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日本は何処だ?

異世界なんか行きたくなかった青年 第三話






行き成りなのだが、此処でさっき出会った少女と猫について説明を入れよう。

100人いれば95人が、美少女だと認める少女の名前はリリ=マスタングと言うらしい。俺がその名前を聞いたとき、国家錬金術師ですかと聞いたのは…まあ、一種の義務みたいな物だ。次に猫の方だが、コイツは喋る事と二本足で立つ事意外は、虎みたいな模様の毛で覆われている普通の猫だ。名前はルーイと言うらしい。いじりようの無い詰まらん名前だと言ったら怒られた。故に俺が優しさで、彼と名前が少し似ている世界的に有名な任天堂の髭親父の弟に例え、お前は一生脇役だと馬鹿にしてやったら、俺の古傷(髪の毛)に再び触れてきたので、取っ組み合いの喧嘩になった。



その時に少女……もうリリでいいだろう。彼女の鋼の翼を今度は顔面に食らった。

歯が折れるかと思った。



まあ、そんなこんなで着実にダメージをこの身に溜め込みながら、俺はリリについて行き、彼女が先生と慕う人の家へと向かった。








それから30分ほど(騒動が無ければ10分ぐらいで着いた)歩いた所に、木で出来た一軒の小さな家が見えてきた。その家は丸太を寝かせ、縦に何重にも重ねて出来た壁で覆われており、キャンプ場などにあるバンガローやコテージを彷彿させた。

俺は思わずその家を見たとき、感嘆の声を上げた。


「へ〜。立派な家だな。こう言うのをバンガローって言うのかな〜。」


「いいえ。ケフィアです。」


「はっ?」


「だからこう言った木の家はケフィアと言います。」


リリの予想外の返答に、俺は思わず目を見開き、口を半開きにして間抜けな声を上げてしまった。だってそうだろ。此処で行き成りやずやのネタが、来るとは思っても見なかったのだ。


「ケフィアなの?」


「はい、ケフィアです。」


俺はもう一度確認を取るようにリリに訊ねたが、彼女は何言ってんだコイツみたいな表情をしながらもはっきりそう答えてくれた。

流石は俗世間から隔離された秘境だ。生物だけでなく、物の名前までカオス(混沌)だ。

もう気にしたら負けかもしれない。

俺がその事をちょっと現実逃避しながら納得していると、ルークが前足で自分の頭を毛繕いしながら口を開いた。


「リリ様それよりも早く家の中に入るニャ。先生にタワシの事を報告しないと……。」


「おい、脇役。誰がタワシだ。一生スポットライトが当たらん奴は黙ってろ。」


「黙るのはタワシニャ。お前の髪で鍋を洗ってやろうかニャ?」


俺と猫が刺々しい会話をしながら睨み合う。恐らく今の俺達に効果音を付けるのならゴゴゴゴゴという感じだろう。


「二人とも……。」


だが、その刹那。

鳥が羽ばたくような音と共に、羽根を大きく広げたリリが、俺達に低い声で語りかけてくる。


やばい、白い悪魔だ。白い悪魔が光臨した。


俺は自分の背に冷や汗が流れるのを感じた。ルークも周りの気温が、急激に下がった事を敏感に感じ取ったのか、額から冷や汗を流している。そして俺達は目が合うと、お互いに何かを感じ取ったのか。申し合わせたようなタイミングで力強い握手をした。


「友よ! 俺が悪かった! ワッキーな君にもいつか光が当たるさ!!」


「友よ! 僕が悪かったニャ! タワシみたいな髪でも………まあ、大丈夫ニャ! 坊主にでもすればいいニャ!」


この野郎……フォローしろよ。なんだよ大丈夫って、何処からそんな自信が湧いて来るんだよ。やはり一発ぶん殴ってやろうか? いや、我慢しろ俺。大人になれ俺。此処で軽率な行動を起こすと、鋼の翼で本当に前歯が宙を舞う事になるぞ。笑顔だ、笑顔。はい、スマイル。


「タワシ……キモイニャ。」


「死ねぇぇ!!」



結果から言おう。

俺達は鋼の翼を食らった。

しかし脳天だったので、歯は折れなかった。








結局俺達が家に入るという動作に移ったのは、外の騒ぎを聞きつけ、額に青筋を浮かべた小屋の家主が出てきて、怒鳴られた後からの事だった。

そして俺達は今、そんな家主の前で正座をさせられていた。まあ、怒られているのだ。


「それで、あんた達は人の家の前で騒いでいたんだね?」


「「「はい……。」」」


「私の意見を言うよ? 五月蝿いんだよ。」


「「「すいません……。」」」


家主の眼光と、不快をあらわにして紡がれた言葉に腰が引けてしまった俺達は、一斉に頭を下げた。

目の前の家主は、70歳ぐらいの女性で、年と共に蓄えられたしわと、鷹のように鋭い眼光で圧倒的な存在感を全身から醸し出していた。しかしスッと高い鼻や、綺麗に整えられた眉毛などから、若いときは相当美人だったのではないかと思われる。残念だ。後50年ぐらい前にお知り合いになりたかった。


「あんた、今失礼な事を考えてなかったかい?」


「いいいえ! 滅相もございません!!」


ギロリという形容詞がぴったりな目の動きで睨みつけられ、生まれたての小鹿の様に震えた俺は、否定の言葉を早口で述べる。一瞬心を読まれたのではないかと思い非常に焦った。何故かこの女性なら、人の心を覗く事も出来るような気がして怖い。


「ふうん。まあ、いいけどね…。ところであんた名前は?」


「えっと、和彦平江といいます。」


「………日本人かい?」


「えっ……はいっ!!」


女性は俺のことを鋭い眼差しで見つめながら、俺が日本人と言う事を言い当てた。如何やら彼女は、日本の事を知っているようだ。流石は年をくっている事だけあり、知識も豊富だ。撲殺天使もどきと、脇役とは一味違う。俺は自分の腹の底から、喜びが湧き上がってくるのを感じた。場所が場所なら飛び跳ねて喜んでいただろう。

だが俺と違い、女性の反応は冷めたものだった。


「そうかい………。」


そう言うと彼女は悲しげにため息を吐き、哀れみを含んだ視線を俺から外した。そんな彼女の態度に、俺の中で湧き上がっていた喜びが急速に冷めていくのを感じた。そしてそれと反比例するように、俺の中に不安が膨らんでいく。


「あの……。」


故に俺は口を開き彼女に尋ねようとした。

何故そんな悲しそうな顔をするのか。


俺は……。


俺は此処から日本へ帰れるのだろうか……。


「結論から言えばだ……。」


女性が真剣な表情で再度俺を見つめる。

その時俺は、喉がカラカラになるのを感じ唾を飲み込んだ。女性の言葉を聞くのが正直怖い。先ほどから嫌な予感しかしないのだ。

世界の神々よ。今度なけなしの千円札を捧げますから、俺に希望を持たせてください。

俺はそう心の中で必死に祈った。

しかし俺の思いとは裏腹に現実は非情だった。


「日本なんて国はこの世界には無いよ。」



世界の神々よ。一万円を捧げますから、彼女の発言を撤回してください。












木造の家は全てケフィアです。

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