表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
10/10

ギルドライセンス試験 突撃編

異世界なんか行きたくなかった青年 第九話







俺は揺れる馬車の上でねっころがり、ゆっくと流れる雲をぼんやり眺めていた。今日から4日間はこの世界に来てはじめての一人旅で、俺は今王都ゼクトへと向かっている。何故そんな所へ向かっているのかと言うと、ギルドライセンス試験を受ける為だ。正直面倒だが、俺の旅に必要なものらしいし。別に取っておいて損は無いだろう。まあ、受かるかどうか分からないが……。


俺が大きな欠伸を一回すると、馬の手綱を握っている、真っ黒に日焼けした肉付きの良い爺さんが俺に声をかけてきた。この爺さんはアル爺さんと言い。現役を退いた傭兵で、今はミミックの町にある小さいギルドの管理人をしている。

その所為でかは分からないが、俺を王都まで態々送ってくれると言いだし、こうやって馬車を出してくれた。本当にありがたい爺さんだ。


「かずっちゃんもついにギルドライセンスを取るのかい。わしは楽しみだよ。」


「ん〜…。見たいですね〜。如何なんですか試験って? やっぱり難しいのですかね〜。」


「はははっ、内容はその年で全然違ってくるから分からないが…かずっちゃんなら余裕だよ。」


「そうなんですか? 俺煽てられると直ぐ調子に乗っちゃいますから、あんまり煽てないで下さいよ〜。」


「はははっ、素手でオークを倒す馬鹿が何言ってやがる?」


爺さんは豪快に笑いながら俺の頭をひのきの棒(俺仮名)で叩いてくる。そんな事を言われても俺はオークなんて知らなかったし、それ以前の問題として、この世界にモンスターがいること事態知らなかったのだ。倒したといっても行き成り茂みから襲い掛かって来たオークへ、反射的にクロスカウンターを叩き込んだだけだ。まあ、2mぐらいある豚の顔をしたゴリラが、一撃で沈んだ光景には驚いたが……。恐らくラオから習っていた肉体強化の魔導が、無意識に発動したと俺は考えている。


「まあ、ラオさんから肉体強化の魔導を習ってますから。ところで痛いです。」


「はははっ、タワシみたいな頭して本当に面白い事言うな〜。」


「はははっ、ナミヘイ見たいな髪で五月蝿いぞ。爺。」


ボコボコと俺の頭を叩くひのきの棒(俺仮名)を右手で掴み、素敵な笑みを浮かべながらアル爺さんに悪態を吐く。勿論爺さんの方も負けていない。ギリギリと腕に力を込めていき、俺の頭を再び叩かんと……いや、殴り倒さんとする。そんな彼の額には血管が浮き出てきた。


「爺さん無理すんな。血管が面白いぐらい額から浮き出てるぞ? そろそろ一本ぐらい切れるんじゃないか?」


「わしの血管が先か…かずっちゃんの脳髄がぶちまけられるのが先か…。」


「いや…あんた、そんな勝負勘弁してくれ。」


俺がアル爺さんの血走った目を見て、深いため息を吐いたその瞬間。


ボキッ…。


ひのきの棒(俺仮名)が俺達の力に耐え切れなくなり、ついに中心から折れてしまった。


「「あっ………。」」


その光景に思わず呆然としてしまった俺達は、お互い手に持った棒の欠片を交互に見渡した。


「これ……ラオさんがかずっちゃんへ餞別だってくれた、ひのきの棒なのに……。」


「なにぃぃぃぃぃ!?」


俺はアル爺さんがポツリと漏らした呟きに、思わず絶叫してしまった。確かにラオは、俺が出発する時に、餞別の武器をアル爺さんへ預けとくと言っていたのだが、まさかひのきの棒(少しだけ当たって嬉しい)だったとは……。あの婆さんは本当に協力する気があるのか?


