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武侠鉄塊!クロスアームズ  作者: 寛喜堂秀介
第二章 魔女救出
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第八話 超弩級

「は? 馬鹿?」



 初対面の、幼い少女からの暴言に、日本人の少女――長門かえでは、信じられない、という風に目をまるくする。



「いえ、馬鹿じゃなさそうです。ちゃんとした人です」



 銀髪の少女ミリアは、半ば目を閉じたような無表情を崩さない。

 微妙に危機感を覚えているのか、じりじりと後じさってはいるが。



「……あー、あれだ」



 かえでに視線で説明を求められ、王城健吾はミリアをかばってやりながら弁護する。



「――お前、前にオレ宛てに手紙くれただろ? あれがあんまり馬鹿っぽかったもんでよ」


「あー、あれね」



 思い当たる節があるのだろう。少女は腑に落ちたようにうなずいた。

 その仕草は、微妙に健吾に似ている。



「――ま、手紙の作法とか知らないし、あんたがどんな人か、わかんなかったから。確実に伝わるよう、分かりやすく、端的に、事実だけを書いたつもりだったんだけど――そしたら妙に馬鹿っぽくなっちゃったのよね。うん。それは認める。でもね」



 認めてから、黒髪の美少女は片手で額を押さえた。



「――あんたに馬鹿って言われるの、なぜだかすっごい屈辱なんだけど」



 少女はため息交じりに声を落とした。さもありなん。



「あぁ? ケンカ売ってんのかよ」


「いや、別に売ってない。売ってないんだけど……」



 面相からして野獣でございと主張している王城健吾である。

 言動を見ていても、とてもじゃないが、賢そうには思えない。

 そんな人間に、自分でも微妙かな、と思っていた点を突かれて馬鹿呼ばわりされては、ヘコみもしようというものだ。



「――ま、とりあえず、情報交換しましょうか。おたがい、妙な立場になっちゃったみたいだし」



 エヴェンス解放軍の長。

 湾岸都市タッドリーの代表。


 高校生程度の年齢でしかない少年少女が装飾する肩書きとしては、規格外と言っていいだろう。

 そこに至る経緯を話すのに、むろん立ち話ではすまない。



「とりあえず、あたしが住んでる屋敷に来てもらおうと思ってる。でも、その前に、あたしはちょっと用事を済ませなきゃいけないから、さきに行って待っててくれるかしら?」


「用事ぃ?」


「ええ、用事」



 オウムがえしの健吾の問いに、長門かえではうなずくと、豪商ギルダーに視線を向けた。



「ギルダー、三老会から情報をゲットしたわ。大物が来るわよ?」


「はて、大物?」


「北の鎮護ちんご――盾の王が来るわ……数千規模の帝国軍を連れてね!」


「ですぞっ!?」



 ギルダーが悲鳴に近い驚きの声をあげた。

 だが、長門かえでは構わない。



「じゃあ、行ってくるから。二人を案内しといてね、ギルダー」



 言いながら、少女はみなに背を向けて駆けだした。


 向かう先は、港。

 少女は駆ける。軽快に。

 その横に、獣の影が並んだ。



「――王城くん!」


「“健吾”でいいさ。お前のことぁ、なんて呼びゃいい!?」


「あたしも“かえで”でいいわよ! なに、ついて来る気!?」


「ああ。土産がわりだ! 手伝うぜっ!」


「あたし一人で十分だけどね。でも、ふふっ。気持ちは嬉しいわ!」



 長門かえでは勝気な目を細めて笑う。

 笑いながら、二人は道行く人々の間を縫ってなお駆ける。



「よぉ。三老会ってなんだ?」


「タッドリーの商人衆のまとめ役よ」



 駆けながら問う健吾に、かえでが横目で答える。



「――実質の街の運営者たちね。こいつらは、建前上は帝国寄り。当然よね、交易で成り立ってる街が、大陸を治める帝国に、おおっぴらに反逆するわけにはいかないもの」



 にひ、と意地の悪い笑みを浮かべながら、少女は話す。



「だからこの街は、あたしが暴力で三老会を従わせ、支配してるの――建前上はね」


「本音は?」


「およそ商売をしているもので、帝国が好きな人間なんていない――ってのは、この街の人の言葉……まあ政策上、商人に重税課してるし、商品の代金平気で踏み倒すし、好き放題やってるんだから当たり前なんだけど」


