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武侠鉄塊!クロスアームズ  作者: 寛喜堂秀介
第七章 鉄拳飛翔
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第四十話 王


 ――各地の解放軍、トレントに集まりつつあり。



 この情報を得て目を光らせたのは、野心ある愛国者、ウィストンだった。


 この男は大陸解放の象徴ともいうべき王城健吾との繋がりパイプを武器として、国内の有力者との交渉にあたり、各都市の解放を支援し、首都の治安回復にも努めてきた。


 これがひとかどの武装使いアームズマスターだったなら、誰もが異論を挟むことなく解放軍をまとめられただろうが、武装の才能なく、また身分も卑しいのがこの男の泣き所だ。

 それゆえウィストンは、非凡な調整能力と行政手腕を持ちながらも、有力者同士の主導権争いに悩まされていた。



「だが、いま外国から軍が送られてくる。味方ではあるが、外国の軍だ。彼らが来るというのに、国内がまとまっていなくては……まあ、これから・・・・の発言権なんてぇあってないようなものになるでしょう。そりゃあいけねえ。いけねえですなあ」



 くつくつと含み笑いしながら、この無精ひげの三十路みそじ男は有力者たちの危機感をあおりながら、ウィストン寄りの有力武装使いアームズマスターを当面の代表として認めさせてしまった。


 その後、トレント解放軍が軍として整備されていく過程で、ウィストンたちの権限は飛躍的に強化されていくことになる。



「やり手ねえ。あれならトレントを任せちゃっても大丈夫でしょ」



 とは長門かえでの言である。







 ウィストンたちがどうにか軍を集め終わったころ、他国の解放軍が、首都ルートンに続々と集まってきた。


 一番手は北東の大国、ノルズから、トレント西部の帝国兵を蹴散らしながらやってきた、ノルズ解放軍。

 その頭目は、首都ルートンの門前で出迎えた健吾の姿をみて、大きく腕を振った。



「大王ー! 鉄塊大王ー! おれ帝国野郎ぶっとばしたぜー!」


「ケンゴ殿! おひさしぶりです! ノルズ解放軍精鋭2千、ケンゴ殿のおん前にまかり越しました!」



 頭目デーンとエイブリッジのヘンリー。

 健吾を主としたう二人は、満面の笑顔で健吾の元に駆けつけた。


 続いてはロードラント王国から、王臣テオドア率いるロードラント解放軍一千が。

 同時にエヴェンス王国からアウラス率いるエヴェンス解放軍一千と、オルバン王国から三大将軍の一人、バート率いる精鋭五千が、続々と駆けつけてくる。


 エヴェンス王国の実質的指導者であり、ミリアの父親でもあるアウラスは、健吾の顔を見て、微笑んだ。



「おひさしぶりです。ケンゴ殿」


「ひさしぶりだな、おやっさん。よく来てくれたぜ」



 健吾は獣の笑みを浮かべる。

 その反応に、おや、と眉を動かしながら、壮年の美丈夫は馬を下り、足を引きずりながら健吾に歩み寄る。



ミリアは元気にしておりますか?」


「ああ。いろいろと助けてくれてるぜ。会ってやってくれ」



 握手を交わしながら、二人は再会を喜び合った。

 その後、娘と再会したアウラスは、のじゃのじゃ言ったりなぜか“魔法の杖スタッフ・オブ・マジック”を持っている娘を見て、健吾にたいして、ものすごい勢いで抗議の視線を送っていたが、健吾のせいではない。


