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武侠鉄塊!クロスアームズ  作者: 寛喜堂秀介
第二章 魔女救出
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第七話 長門かえで

◆これまでのあらすじ


王城健吾は銀髪の少女、ミリアを助けたことをきっかけに、大陸に鉄の支配を布く帝国と戦うことになる。副王グート、“破城鎚の王”ラム、そして同じ日本人である“戦車の王”鉄轍也を次々に倒した健吾は、彼らの非道にあらためて帝国打倒を心に誓う。

 武装使いアームズマスターは一騎当千だ。

 特に、大鉄量を誇る将軍級の武装使いアームズマスターは、単騎で一つの都市を落とせるほどに、超絶した武力を誇る。

 防ぐ側の敵はどうするか、というと、こちらも都市防衛を武装使いアームズマスターに任せる。城壁や守備、攻撃兵の支援など、諸要素あるというものの、武装使いアームズマスター同士の戦闘が、戦の勝敗を決めると言っていい。


 野戦にしても同様である。

 軍隊、兵士というものは、武装使いアームズマスター同士の戦いに有利をもたらすための支援要員であり、肉の壁であり、占領地支配のための人員でしかない。


 戦争の勝敗は、武装使いアームズマスターの数と質で決まる。


 だから。

 王城健吾以下100名足らずの解放軍と、迎撃に集まった首都エアを守る50の武装使いアームズマスターを含む、帝国軍6000の戦いは、解放軍の圧勝に終わった。


 鉄塊が陣を蹂躙じゅうりんし、襲いかかる武装使いアームズマスターを一息に蹴散らし、首都エアの城門を破壊した。

 長年帝国兵による支配に耐え苦しんでいた民衆は、帝国の敗報を機に蜂起し、帝国兵やその協力者の血で都を染めながらも――首都エアは解放された。


 それから数日。

 旧王城に拠点を移した解放軍の中でも、長の健吾を補佐するアウラスは、八面六臂の活躍をしていた。


 首都の行政を一手に握り込んだアウラスは、暴走しがちな首都の住民たちを押さえ、流血を最小限にとどめ、治安維持に心を配り、首都の平常化に努めた。



「よくやるもんだ」



 健吾が感心すると、この壮年の優男は、「それほどでもありません」と答えた。



「帝国の占領地政策。その基本方針は、国王や領主を殺して行政機構を乗っ取り、そこから時間をかけて帝国派官吏を増やしていく、というものです。エヴェンス王国が滅ぼされてから10年。まだ旧王国に心を寄せている官吏は――少なくないですから」



 とはいえ、それらを利用して短期のうちに首都行政を掌握するアウラスの技量は並ではなかった。


 首都を押さえ、帝国軍の中核戦力を破砕した影響だろう。首都近隣の諸都市の民衆は次々と立ち上がり、しばらくして新たに数都市が解放された。


 解放の機運は燎原りょうげんの火のごとく広がっていく。

 解放軍はそれらの都市に手を差しのべながら、勢力を膨張させていく。

 中核であった三都市の指導者たちも、自分たちの器量に余るほどの解放軍の大勢力化に、不安げに顔を見合わせていた。


 そんな中、東より使者が現れた。

 健吾と同じ日本人、長門かえでが解放した湾岸都市、タッドリーからの使者だった。



「――えー、おっほん。誇りあるエヴェンス解放軍の長、オウジョウケンゴ殿、このたびの首都解放、比類なき慶事けいじとおよろこび申し上げますぞ」



 開口一番。タッドリーの使者は、鼻にかかったような声で、健吾たちを祝した。

 少壮と見える。禿頭とくとう肥満。たるのような丸く張った胴の上に乗っているのは、見事なえびす顔。

 身なりは豪奢の一言。極彩色に彩られた絹衣、宝石をあしらった金の指輪が指の数だけつけられている。



「宝物庫が歩いて来たのかと思っちゃいました」



 姿を見たミリアがそうつぶやいたほどだ。

 ギルダー。湾岸都市であり、海上交通の要路でもあるタッドリーの豪商である。



「我らが湾岸都市解放軍の長、カエデ殿も、同盟軍の活躍に、ことのほかお喜びですぞ!」


「まだ同盟は成立して――おりませんがね」


「いやいや、これは厳しい。たしかに、同盟はこちらが申し込んだだけで、まだ返事はいただいていない。ですが、我らは志を同じくする者、いわば同志ではありませぬか。ここは一致協力して帝国にあたりましょう。そのためにも、同盟は欠くべからざるものですぞ!」