「いや〜…ごめんね。かずっちゃん。」


「いやいや…ごめんじゃねぇよ爺。如何するんだよ。俺これで完璧に素手で、試験受ける事になったじゃねぇか。伝説の勇者だって、初期装備にひのきの棒と布の服ぐらいあるぞ?」


「大丈夫だって! 所詮冒険者の初心者が集まる試験だぞ? 皆ステテコパンツと竹の槍ぐらいだって。後、伝説は作り変えていくもんだ。頑張れ! かずっちゃん!」


「爺……。」


俺は青筋を額にピクピクと浮かべながら、腸が煮えくり返る思いで拳を握った。しかしその力強く握った拳を、何処にも振り下ろす事無く、我慢した俺の大人な態度は本当に褒められるべき行為だと思った。








そして王都ゼクトに着き、馬車を降りた俺と爺さんは、ライセンス試験が行われる会場を目指して歩き始めた。ゼクトは王都と呼ばれているだけの事はあり、中央に聳え立つ城を中心に、西洋風な町並が広がっている。そして辺りを見回せば、多くの出店が軒並みを連ね。人の流れが、確りと舗装された道を北へ南へ、西へ東へと流れていく。流石は世界で三番目に大きい都市だけはある。

しかし幾らなんでも人の数が多くないだろうか? それに武装した人間の数も結構多い。俺はその事を隣で歩く、アル爺さんに聞いてみると、如何やら俺と同じライセンス受験者がいたる所から集まっており、普段以上に町も活気付いているようだ。

確かにその説明なら出店の多さも納得がいく。要はそう言った受験者を捕まえて商売しようとしているのだ。現にほら……。


「お兄さん。お兄さん。一つどうだい?」


長い事外で商売をしていて、頬が日焼けで赤くなった40代ぐらいの福与かな女性が、俺に声をかけてきた。そんな彼女の手には、真っ赤に熟したリンゴが握られており、俺の目を引くのには十分な商品だった。


「いくら? おばちゃん。」


「一つ5ピース。でもお兄さんカッコいいから、一つ3ピースにまけとくよ。」


人好きするような笑みを浮かべながらその女性が、指を3本立て俺に見せてきた。


「おっ…流石おばちゃん商売上手いね〜。よし、買った。」


ニヤリと笑った俺はポケットの中から財布を取り出し、銀色のコインを3枚女性へ手渡す。


「毎度〜。」


そう言うと女性は、手に持っていたリンゴを俺に渡してくれた。

俺はそれをさっそく、服の袖で拭き一口だけ頬張る。するとシャリシャリと心地の良い食感と共に、果物特有のしつこくない甘味が口の中で広がった。美味しそうだと思っていたが、これは予想以上に上手い。買ってよかったと俺は心底思った。


「かずっちゃん。美味しそうだね。」


「うん。これは上手い。爺さんも買えばよかったのに。」


「はは………この年になるとリンゴを噛み砕くだけの歯がね…。」


「ごめん。」


乾いた笑みを浮かべるアル爺さんの歯を俺はチラリと横目で見たが、見事な隙間だらけの歯並びをしていた。絶対に歯磨きだけは、きちんとしようと思った瞬間だ。


「おっ…。かずっちゃん、見えてきたよ。ほら、あれが試験会場だ。」


乾いた笑みをスッと消し、前方を指差しながら、アル爺さんは俺の肩を軽く叩く。俺はそんな彼が指差す先の光景を見て、呆れながら一言呟いた。


「…………城じゃん。」


「そうだよ。そりゃあ試験の試験官が王宮騎士団の面子だからね〜。忙しい彼等に合わせて試験会場も城の中なのさ。」


「ふ〜ん。しかし危なくないですか…? この試験を利用して、不審者とか入ってくるんじゃ?」


「そこら辺は素人のわしには分からんが……わざと誘き出す為にあえて城でやっとるのかも知れんぞ?」


「そういう考え方も悪くないが……リスク高いな〜。」


俺は苦笑を浮かべながら手に持っているリンゴを頬張った。確かにアル爺さんみたいな考え方をする者いると思う。しかしそれは兵法書などを読んだ人間からすれば、あまりにも危険な行為で遣るべき事ではない。いくら城の中に、工作員を入れられようと対処できる自信が彼等にあるとしても、不特定要素は必ず出てくる。作戦の醍醐味は不特定要素を極力減らす事にある。故に自らの陣地に敵を招くような真似は、よっぽどの楽天家か、よっぽどの策を組み立てられる策士かの、どっちかにしか出来ないのだ。


