
口の端から血を流すルディはふらつきながら立ち上がると、まだロープに背を預けているヒロムへと詰め寄っていく。
だが、その足取りはふらついていて、ヒロムの一撃が相当効いていることを窺わせた。
「ぐふうっ!!!」
ルディのボディフックに唾を噴き出すヒロム。
「ぼべっ!!!」
ヒロムのフックがルディの左頬を捉え、血混じりの唾液が散る。
「ぐふうっっ!!!」
「べっ!!」
「ごぼおっっ!!!」
「ぶふぇっっ!!!」
完全に足が止まった二人は、ロープ際でお互いの顔面を、腹を、わき腹を殴り合っていく。
もはや技術も何もない、ただの我慢比べ―――
血と汗とが飛び散り、互いの鍛え抜かれた肉体をまだらに染め上げていく。
「ごぶうっ!!ぶべっ!!!」
すでに数十発、腹に喰らい、すぐにでも腹を押さえて蹲りたいが、両足を突っ張り気合で立ち続けるヒロム。
対するルディは引き締まった精悍な顔がすっかり歪み、左目の瞼は腫れあがって塞がり、鼻と口の端から流れる血で顔を染め上げている。
「うぐうっ!!!」
ルディのボディブローに顔を歪ませるヒロム―――だが、明らかに威力が落ちている。
見ると鼻が折れてあふれ出す血で呼吸がし辛いようでゴヒュー、ゴヒューとかなり苦しそうな呼吸をしていた。
既にヒロムの腹筋も完全に潰され、防壁としては機能していない。
「うおおおおっっ!!!」
「―――――!!」
気合を入れて振り抜いたヒロムのストレート――――
まともに喰らったルディは2mほど吹っ飛ぶと仰向けに倒れた。
血泡を噴きながらビクッ、ビクッと痙攣を繰り返すルディ。
もう闘えないだろう。
ヒロムは腹を押さえながら、なんとかルディの傍らに向かい膝を突くと容体を確かめた。
口を開けさせ、溜まっていた血と涎を掻き出すと身体を横向きにして背を叩く。
「げっ!!!ごぼっ!!!ごほおっ!!!」
激しく咽るルディに「大丈夫か?」と話しかけると、ルディの血走った右目がヒロムを見る。
「お、俺・・・・」
「すぐに治してやるからな」
立ち上がろうと、わずかに腰を浮かせた瞬間――――
「うごおっっ!!!!」
股間から激しい衝撃が伝わり、ヒロムは目を剥いた。
続けて襲ってきたのは痺れるような痛みに血の気が引いていくような感覚―――
「うご・・・・」
股間を押さえ蹲ったヒロムに覆いかぶさったルディは、無理やりヒロムを仰向けにして身体を重ねた。
「ぐっ・・・る、ルディ・・・」
ルディは震える腕で上半身を起こすと、ヒロムの鼻面に向かって拳を振り下ろす。
「ごぶうっ!!!!」
ヒロムの鼻が折れ曲がる。ただ振り下ろされるだけの拳だが、それなりの威力はあった。
「ぶごっ!!!ごぶうっ!!!ぶべっ!!!!ぶぼっ!!!」
次から次へと打ち込まれる拳に、ヒロムの顔面が血に染まっていく。
「ヒロム!!!!」
アンヘルが囲いへと入ろうとしたが、ルディはヒロムの股間を鷲掴みにする。
「うごおっっ!!!!」
「入るな。入ったら潰す」
「なっ・・・・」
ルディは片手で股間を鷲掴みにしたまま、ヒロムの顔面を押し潰し続ける。
意識が朦朧とし、すでに痛みも感じない―――
このまま終わって――――
―――勝利をもぎ取って来い―――
二人の男の声が脳裏に響く。
「ぶぐうっ!!!!」
ルディの顔面にヒロムの拳がめり込む。
大きく仰け反ったルディはそのままヒロムの股の間に仰向けに倒れた。
拳を突き上げたまま、固まるヒロム。
「ヒロム・・・?」
今にも泣きだしそうなアンヘルの声に、ヒロムの拳から親指が立った。
「ぐうっ!!!!」
ヒロムは体を起こす。全身に激痛が走るが、勝利のためにはこれが必要だ。
「ぐうっ!!!くっ!!!うおおおおおっっ!!!!」
咆哮と共に立ち上がる、満身創痍の肉体――――
それがヒロムが勝利をもぎ取った瞬間だった。
「すみません・・・」
仁王立ちするヒロムの前で小さくなり正座しているルディは小さく呟く。