 健吾たち解放軍が解放した城市は10に上る。

 引き比べるにタッドリーは、いまだ一都市の勢力に過ぎない。

 本来風下に立つべき彼らが同格の同盟を申し出て来ている。その根拠はひとつしかない。


 長門かえで。

 日本人の、おそらくは超一級の武装使いアームズマスター

 その武力と、交易都市の巨大な資力を背景に、タッドリー――いや、この喰えない豪商は、解放後のエヴェンス王国の国政に、深く食い込むつもりなのだろう。


 資金と戦力。

 手元不如意な解放軍にとって、たしかに欲しいものだった。

 だが、タッドリーの使者、商人ギルダーは、すこしばかり欲をかきすぎた。



「つきましては、タッドリーに武装使いアームズマスターを数名、お貸しいただきたい。たちまちのうちに湾岸諸都市を解放して見せますぞ!」



 この、無遠慮な要求に、解放軍を実質取り仕切るアウラスが、静かに怒りを示した。



「すこし、二人だけでお話しさせて――いただきたい」


「ですぞ?」



 解放軍首脳――三都市の指導者と、王城健吾まで追い出して、白皙の優男は笑った。

 彼が静かに激怒していることに気づいた四人は、そそくさと立ち去る。見捨てたとも言う。


 しばらくして。

 戻ってきた四人が目にしたのは、憔悴しきった商人の姿だった。



「お喜びください。ギルダー殿のご厚意で、万の将兵を一年に渡って養える量の食糧と金を寄付していただけることになりました」


「ですぞー」



 張りのない声を発するだけの豪商の姿に、四人は戦慄を覚えた。



「かわりに、ギルダー殿に解放軍の御用商人としての諸利権を与えていただきたいのですが、ケンゴ殿――よろしいでしょうか」


「おう。任せるぜ」



 にこやかに言う壮年の優男に、気圧されるものを感じながら、健吾はうなずいた。



「それから、タッドリーに武装使いアームズマスターを派遣――これは、先だっての手紙の事情もありますし、ケンゴ殿に行っていただくのがよろしいかと」


「ああ。それでいいぜ? どの道、長門ながとだったか? そいつとは会ってみてェしな」



 健吾はうなずく。

 こうして、王城健吾は豪商ギルダーとともに、湾岸都市タッドリーに向かうことになった。


 出発前。

 健吾の補佐、アウラスは健吾にささやいた。



「ケンゴ殿の探し人、鎧の武装使いアームズマスター、目星がつきました」


「おやっさん、本当マジかっ!?」


「ええ。彼の男が居る場所は、タッドリーからのほうが近い。詳細はミリアに教えていますので、娘を連れていっていただきたく。私も後ほど――合流いたします」



 アウラスの言葉に、健吾は首を横に振った。



「いや。まだ王都も落ちついてないだろう? おやっさんはここに居てくれ――心配すんな。逃げやしねェよ」



 不満げな優男に、健吾は言い聞かせる。



「帰って来るさ。オレは帝国を許せねェ。だから、この国を、二度と帝国に踏みにじらせやしねェ。そのために、帰ってくる。だから、おやっさん。それまでオレの居場所を守っててくれねェか?」



