―太陽の翼― 5
クルシュイの街は、別名『雑貨街』と呼ばれる程、色々な物で溢れている。
有りとあらゆるアイテムが揃う上にパートナーを装飾する為の様々なパーツなども売っており、NPCだけでなくプレイヤーの店も多い。
場所を争うかのようにプレイヤーが露店の場所を取り合い、屋根つきの空き店なんかには恐ろしい位のポイントの値段がついていたり。ポイントが現実で使えるようになってからは商売をする人間が圧倒的に増え、いつごろからかクルシュイに集まるようになった。
「――っていうのがクルシュイの特徴だな。大体あと五分くらいで見えるよ」
「へぇ~、行った事ないわね」
大地が釣りをした岩場を二人は話しながら歩いて行く。もちろん肩には青と赤の球体パートナー。波が岩に当たって砕ける飛沫雨を避けながら二人と二体は歩いていく。
「それで、柏原さんのパートナーの名前は?」
「あ~、えっと、その~……」
「レッドと申します。よろしくお願いします」
純が言い澱んでいる間にパートナーが明るい声で自己紹介した。それを聞いて純は顔を手のひらで覆う。非常にマズイといった表情が指の間から見て取れた。
「……マジで?」
思わず大地はレッドに聞き返す。機体がブルーと全く同じで違いは色だけ。加えて名前が『レッド』となれば、少なからずとも何らかの意図を疑ってしまう。
「はい~。ちゃんと純が付けてくれた名前ですよ」
XODに初めて訪れたプレイヤーは創造したパートナーと初めて出会う事になる。プレイヤーが初めてする事と言えば、パートナーを創造し、彼らに名前を付けるのだ。
大地は『青いから』という単純な理由でブルーと名を付けた。目の前の純もそうだろうか、と考えてみるが分からない。
分からないから、
「マジで?」
と、今度は純に聞いてみた。
「はぁ~、分かった、告白する」
深く深くため息をついてから、決心がついたように純は大地に向き直った。
「《正義の味方》に憧れてましたっ。XODでもリアルでも実際に会えて、内心舞い上がってますっ!」
自分の正直な気持ちを言ったからだろうか、純の頬が桜色に染まっていく。純の正直な告白を受けて大地も少し照れてお礼の言葉を言った。
「お、おおぉ。なるほど」
「だから、レッドでレッドなの……」
憧れた故に、パートナーはブルーにそっくりで名前はレッドなの、という意味での純の言葉に大地は照れ隠しの為に再び歩き始めた。
「ねぇ、怒らないの?」
その後ろへついて行きながら純が聞く。
「え、どこに怒るところがあるんだ?」
「……そういえば、そっか」
あはは、と誤魔化すように純が笑う。そして、レッドが純の手に収まって言った。
「よかったね、純」
その言葉に、心の底から嬉しそうに純は頷いた。
大地の肩から後ろを見ていたブルーには人差し指を口に縦に添えておいた。
大地にはバレないように。
一人と二体の秘密だった。
クルシュイに着いた時、純は思わず感嘆の声を上げていた。高い壁に囲まれた街の門を潜ると、いきなりフリーマーケット会場に商店街をごちゃ混ぜにしたような広場。売る側なのか買い側なのかが分からない程にプレイヤーで混雑していた。
街の奥のほうでは簡素な造りの家がズラリと並んだ一角が見える。背の高い建物は一切無く、反対側の街の壁が簡単に見ることが出来た。
「ようこそ、クルシュイへ」
門の近くで立っていた青年のNPCが話しかけてくる。皮で造ってある簡素な防具がどことなくファンタジー世界に迷い込んだ錯覚を起こさせそうになった。
「クルシュイへは初めてですか?」
「え、あ、はい」
少しだけ照れて純は返事を返す。
「そうですか。それでは、街のデータをお持ちください。この街は迷い易いですから」
青年が宙空にウィンドウを開きそれを純に手渡す。純は受け取り、レッドと共に覗き込んだ。
「それでは、良い思い出を」
青年はそう言うと再び門の近くへと戻っていった。
「今のがクルシュイの地図を手に入れる為のイベントだ」
純と同じ様に地図を表示させて大地が言った。マップはいつでも呼び出す事が可能だが、持っている必要がある。自作する事も可能で、物好きの旅人プレイヤーが地図を作っていたり、売っていたり、と手に入れる手段は様々だ。
「おぉ~なるほど。色んな所にイベントが転がってるのね~。そういえばNPCって凄いよね、私達と何ら変わらないんだから」
「……確かにな~。もしかしたらXODの社員だったりしてな」
「あはは、大川ってお金持ちだもんね」
二人が笑っているのを見て、ブルーとレッドはお互いに見合って頷くように体を上下に揺する。
「ねぇねぇ、それだったらさ」
「私達も社員って事にならない?」
「「あっ……」」
二体の言葉に二人は同時に固まった。恐らく嫌な想像でもしたのだろう。青と赤の球体は、失礼だよね~、と言いながらフワフワと動き回った。