「もう、勝つことだけしか考えてなくて・・・」
「だから金的か。もうルールもクソもねぇな」
「すみません・・・」
「ったく」
ヒロムは肩を竦める。
二人の身体は未だ汗と泥に塗れてはいるが、怪我はアンヘルの神聖魔法によって完治していた。
「お前ならあんな汚い手を使わなくても、もう少し鍛えれば済む話だろ?少しは自制ってもんを覚えろ」
「はい・・・」
「とにかく、今回は俺の勝ちだ。異存はないな」
「はい・・・」
「よし、俺もまだまだ鍛えるつもりだし、また勝負しようぜ。今度は漢闘でな」
「・・・いいんですか?」
ひたすら小さくなっていたルディの表情に少し明るさが戻る。
「もちろんだ。お前を確実に超えねぇと、次の目標に挑戦できないからな」
「次の目標ですか?」
「漢闘でうちの兄貴が倒した元チャンピオンだ。今、俺の指導をしてくれてるんだが、全く歯が立たねぇ。技術もそうだが、肉体が兄貴並みだからな。あの人を倒せれば兄貴にも勝てるって思うんだ」
「カズマ=カルディアに!?」
「兄貴の次は親父かな。越えなきゃなんねぇ壁はまだまだあるんだ。そのためには俺を強くしてくれる奴が必要だからな」
「先輩・・・」
感動したように目を潤ませるルディの頭をヒロムは小突く。
「お前も本当に目指してるもんがあるなら壁を越えろよ。認めてくれないなんてぬるいこと言ってねぇでよ」
ルディの実力ならば戦士系の職を選ぶべきだろう。家が魔導士の名門であっても、才能を伸ばしていく意思がなければ才能が花開くことはない。
「俺、もう一回父と話してみます。話して重戦士になるって夢をかなえて見せますから!」
「おう、頑張れ」
勢い良く立ち上がったルディは、さらに勢いよく頭を下げると振り返った。
「うごおっっ!!!!」
硬直したルディは内股になり股間を押さえると蹲る。
「これでフェアだな。しっかり頑張れよ」
ニヤッと笑ったヒロムは、小刻みに震えているルディを置いて囲いを出ると、シャツを羽織って歩き出した。
「ヒロム・・・」
呆れたように見上げてくるアンヘルに肩を竦めて返す。
「大人げないよ?」
「そりゃ、俺はまだ14だしガキだからな。大人げなんてないさ」
「またそんなこと言って。ま、実は僕もすっきりしたけど」
「なんでお前がすっきりするんだよ」
「汚い手を使ってヒロムをボコボコにしたからに決まってる。僕も精霊魔法が使えたら、攻撃してたところだったよ」
その言葉にヒロムは再び肩を竦めた。
「お前の魔力で攻撃魔法なんて使われたら死人が出る。やめとけ」
「それくらい腹が立ったって話。じゃ、祝杯上げに行こうか」
「祝杯?」
「ライノ先生が待ってるよ。綺麗にしたらリベルガルトに行くから」
ヒロムの手を引いて走り出すアンヘル。ヒロムよりずっと小さな手は意外なほどに力強く感じた。
「今度は俺と勝負してくれ!!」
リベルガルト教導院、重戦士養成科格闘場―――
土がむき出しの地面に車座に座った上半身裸の男たちは酒というわけにはいかないのでジュースで乾杯していた。
「もうすぐ競技会だろ?」
「大丈夫だって。漢闘なら大した怪我にはなんねぇし」
そう言って笑ったのはルディに手も足も出なかったというアレクという5年生だ。
ライノが目をかけているというだけあって、最上級生に匹敵する堂々とした体格にヒロムより一回り発達した筋肉が乗っている。
顔立ちに派手さはないが、精悍な印象を受ける中々の男前だ。
「ジンフロストの野郎にも漢闘なら勝てたと思うんだよな。そう思わねぇ?」
「どうだろうな?ルディの奴、意外に打たれ強いからな」
腕力に勝るヒロムに、あれだけ顔面や腹を殴られていながら倒れなかった。基本的には速度が強みなのだろうが、打たれ強さも警戒しておくべきだろう。
「とりあえず腕試しはしておきたいんだ。軽くで良いからさ、やろうぜ」