「俺は先ず出来んな。誘い出すより、守りを強固にした方が楽だ。」


「そうなのかい? 他国からの不審者を捕まえるのには、これが一番いいと思うがね。」


「まあ、もし事前に不審者が来るという情報があって、わざと城で開催すると言うならまだいいですが……この城で開催するのが定番なんでしょ?」


「そうだね。年に二回あるけど、何時も城の中だね。」


「だったら…あんまり良くないな〜。不特定要素が多すぎる。何より相手を操作していない。何時侵入するかの決定権が全て相手にある様じゃあ……愚策と言われてもしょうがないよ。」


「………かずっちゃん。もしかして兵法家かい?」


アル爺さんが眉をひそめながらそう問いかけて来たので、俺はリンゴを持っていない手をヒラヒラさせながら、そんなのじゃないと否定の言葉を紡いだ。だが、俺の言葉とは裏腹にアル爺さんの方は感心した様な表情を浮かべていた。


「かずっちゃんは偉いね〜。威張らないでとても謙虚だ。将来はローリアル戦記に出てくる伝説の軍師…カルマ見たいな凄い人物になれるよ。」


「カルマ? そいつはそんなに凄いの?」


「凄いって……そりゃ〜凄いさ。御伽噺に出てくる伝説の軍師で、何度も訪れる危機をその智謀と勇気で乗り越えて、最終的にはローリアルと言う小国を大陸一の大国にまで、仕立て上げた人物なんだからね。」


「ふ〜〜ん。」


アル爺さんの少し熱の篭った話に、俺はリンゴをかじりながら適当に相槌をうつ。


「…………かずっちゃん。キミの目指すべき人の話に対して、その反応は無いだろ?」


そんな俺の態度が気に入らなかったのか、アル爺さんは俺の事を半眼で睨みつけてきた。

俺はそんな彼の視線を受けながら、もう殆ど無くなったリンゴを頬張る。そして終にリンゴは芯だけなってしまった。


「ん〜〜。俺が目指すべき人って、そのカルマとか言う人なの?」


「そうだろ? だって彼は伝説の軍師で、今だって子供達のヒーローだ。普通の兵法家だったら、皆彼を目指しているんだよ。」


「ほう…なるほど。如何やらこの世界の兵法家の価値観は、俺と違う見たいですね。」


「? どういう事だい?」


「ん〜……。まあ、簡単に言えば俺は伝説の軍師様には興味が無いって事ですよ。」


そう言いながら俺は辺りを見回して、リンゴの食べかすを捨てる為のゴミ箱を探す。しかし残念な事にそう言った物は何処にも見当たらない。しょうがないから俺は、近くに止まっている馬にそれを食わせる事にした。すると馬は腹でも減っていたのか、鼻息荒く、物凄い勢いでリンゴの食べかすを頬張り始めた。


「お〜〜。すげえ。」


そんな光景に俺は思わず感嘆の声を上げてしまった。そしてそのまま馬の堅い鬣を撫でた。

アル爺さんにはそんな俺の姿が変人にでも見えたようで、本当に微妙な表情を浮かべながら、日焼けした自分の頬をかき始めた。


「…かずっちゃんは不思議な子だ。」


「そうですか?」


「ああ、不思議だ。遠くから来たとは聞いていたけど…いったいどれ位遠くから来たんだい?」


「………そうですね〜。すっごくですよ。」


正直に答える事が出来ない質問に、俺は馬の鬣を撫でながら、思わず苦笑してしまった。














こういった試験は、よくあるネタですね。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ネット小説ランキング>異世界FTコミカル部門>「異世界なんか行きたくなかった青年」に投票  「この作品」が気に入ったらクリックして「ネット小説ランキングに投票する」を押し、投票してください。(月1回)
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