 それは、健吾がはじめて見せた、流浪の異邦人ではなく、同じ国の仲間としての意思表示。



「……もちろん――ですとも」



 感動からだろう。身を震わせるアウラスに、王城健吾は獣じみた微笑みを送った。







 首都エアからタッドリーに向かうまでの街道は、安全が保証されているわけではない。

 だが、豪商ギルダーは特に怯える様子もなく、ゆうゆうと馬を走らせる。



「あの人、大丈夫でしょうか? 帝国兵に矢で射られて死んじゃったりしません?」



 ミリアがナチュラルに毒舌を吐いた。

 それを聞きつけて、極彩色の雪だるまは「むむ!」と声をあげた。



「失敬な! どこのクソガキ――なんと!? アウラス様の!? こ、これは失敬。利発そうなお嬢様である! しかし、吾輩を舐めないでいただきたいものですぞ! 吾輩の武装! “守護の指輪アミュレットリング”!」



 言いながら、ギルダーは左手薬指に輝く、七色の宝石が埋め込まれた指輪を差す。



「――“持ち主を守護する”ことに概念特化させた武装ですぞ! なまなかの事態では、吾輩傷一つつきませんぞ!」



 まあ、どうやら。心配する必要はなさそうだった。







 湾岸都市タッドリー。

 東に海、南は大河に面する、大陸屈指の交易都市だ。

 エヴェンス王国の東南端に位置しており、南の大河、グロスター川を越えれば、そこはすでに隣国、帝国領オルバンだ。


 この、人と物の流れを重要視する商人の街が、いち早く健吾たちの動きに同調し、帝国から独立したのは、一人の少女の行動の結果だった。



 ――長門かえで。



 タッドリーの守将を瞬殺した、圧倒的な武装の持ち主は、城門の前に仁王立ちになって、王城健吾たちを待っていた。


 黒い瞳に長い黒髪の美少女だ。

 学校の制服なのだろう、セーラー服に、膝上まで詰めたスカート。

 あらわになった太ももを隠すように、黒いニーソックスを履いている。



「おお、カエデ殿。吾輩王都でひどい目に遭いましたぞ! あの補佐官アウラス、とんでもない曲者ですぞ!」



 縋りつく勢いの豪商に、少女は勝気な瞳を向ける。

 その目は、どこかとがめるよう。



「ギルダー。あんた、あたしの言うこと聞かなかったでしょ」


「ぎくり」


「首都解放の祝福、同盟の要請。武装使いアームズマスターの派遣と引き換えに相手の盟下に入る。これ以外よけいなこと言ってない?」



 だらだらと、脂汗を流す豪商。

 それを見て、銀髪の少女がぽつりとつぶやいた。



「最後の後半。引き換えに、以降まるまる言ってなかったみたいです」


「はぁ!? なに考えてんの! ギルダー。あなた交渉じゃなくておねだりでもしに行ったの? 相手が怒るのも当然じゃない! そりゃ足元見倒して吹っかけてくるわよ! 言ったでしょ! 目先の利益ばっか見てたら結局損するって!」


「す、すみません。すみませんですぞカエデ殿。ただ吾輩、タッドリーの不利益は避けましたぞ! 巨額の身銭を切って――」


「――かわりに御用商人の地位を貰ったみたいですけど」


「クソお嬢様っ!?」



 ギルダーが弁解し、ミリアが突っ込む。

 雪だるまと少女の珍妙な寸劇を見せられて、長門かえでが深いため息をついた。



「はいはい。向こうもこっちのメンツ守るために、体裁は整えてくれてんのね……ちゃんとお仲間も送ってくれてるし……はあ、やりにく」



 と、こぼしてから。

 少女は気を取り直したように、王城健吾に目を向けた。



「はじめまして。王城健吾くん? あたしは長門ながとかえで――あなたと同じ、日本人よ」


「へっ。ご存じの通り、オレは王城健吾だ。ま、よろしくな」



 歩み寄り、手を差し伸べてくる少女。

 王城健吾は野獣めいた笑みを浮かべ、その手をとる。



「――大変です。ケンゴさん。この人馬鹿じゃないですよ?」



 にこやかな表情のまま、ミリアの言葉に、二人は凍りついた。




◆登場人物

ギルダー……強欲系雪だるま男子


【武装データ】

武装:指輪の武装“守護の指輪アミュレットリング

使い手:ギルダー

特化概念:“持ち主を守護する”

鉄量:E

威力:B

備考:某人物の射弾観測要員にうってつけ。

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