「やろうぜ、っつてもな。どこでやるんだよ?」
「ここでに決まってんだろ?投げ技は無しでさ」
アレクは立ち上がると、ヒロムが練習に使っていた囲いへと入る。
「しゃあねぇな」
続いてヒロムも囲いに入ると、男達が囲いの周囲に並んだ。
「カルディアなら漢闘のルールは判ってるよな?」
「そこそこな」
漢闘はまず力比べから始まる。相手を押し倒して、そこからさまざまな技へとつなげるのだ。
ヒロムとアレクは手を組み合わせると互いを押し倒そうと力を籠める。
「くっ!」
ヒロムより一回りデカいだけあって、腕力はアレクが上だ。
そのまま押し倒され、アレクは右手を離してヒロムの左腕に絡みつく。
「ぐうっ!!!」
アレクはヒロムの腕を股に挟むと、肘を逆に伸ばそうと力を込めた。
「ぐうっっ!!!!」
伸ばされまいと必死に抵抗するヒロムに、アレクは素早く腕を離すと、ヒロムの腹に肘を落とした。
「ぐふっ!!!!」
大した威力ではないが、それなりに響く。
腹を押さえたヒロムが立ち上がると、アレクにロープへと突き飛ばされた。
「がはあっっ!!!」
ヒロムの胸板にアレクの前腕が叩きつけられ、バチーンッと凄まじい音が格闘場内に響く。
「あが・・・・」
その衝撃に目を剥いたまま、涎を垂らしていくヒロム。
呼吸が出来ない―――
漢闘ではごく当たり前に見る技だが、いざ自分が喰らってみるとその威力の凄まじさは想定外だ。
「ほれ、そっちも打って来いよ」
胸を張り構えるアレクに、息も絶え絶えだったヒロムは呼吸を落ち着けると前腕を叩きこむ。
「ごほおっっ!!!!」
分厚い胸板に前腕がめり込み、アレクはヒロム同様に目を剥いた。
「が・・・は・・・」
二歩ほど下がったアレクは真っ赤な線が一本入った胸を撫でる。
「や、やるな・・・おらあっ!!!」
「がはあっっ!!!!」
再び打ち込まれた前腕に、呼吸困難に陥るヒロム。
そのままロープに背を預けたまま座り込んだ。
「か・・・は・・・」
「おい、大丈夫か?ゆっくり深呼吸しろ」
ライノがヒロムの背を摩る。
「だ、だい・・・じょうぶ・・・っす・・・」
何とか呼吸が戻ったヒロムにアレクが手を差し出す。その手を取ってヒロムは立ち上がった。
「俺の全力のチョップ、どうだった?」
「死ぬかと思った。あんなんをあんたら打ち合ってんのか?」
「最初は手加減してるさ。簡単に勝負がつくと面白くないだろ?どうせ止めを刺すなら、大技で仕留めたいしな」
「くそっ!もっと鍛えねぇとな」
悔しがるヒロムを見て、周囲の男たちは皆で笑う。
「アレクのチョップなんぞ、ここにいる中で平気な奴はいねぇよ。ライノ教官ですら、悶絶させたことがある、アレクの必殺技だ」
「マジで!?」
あの分厚いライノの筋肉をチョップで打ち破るなど、到底信じられない。
「で、アレクよ、ヒロムのチョップはどうだったんだよ?」
ライノが実に意地悪そうな笑みを浮かべて訊ねると、アレクは頭を掻く。
「正直ギリギリでした。二発目喰らってたらヤバかったと思います」
「だろうな。お前が下がるなんて滅多にないことだ。やっぱヒロムは大人しく重戦士を目指すべきだと思うんだがなぁ。魔導士の紋章をつけててそのガタイ。もったいねぇよ」
「ダメです!ヒロムは前衛も出来る魔導士を目指してるんですから」
アンヘルがヒロムにしがみついた。
ヒロム並みの体格をした男達しかいないので、アンヘルは殊更小さく見えてしまう。
「前衛も出来る?」
首をかしげるライノにヒロムは説明する。