「ってことは、あの雪だるまみてぇなおっさんは」


「ギルダーね。あの人は解放軍に対する言い訳。もし解放軍がこの国全土を解放しちゃったら、それはそれで帝国側のスタンスをとったタッドリーの立場がマズいでしょ。そのために、商人衆も解放軍に協力的でしたよー、っていうアリバイ。もちろん帝国が勝っちゃったらクビが飛ぶわ。物理的にね……それに気づいてるんだか気づいてないんだか、あのお調子者」



 母親のような気遣いをする少女である。


 そうこうしているうち。ふいに視界が開けた。

 港だ。黒髪の美少女はスカートをはためかせながら、迷う様子もなく港の一角に向かう。

 その先には、二、三人が乗るのがせいぜいの、ごく小さな小船が繋がれている。



「カエデ様、準備はできています。それから、敵の船影、北より迫っているとのこと」


「ありがとっ!」



 小船を繋いでいる綱を手にした男の報告に、黒髪の少女は礼を言いながら、船に飛び乗った。

 続く健吾が船に飛び移ったことを確認してから、少女は不敵な笑みを浮かべ、叫ぶ。



「――じゃあ行くわよ! 全速前進っ!」



 その時。低く、唸るような幻聴を、健吾は聞いた気がした。

 同時に、小船が。かいも備え付けられていない小船が、不自然な速度で前へと動き出した。







 北の鎮護、と呼ばれる存在がある。

 エヴェンス王国の北方、大陸最北の大国、ノルズ。

 抑圧に反発する民族性。剽悍無比ひょうかんむひの蛮族たち。原始的だが強力な武装使いアームズマスター

 難治の地と呼ばれるこの国が、大規模な反乱もなく治まっているのは、ひとえに彼がこの地を治めているからに他ならない。


 帝国の北を鎮護する、守りの要。

 帝国領ノルズ王ルース。“盾の王”と呼ばれる、強力な武装使いアームズマスター



「――見えたわ」



 長門かえでは小声でつぶやいた

 視線の先には、船が見える。帝国の軍船だろう。ひときわ巨大なジャンク船を含め、その数は10隻。乗っている帝国の将兵は、2000を越えるだろう。


 帝国の将兵2000と、軍船10隻。

 そして、“北の鎮護”盾の王ルース。

 ノルズから引きぬける規模の戦力としては、最大限と言っていい。

 北の鎮護は、エヴェンス王国の反乱劇と、破城鎚の王の死が、天下を揺るがす事態だと認識しているのだ。



「おい、かえでっ!」



 洋上をかなりの速度で進む小船の上で、王城健吾は声をかける。



「なに?」


「いまさらだけどよ、この船、どうやって進んでんだ?」


「武装を使ってるのよ」



 長門かえでが答える。



「――あなたも、あの魔女に知識を貰ってるなら知ってるでしょ? 武装を実体化させる一段階前。“空想”状態でも、武装はその影響力を行使できる……物理干渉能力は格段に落ちるけどね」


「……へえ。器用なもんだ」


「そんなことないわよ。武装使いアームズマスターなら誰もが意識せずにやってることよ……こんな風にね!」



 周辺の空気が変わった。

 健吾はこの感覚をよく知っている。

 小船が港を出る前にも味わった感覚。

 武装が実体化する前の、濃密な気配が、あたりを支配している。


 長門かえでは沖の方一点を指差した。

 その先には、帝国軍船団。



「てーっ!」



 気合一声、かえでが指を振り下ろす。

 それに応じるように、現実感のない、幻のごとき爆音が、あたりに木霊した。


 直後。

 船団の先頭を進んでいた軍船が、爆発した。

 実体は見えない。だが、生じた破壊力は、規格外。



 ――スゲェ! これが、こいつの武装か!



