GATHER WAY
狩場大地
公立鳴所高校1年3組。
XODではかなりの有名人。
全アイテムをコンプリートした経歴を持つ。
その単純思考と熱血思考っぷりから《正義の味方》と呼ばれていたりする。
柏原純
大地と同じクラスの委員長。
最近XODを始めたばかりの初心者。
身長は高く、大地と同じくらいなのでちょっぴり男勝り。
見上げれば突き抜ける様な晴れ渡った空。
そこには、地平線付近に僅かに雲が見える程度で、その他は信じられない位に透き通った空色。恐らくは、この青空を上へ上へと昇って行けば、やがては暗い宇宙へと着くのだろう。
もしも、ちゃんと宇宙が造られているのなら、の話だが。
砂浜を遠くに見ながら、岩ばかりがゴツゴツと尖っているこの場所には押し寄せる波の飛沫が、にわか雨のようにパラパラと降り注いでいた。
そんな雨の中に、太陽の光を反射する光沢。もしも、この場所に人間がいれば思わず見上げているだろう、そんな大きさのそれは、温かみを感じさせない全くの無機質。動物と違って、決して呼吸をしていないその無機質は、人の形を模していた。人の形をしているが身じろぎすることなく、ただひたすらに静止していた。
そう、簡単に言い表すなら『ロボット』。
その言葉が最も似合う無機質、青く蒼いロボットの機体はただ一心に海の一点を見つめていた。
そこには『釣り』で言うところの『浮き』がプカプカと波に漂っている。それに繋がる細いワイヤーのような糸を辿ると、青い機体の腕にしっかりと握られた巨大な釣竿へと辿りつく事が出来た。
つまりは、この青いロボットは釣りをしているのである。
海水が機体にかかろうが気にする事無く、ただひたすらに青い機体はそこに立ち続けていた。
「こないな、ブルー……」
不意に、機体の中から声が聞こえた。少年とも青年とも判別できないその退屈そうな声の主は、ロボットのコックピットの中にいた。コックピットには各種モニターが機体の前面と側面、後面の映像を映し出していた。他の小さなモニターにはデジタル表記された機体温度や外の気温、スピードメーターと何かの残量を表すメーター。あとは操縦する物と思われる二つのスティック型の操縦桿と足元には三つのペダル。そして、シート脇には簡潔なキーボードが設置されていた。
その中で、少年から青年への中間辺りにいる男、狩場大地は少しへばっていた。
『釣りっていうのは、忍耐だって言ってたじゃないか、大地』
機体から、大地の物では無い別の声が聞こえた。人間の声と判断するにはやや首を傾げなければならない機械を通したかのような声。温かい無機質なる声。
「それは一般論だ、ブルー。オレは退屈なの」
『ワガママだな~、大地は』
大地はその声の持ち主をブルーと呼んだ。答えたのは、何者でもない大地が乗り込む機体からだった。無機質だけど温かいと感じる音声は、ブルーと呼ばれるロボットの物だった。
ブルーは、ふぅ~と人間みたいにため息をついてから再び海面を漂う浮きへと目をやった。実際にはメインカメラにそれを捕らえた。
その瞬間、
「ん」
『あっ』
チャポンといった感じで浮きが海中へと引っ張られていくのを大地はメインモニターで、ブルーはメインカメラで捕らえた。
『うわ!』
「くっ!」
ブルーの腕だけに連動させていた操縦桿が折れそうな位に引っ張られる。ブルーの力を超えるほどの力で釣り糸が引っ張られているのだ。
「ブルー!」
前方に倒れそうになる機体を突き出た岩場に足をかけ、なんとか踏みとどまる。ブルーはそのまま機体を後ろに倒れそうな勢いで傾けさせ、バランスを取った。
「今は耐えろ。そのうち奴が疲れてくるはずだ」
大地はメインモニターを睨み続ける。釣り糸が右へ左へと暴れ狂っていた。大地は左手で操縦桿を引っ張りながらキーボードのキーを叩く。サブモニターの画面が写り変わり、ずらりとアイテム名が並ぶ。
「情報、釣竿」
画面が再び変わり、3Dで描かれた釣竿と各種説明と現在のパラメータが表示された。耐久度を示す棒グラフは半分の所で止まっていた。
「よし、折れはしない」
大地が確認し、メインモニターに向かった時、軽い電子音が耳に響く。それと共に目の前に『残り十分です』という文字が浮かび上がった。
「ブルー、残り十分だ!」
『うん、分かった』
大地とブルーは、それから暫く地上と海中での戦いを繰り広げる。現在は餌に食い付いた魚の攻撃と言ったところだろうか。だが、攻守は入れ替わるものである。
「今だ!」
『OK』
ふと魚の引っ張りが緩んだ瞬間、ブルーは勢いよくリールを巻いていく。キリキリと音を立てて糸が巻かれていくを見ながら、ふと大地は眉を寄せた。竿のしなりが無くなり、糸が段々と緩んできたのだ。
「バレた、かな」
ブルーはとりあえずといった感じでリールを巻いていった。そして、気づいた。
『だ、だ、だだ大地!』
「どうした?」
『やばいかも』
ブルーのカメラは海中からせり上がってくる何か黒い影を捉えてしまったのである。
ものの五秒で、それは海中から一気に上空へと飛び出した。上空へと飛び出したものは、やがては自由落下を始める。それはこの世界でも変わりなく同じである。
という訳で、ブルーは空へと飛び出した巨大な魚…否、モンスターを見上げて、真上に落ちて来るのに気付いて、おろおろして、再び巨大モンスターを見た。
コックピットの大地はというと、
「ぎゃああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
ひたすら悲鳴をあげていた。
ブルーもそれに習って、叫ぶことにした。今からブーストを使って移動した所で間に合わない。
『うわああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁ!』
そして一人と一体は、世界の法則に従って見事に潰れた。
現在において『ゲームセンター』と呼ばれる施設はほぼ壊滅してしまったと言っても誰も疑わないだろう。誰もがゲームセンターは良かった、と三年前を懐かしんだりしない。
そう、三年前。
三年前、たった二人の男達が数年かけて造ったゲームが発表された。巨大なネットワークを使い仮想空間で遊ぶというこのゲームは『クロス・オブ・データ』と名付けられる。
その通称を『XOD』。
XODの世界ではプレイヤーはパートナーを持つ事となる。それは自分が想像したモノがパートナーとなるのだ。
そのパートナーは巨大なロボットであったり、現実にある乗物であったり、剣や銃といった武器であったり、自分を守る鎧であったりした。中には自分を守ってくれるヒーローを想像するプレイヤーもいる。
自由なゲーム、それがXODであった。
世界の子供達はXODに夢中となり、まさに世の中は、リアルワールドとデータワールドの交差する世界、
クロス・オブ・データになったのである。
誰もが英雄になれる世界。
誰もが英雄を目指せる世界。
それが、XOD……クロス・オブ・データである。