「ほら、重戦士って前衛のさらに前衛、最前線に立って戦わないといけないじゃないっすか。基本的に支援がない場所ですよね。戦略としてそれってどうなのかなって思って。オークやワーウルフなんかは人間よりはるかに高い身体能力を持ってるわけでしょう?それと馬鹿正直に、真正面からぶつかってちゃいくら重戦士でもキツイはずです。なら、最前線で魔法による攪乱が行えれば被害を抑えることが出来るんじゃないかって。でも魔法って発動に時間がかかるし、乱戦になったら範囲魔法は使えないから基本後方支援じゃないっすか。でも魔法で攻撃するんじゃなくて怯ませて、その隙に重戦士や戦士で仕留めることが出来ればいいわけだから、最前線に立てる魔導士って必要だと思うんすよ。ほら、俺って魔導士の紋章との相性が悪くて魔力も弱いし、低位の魔法しか使えないっすけど、怯ませるくらいなら低位の魔法でも問題ないだろうし」
そこまで説明すると、ライノの顔がくしゃっと歪み、大粒の涙をこぼし始めた。
「お前ってやつはーーー!!!」
突然抱き着かれて呼吸が出来なくなる。
極太の腕をバンバンと叩いてギブアップの意思を示していると、アレクが「教官!」とライノを引きはがしてくれた。
「そうかぁ・・・さすがはカルディアだな」
泣きながらしみじみと呟くライノは、腕で涙を拭う。
「どうしたんです?」
「お前みたいに、重戦士の視点で戦術を考えられる奴は今までいなかったんだ。重戦士は盾だ。戦線を維持するためのな。だから最前線で異人どもとぶつかり合うのが役目で、それによって消耗しようと当たり前の事だったんだ」
無意識にだろう。ライノは自身の身体の傷を撫でていた。
「お前の親父さん、トウジ=カルディアは重戦士の負担が大きすぎると、魔導士による支援を加えた作戦を何度も要請していたんだ。もちろん、前線に立てというのではなく、戦士による護衛を付けたうえでもう少し前に出て異人どもに魔法による攻撃をして欲しいってだけの話だ。だが、魔導士は人数が少ない。損耗は避けるべきだと上が首を縦に振ることはなくて―――俺は何とか生き延びたが、多くの仲間が死んだよ。こうして教導師になっても、送り出す連中の半分は命を落とすんだ。俺はずっと迷っていた。未来ある連中を、ただ死地に赴かせることが正しいことなのか―――」
「教官・・・」
話を聞いていた男たちもその目に涙を浮かべている。
「そりゃ、お前ひとりで何が変わるってわけでもないだろうさ。でも、お前が実際に、前線で共に戦ってくれるのなら、俺たち重戦士の心は救われる。消耗されるだけの駒、ではなく、共に戦う仲間、なのだと」
ヒロムは傷口を撫でていたライノの手を止める。
「そのためには俺はもっと強くならないといけない。俺が前衛も出来る魔導士になれるかどうかは先生次第ですよ?」
ライノは腕に添えられたヒロムの手を握り返す。
「そいつは責任重大だな。だが―――任せとけ」
交わされた男同士の約束に、院生たちは声を挙げる。
こうして新たに生まれた絆の誕生を祝すかのように、男達の語らいは深夜まで続いた。
「あ~痛って~」
ぼやきながら胸を摩るヒロムをアンヘルは小突く。
「だから治しとこうって言ったのに」
「この程度治す必要もねぇと思ったんだよ。まさかここまで響くとは」
「この講義が終わった治してあげるから。静かにしてなよ」
今日は天神祭のイベントとして毎年行われている講演がある。魔法学についての講演なので、魔道教導院生は強制参加だった。
王国随一の大講堂なのだが、全世界から聴講にやってくるのでぎっしりと人が詰まり、かなりの熱気を漂わせている。
講師は魔法学の有名どころ揃い、その中には当然と言えば当然なのだがラウ老師もいる。
事前に講演の概要は教えられているが、ヒロムにとって興味を惹かれるものではなかったのでラウ老師の話以外には興味がない。
講演が始まるが、思った通り退屈な話が続く。
“先人の知識をなぞらえているだけ―――”
ラウ老師の言葉が今なら良く理解できる。
もはや苦痛としか思えない退屈な時間を過ごし、ようやくラウ老師の講演が始まった。
「魔法の始まりを知っておるかね?」
そんな問いから始まった講演は、教導院では決して教えられることのない話―――
魔王と勇者は同じ血を以って生まれて来たという事実を。