 手を握りこみながら、健吾はまだ長門かえでの武装の正体がわからない。



「もう一発! ってーっ!」



 かえでが続けて指を振り下ろす。

 彼女が視線を向けた先は、ひときわ大きなジャンク船。


 幻の爆音が上がる。

 健吾は、巨大なジャンク船の爆散を確信した。


 だが。船は沈まなかった。

 ジャンク船の前に、突如出現した光の盾。

 船を覆うかのようなそれが、船の爆破を阻んだのだ。


 健吾の目は捉えている。

 ごく小さくではあるが、光の盾の中央に、金属的な光沢を持つ、小さな盾のごとき存在を。



「アレが盾の王の武装かよっ!?」


「ええ。有名よ。あれが“北の鎮護”の八王級武装」



 ――“守護の神盾シールド・オブ・イージス”。



 少女は口の中でつぶやいた。



「“防ぐ”ことに概念特化した、強力無比の武装、あれはその概念凌駕オーバーロードよ――っ!?」



 言葉の途中で、少女が身構えた。

 同時に、健吾は少女の前に立ち、武装を展開している。



 ――“鉄塊”。



 圧倒的な鉄量を誇る巨大な鉄の塊は、二人の前に具現化する。


 同時に、強い衝撃音が複数回響いた。

 鉄塊の前面に、船上の敵からの攻撃が当たったのだ。



「ありがと……というか、すっごい反応に困る武装ね、それ」


「うるせ」



 健吾に礼を言ってから、少女は視線を前に向ける。



「――ま、ともあれ、理解したわ。“盾の王”ルース。彼の武装が“防ぐ”専門なら、攻撃役が要る。いま攻撃してきたのがきっとそれね……王直属の武装使いアームズマスターだけあって、なかなか強力な武装がそろってるようね。でも」



 気配が、ふたたび変わった。

 長門かえでが武装を顕現させようとしているのだと、健吾は理解した。



「――あたしの武装は、超弩級ちょうどきゅうよ」



 小船は二人を乗せてなお快速で走る。

 それを、下から突き上げるように持ち上げる、黒い影があった。



「……おいおい、マジかよ」



 健吾は足元を見て、思わずつぶやいた。

 小船を突いてせり上がってきたのは、巨大な鉄塊。

 幅は、目算で30メートル、長さは200メートルを越えている。


 圧倒的鉄量を持つそれは、まぎれもない近代的な戦艦。

 超弩級の鉄の塊は、長大な鉄塔のごとき艦橋と、複数の巨大な砲を備え――この木造船しか浮かんでいない古の海に、海魔のごとき絶対者の貫録を以って出現した。



「戦艦の武装“超弩級戦艦スーパードレッドノート”」



 超弩級。

 その名で形容される、かつての日本海軍の象徴のごとき戦艦、長門ながと

 船首に仁王立ち、勝気な瞳を敵に向けて――長門かえでは不敵に笑う。



「――さっきの攻撃は、実体化時に比べて……まあ五分の一ってとこかしら? 今度は掛け値なしの全力全開! “盾の王”っ! 41cm連装砲の威力、喰らってみなさいっ!!」



 少女の掛け声とともに、巨大戦艦の砲口が、重い音を立てて火を噴いた。

 轟という爆音とともに、戦艦の砲弾が海を蹂躙じゅうりんする。


 巨大ジャンク船を守る、光の盾。

 帝国を守る“北の鎮護”の、八王最硬を誇る絶対防御の盾。

 その核たる金属質の大盾は、砲弾の直撃を喰らい――微塵に砕けた。


 しばし、爆音と爆発が洋上を支配する。

 ややあって、紺碧の海に存在するのは、くろがねの巨大戦艦のみとなった。


 その上で、長門かえでは健吾に微笑みかける。



「ありがとね。おかげで助かったわ」


「いや、お前なら自分で防げただろ……にしても、すげえ武装だな。お前すげェ。おもしれェよ!」



 戦艦に男のロマンが刺激されたのだろうか、ひどく興奮する健吾の様子に、すこし、はにかんでから。

 少女はふいに、手を差し出してきた。



「ありがと。ま、これからよろしくね。健吾」


「ああ、よろしくな。かえで」



 たがいに、不敵な笑みを浮かべて。

 この、どこか通い合うところのある二人の日本人は、硬い握手を交わした。




◆登場人物

ルース……空気系生真面目勤勉男子


【武装データ】


武装:盾の武装“守護の神盾シールド・オブ・イージス

使い手:ルース

特化概念:“防ぐ”

鉄量:A

威力:S

備考:軍団防衛においては帝国最強の武装。


武装:戦艦の武装“超弩級戦艦スーパードレッドノート

使い手:長門かえで

特化概念:なし(戦艦の完全再現)

鉄量:規格外

威力:規格外

備考:あらゆる面において世界の常識を破る、超規格外の武装。

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