 各地より続々と兵が集まってきたが、残るクラウリー解放軍は、現在解放戦のまっ最中である。

 現状、どうしても兵は割けない。かわりにやってきたのは、健吾とも面識のある少女、ネリーだった。



「鉄塊の王、ケンゴ殿、一別以来。ホルンのネリー、クラウリー解放軍、七賢者の全権代理として参りました」


「おう。クラウリーもやったみてェだな」



 頭を下げる、エルフじみた容姿の少女を、健吾は笑って祝福した。







 ぞくぞくと各国の指導者が集まる中、珍客があった。

 連れてきたのはトレント解放軍を切り盛りするウィストンである。



「ケンゴ殿」


「おう、ウィストン。みんなを世話してもらってすまねェなあ」


「いえいえ。大変ではありますが、助けにもなっておりまして。むしろこちらは感謝したいくらいで……と、ケンゴ殿、今日は客人を連れてまいりました」


「客? 誰だ?」


「それが、こちらです」



 健吾の屋敷を訪れたウィストンは、挨拶もそこそこに、ともなってきた少年を紹介した。



「こいつぁ誰だ?」



 年のころは10歳かそこら。

 金髪碧眼の、明るい少年だ。



「西の帝国領ミーガン王国。そこの旧王家の王孫おうそん殿です」


「はいっ! アーサーと言います! よろしくお願いしますっ!」



 ウィストンが紹介すると、金髪碧眼の少年は元気よく挨拶した。



「おお、元気がいいな!」



 子供に甘い健吾は上機嫌だ。



「ミーガン解放を目論む地下組織――まあ、解放軍と言っちまっていいでしょう。その長であるウルスター王子の御子です」


「父の名代として参りました!」


「おう。サンキュな――ウィストン。こいつの親父さんは?」


「いまだミーガン王国に。祖国解放に他国の力を借りるのはいい。だが、解放軍の長が安全な他国に逃げるわけにはいかない、と……不器用な方のようで」



 ウィストンが、感情の色を消して健吾の問いに答えた。


 解放軍側に応じるように、帝国軍も活発に動いている。

 帝国は、現在トレントからの脱出兵、それに帝国本土の精鋭を、帝国領ミーガンに集めている。

 その渦中で、祖国解放の旗を掲げるのは、並大抵のことではない。だからこそ、息子を健吾の元に逃がしたのだろうか。


 ともあれ、これで首都ルートンに、旧七王国の首脳がそろった。

 兵糧を手配させられたタッドリーの大商人、ギルダーがルートンにたどり着くのは、もうすこし後になる。







 アーサーが帰ってから、しばらくしてアウラスが健吾の部屋を訪れた。

 誘いあってきたのか、ミリアや長門かえで、天掛美鳥といった面々もいっしょだ。



「おやっさん。それにみんなも。どうした?」


「アウラスさんも来たことだし、状況も整ってきてる。だから、いろいろと話しあうべきだと思って」



 いぶかしむ健吾に、かえでが説明した。

 すでに傷もえた彼女は、半分寝ぼけた美鳥の手を引いて、テーブルにつく。

 アウラスもそれに従い、ミリアも茶をれてみなに振る舞ってから、席についた。


 最初に口を開いたのは、アウラスだ。



「この地には、七王国の首脳が集まっております。立場は……まあ、対等、ということにしておきましょう。ですが、軍を集めて連合軍とする以上、その長を決めねばなりません。ケンゴ殿――貴方です」


「だろうな」



 健吾はうなずいた。

 そもそもが、健吾とともに戦う目的で集まった軍なのだ。

 他に思惑はあるとしても、長は王城賢吾以外にはありえない。



「――ガラじゃねェのは自分でも分かってるけどよ。他の誰がやっても角が立つってのは、馬鹿のオレでもわかるしな……ああ、かえでが居たか」


「カエデ殿はケンゴ殿に比べると、やはり名声は落ちますし……正直言いますと、カエデ殿はケンゴ殿の……その、愛妾おんなと見られて――おりますので」



 アウラスの話に、かえでがものすごく微妙な表情になり、ミリアが「のじゃ!?」と悲鳴をあげた。

 美鳥は夢の世界にほぼ行きっぱなしである。



「そうか。なんかすまねェな。かえではオレなんかよりよっぽど頑張ってくれてんのによ」


「八王を倒してるのは健吾なんだし、文句もないんだけど……愛人あつかいはねぇ……相棒なんだし」


「お父さん。わたしは? わたしはなんて言われてるんですか?」


「使用人です」


「なんでですかっ!」



 ミリアが無駄にヒートアップしているのはともかく。



「近々、七王国の首脳で会議が行われます。そこで大陸解放軍が設立され、ケンゴ殿が長としてされます」


「そのための根回しは、すでに始まっているってこと?」


「ええ。とはいえ、ケンゴ殿が大陸解放軍の長に推すことについては、どこも異論はありません。調整している内容は、各国の利害についてで、まあ、それに関しては、ケンゴ殿に迷惑はおかけしません。ですが、ケンゴ殿にお尋ねしたい――ことがあります」


「なんだ?」



 アウラスの真剣な表情に、健吾も居ずまいを正す。



「ケンゴ殿は帝国を滅ぼした後、どうされる……いえ、八王国の王になられるつもりはありますか?」



 もってまわった問い方を避けて、壮年の美丈夫は直接的に問う。

 健吾は首をひねった。



「どういうことだ? 帝国滅ぼしゃオレが王になんてなる必要ねェんじゃねえか?」


「健吾、それは違う。むしろ戦後にこそ、王は必要なのよ」



 健吾の疑問にかえでが答えた。



「――各国には各国の思惑がある。いまは帝国という共通の敵が居るから手を取り合っていられるけど、いずれまた争いは起こる。大陸が統一される以前のように。それを止めるためにも、大陸を統べる存在おうは必要なの」


「その通りです。そして、そのためには、いまから準備をしておく必要がある。だから尋ねたのです。王になられるつもりは――あるか、と」



 かえでの説明を受けて、アウラスがあらためて問いかけた。

 健吾はしばし考え。そして口を開いた。



「……おやっさん、いつか言ってたよな? 王となるのに異論はない。そう呼ぶのに障害があるなら、名乗るタイミングはおやっさんに任せるってよ」


「ええ」


「そのタイミングが、帝国をぶっ潰した後だって言うのなら……わかった。オレは王になるさ。八王国のよ――だから、おやっさん」



 開いた手を握りしめながら、健吾は言う。



「頼む。この大陸くににとって、いい形を考えてくれ……ガキンチョが泣かないで済む、みんなが笑って暮らせる、そんな世の中に、オレはしてェんだ」


「承知いたしました。ケンゴ殿」



 アウラスが頭を下げる。

 己が主に対してそうするように。



「かえで。オレはバカだし物を知らねェ。オレはおやっさんを助けてやれねェ。だからよ、オレの代わりにおやっさんを助けてやってくれねェか?」


「言われなくてもやるわよ。足りないところを補い合う。背中を預けていっしょに戦う。相棒ってそういうものでしょ? にひ」



 勝気な瞳を笑みで細め、長門かえではうなずいた。



「美鳥、ミリア。お前らも、頼む。助けてくれ」


「もちろんです!」


「一生養ってくれるならいいよー」


「のじゃ!?」



 皆を見回してから、王城健吾は拳を突き出し、宣言する。



「帝国をぶっ潰す。皇帝野郎もぶっ飛ばす。そうして魔女さんを助けて、大陸に住むヤツらの笑顔を取り戻す。そのために、オレは……なるぜ。王様によう」



 突き出した健吾の拳に、四つの拳が合わさった。







 その後、解放軍首脳陣との協議を経て、健吾は大陸解放軍の長となった。

 大陸解放軍大将軍、および七王国連合会議主座、全国領鉄儀官。

 それが「次の王」の雛型になると、誰もが予感していた。






◆登場人物


アーサー……元気系素直ショタ

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