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―太陽の翼― ラスト

「どうした、正義の。まさか全壊したなどとは言わないだろうな」


 はぐれそうになりながらも、何とか辿り着いた一軒の石造りの木製ドアをノックして出てきたのは一人の初老の男だった。

 髪の毛は見事に白く、その顔には深い皺が刻まれていた。老人が着ているオーバーオールは長年の付き合いなのだろう、汚れがすでに落ちなくなっているのが見て取れた。


「ごめん、ラジックじいさん。全壊です」


 大地が答えた瞬間、スパナが思いっきりブルーに向かって振り下ろされた。

 ガイーン!

 金属と金属がぶつかった鈍い音が辺りに響いて、続けて地面にドサッと落ちる音。


「きゅ~~~~~」


 ブルーはメインカメラを明暗させながら何とも言えない悲鳴をあげていたが、すぐにウンともスンとも言わなくなった。どうやら気絶してしまった様だ。


「うわ、ブルー!? おい、しっかりしろ!」


 大地が叫びながらもブルーを持ち上げるが、一向に意識を戻す様子がない。


「フン、さっさと地下に持っていきな。ところでこの嬢ちゃんは?」

「あ、私は狩場君のクラスメ――」

「友達だよ友達。それより早くブルーを直してくれよ」


 床をドタドタと踏み鳴らしながら大地が部屋の中を右往左往と慌てふためいている。


「ワシの名はラジック。見ての通りの趣味で色々やっとる。どれ、嬢ちゃんのパートナーも見てやろう」

「あ、私は柏原純です。この子はレッド」


 ラジックのスパナを警戒してか、純の後ろからそ~っとレッドは顔を覗かせた。


「大丈夫だ。女を殴る趣味など持っとらんよ」


 そう言ってラジックは人の良い老人そのままの笑顔をしてみせ、大地が降りていった地下へと歩を進めた。


「……私も殴られるかと思った」

「あはは、大丈夫だよ」


 木製のドアを潜るとツンとしたオイルの匂いが鼻をついた。


「ねぇねぇ、純ってさ大地のこと好きなの?」

「へ、え、そ、そんなことないわよ」

「え~、さっき純はクラスメイトって言おうとした時、大地が友達って答えたじゃない。その時の純、嬉しそうな顔してたもん」

「そ、そりゃ憧れの《正義の味方》に友達って言われたら誰だって同じ顔するわよ」

「え~、本当かな~」


 二人が話しに夢中になりかけた時、地下室への階段からひょっこりと大地が顔を出した。


「お~い、柏原さんとレッド~。早く降りて来~い」

「「は、は~い」」


 二人はイソイソと大地の後に続いて階段を降りた。


 ~☆~


「ふ~んふふ~んふ~ん♪レッドを直してくれる料金がお使いだけでいいなんて~、ちょっとお得かも~」


 純はごきげんに人々の間を鼻歌交じりに純は歩いて行く。目の前に浮かぶ地図にナビしてもらいながらゴチャゴチャした街を右へ左へと曲がっていった。

 ラジックの地下室はまさに異空間だった。ファンタジーとSFが混在していて、時代感がバラバラ。

 何やら西洋の剣や鎧があると思えば低い唸り声を上げ続けている機械類。その機械類の一つにブルーとレッドは収められ、ディスプレイにはバトルタイプのレッドが表示されていた。ブルーの方は全壊なのだろう、何やらよく分からない文字で埋め尽くされていた。

 そこでロジックが二人にお使いを言い渡した。大地には水汲み、純には買い物である。


「こんにちは~」


 店の入り口に付けられたベルを鳴らしながら純はラジックの指定した店に辿り着いた。そこは、いわゆる食材屋さんであり、野菜や香辛料の類が並べられていた。


「いらっしゃ~い。おや珍しいお客さんだね」


 カウンターの恰幅のいいおばちゃんが純を見て少し驚く。本来、プレイヤーが食材を買う必要がないからである。


「えっと、ラジックさんのお使いで来ました」

「あぁ、なるほど。ちょっと待ってなさいね」


 おばちゃんはそう言うと、紙袋を持って色々と食材を詰め込んでいく。その様子を見ながら、純はふと壁に貼ってあるポスターに目をやった。


『XOD・バトルフィールド!来たれ二足歩行タイプの勇気ある者たちよ!』


 それは初めて行われるバトルイベントの告知ポスターであった。参加資格にルール、そして日程と優勝商品が掲載されていた。


「す、すいません! このポスター貰えます?」

 

 純がポスターを指差しながら叫んだ時、丁度おばちゃんがお使いの紙袋をカウンターに置いた所だった。


「あぁ、いいよ。たくさんあるからね」


 おばちゃんはそう言って、ポスターを紙袋に入れてくれる。と、その時に地図とは別のウィンドウが表示された。

ポップアップされた半透明のディスプレイには、少し眠たげな少女、リリィが表示される。


「残りプレイ時間が十分を切ったわ。気をつけて」


 そう一言告げると、プツリとウィンドウが閉じた。


「うわぁ、急がないと。ありがとう、おばちゃん!」

「はいよ。気をつけなよ」

 

 食材屋から出ると、込み合った街を早歩きに進む。しかし、人の流れや立ち止まる人々によって中々進むことができない。


「あ~、時間が無くなっちゃう」


 再びリリィが残り時間が五分を切った事をメッセージウィンドウで知らせてきた。それから三分か四分ほどしてラジックの家へと辿り着いた。


「ただいま~! 狩場君いる?」


 紙袋を一階のテーブルに置き、純は慌てて地下室への階段を駆け下りた。時間は残り一分を切っている。

 今日中に、これだけは伝えておきたかった。

 地下室に降りると、ぐったりと疲れきった大地がいた。

 まだ、間に合う。


「狩場君。お願い、私のパートナーになって!」


 その一言のみを伝えて、純の姿は粒子状になり、消えてしまった。


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