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武侠鉄塊!クロスアームズ  作者: 寛喜堂秀介
第七章 鉄拳飛翔
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第三十九話 仲間

◆これまでのあらすじ


鉄の支配を布く帝国に怒りを抱き、戦う王城健吾と仲間たち。

大陸全土の解放のため、北のトレント王国に攻めこんだ健吾たちは、長門かえでが負傷したものの、槍の王をうち倒した。

だが、トレント王国から撤退した帝国軍は、本土より兵を集めて反撃の牙を研いでいる。

しかし、各国の解放軍もまた、動き始めていた。

 天掛美鳥が“紫電改シデンカイ”で各地を飛び回り、健吾はようやく事態を把握した。

 トレント王国の帝国兵たちは、みな城市を、砦を捨てて、西の国境を目指している。

 帝国はトレント王国を放棄したのだ。



 ――逃げやがったか。帝国野郎ども。



 首都ルートン。

 その王宮、摩天城まてんじょうの、虚ろになった玉座の前で、王城健吾は拳を握りしめた。

 首都でも、他の地同様にトレント人武装使いアームズマスターの粛清が行われていた。それを健吾は止めることができなかった。



「健吾にぃ、あんまりりきまないほうがいいよー」



 そんな健吾をはげますように。

 背後から、美鳥がゆるい調子で声をかけてきた。



「健吾にぃは強いけど、知らないところに居る人の、知らない不幸まで、助けられるわけじゃないんだしー」


「たしかにそうだがよ」



 美鳥の言葉に、健吾は浅く息をつく。

 健吾は全能ではないし、万能にすらほど遠い。

 王城健吾が出来ることなど、しょせん見かけた悪人をぶっ潰すことだけだ。


 だが、それでも。

 健吾は、手の届かないところに居る悪が、我慢ならないのだ。

 自分の知らないところで子供が泣いているのが、我慢ならないのだ。

 もしその場に自分が居たらと思うと、居ても立ってもいられなくなるのだ。


 拳を見つめていると、ふいに視界を、美鳥の顔がさえぎった。



「おわっ!?」



 鼻先が触れるほど近くから、以外にぱっちりとした目で見てくる少女に、健吾は思わず後じさる。



「逃げるなんてひどいなー」



 少女は両手を翼のように広げながら、語りかけてくる。



「だめだよー、健吾にぃ。オレが居れば助けられたとか、オレが知ってれば助けに行けたとか。もしもの話なんて、しても仕方ないんだから。健吾にぃは居なかったし知らなかった。だれも文句はいわないよー」



 それは、飛行機の真似だろうか。

「ブーン」などと言いながら、少女は健吾の周りを回る。


 少女の言葉は正しい。

 だが、健吾はうなずけなかった。



「いや、文句を言う奴は居るさ」



 両手を広げたまま、小首をかしげる少女に、健吾は教える。



「オレだ。王城健吾だ……理屈じゃどうしようもねェことだとわかっててもな、心の中のオレが叫ぶんだよ。なぜ、そこに居なかったのか。なぜ知らなかったのかってよぉ。オレの心はえずにはいられねェんだよ!」



 叫びながら、健吾は強く、強く拳を握りしめる。



「もー。疲れる性格してるなー。健吾にぃも、それに長門さんも」



 きりもみ飛行するように、くるくると回りながら。

 少女は、ふいに足を止め、健吾の胸に背中を預けた。

 戸惑う健吾の頭を後ろ手でそっと包みながら、少女は言った。



「ねえ健吾にぃ、健吾にぃは正義の味方をやりたいの?」


「あ? なんだよ、いきなり?」



 突然の問いに、健吾は少女から視線を外しながら問い返す。

 短衣の間からちら見える少女の豊かな胸は、思春期の健吾には目の毒なのだ。


 そんな健吾の反応にきょとんとしながら、少女は語る。



「だって、自分からムズカシイことに首突っ込んでさ。見返りとか、なんにも考えないで人助けしてまわってる。ぼくらとは関係ない、こんな異世界で。まるで日曜日の特撮ヒーローみたい」


「よせよ。こっぱずかしい」


「はずかしい? そうかな? ぼくはカッコいいと思うけどなー」



 健吾に、体重をあずけながら。

 ふにゃー、と少女は伸びをしながら目を細める。


 目のやり場に困りながら、健吾はひとつ、ため息をつくと、言った。



「オレはよ、馬鹿なんだよ」


「んー?」


「馬鹿なりに、譲れねェことはあってよ……自分てめえの正義を裏切れねェ。曲がったことは許せねェ。ムカつく奴はぶっ飛ばす。たとえそれがどんな奴でも。今まで、ずっとこれでやってきた」


「日本でも?」


「ああ。日本でも、こっちでも。オレがやってるこたぁ変わんねェよ。ただ、ちっとばかし大きすぎる力を貰っちまったってだけでな」



 健吾は思い返す。

 日本でも、異世界でも、笑えるくらい健吾は変わらない。

 変わらないが、日本では、健吾ははみ出し者だった。拳でしか己の正義を通す手段を知らない、手に負えない不良として扱われてきた。



「でもよ、日本むこうじゃ救いようのねェ不良だったオレが、こっちじゃ英雄だ。やってることなんて変わりゃしねェのによ」


「だから、無理しちゃってる?」


「だからってわけじゃねェよ。だけど、そうだな。美鳥、お前さっき、オレが見返りもなしに人助けしてるって言ったよな?」


「うん」


「違うんだよ。オレは見返りを貰ってるんだよ。オレが、オレの思うままの正義セーギを通して、喜ばれる。感謝までされる。こんなにうれしいこたぁねェんだよ」



 言ってから、健吾は恥ずかしげに頭をかいた。

 そんな様子を見て、少女は目を細めた。



「ほんとに、いい人すぎるよねー。健吾にぃったら」



 言いながら、立ち上がる。

 手を腰にあて、頭一つ低い位置からゆるい笑みを健吾に向け、少女は言った。



「しょうがないから、ぼくも手伝ってあげるよー」



 怠惰な少女の、そんな言葉に。

 健吾はすこし驚きながら、口の端を笑みの形につり上げた。



「ああ。頼りにしてるぜ、美鳥」



 健吾の言葉に、「にゃー」と照れ笑いしてから、少女は健吾にくるりと背を向けた。



「とりあえず明日から本気出す―」


「いや、今から本気出せよ」



 ベッドを探し求めて出て行った美鳥に、健吾は肩を落として突っ込んだ。







 4日後、ロッドシールで別れたウィストンが首都ルートンにたどり着いた。

 途中の都市で、人が集まったのだろう。従う者は数百を数える。



「槍の王が死んだってぇ事実が、帝国兵どもの逃亡でようやく知れ渡ったようで。おかげ様でぼちぼち人が集まってます……それにしても、妙ななりゆきで」


「ああ。帝国野郎どもはトレントを捨てやがったらしい」


「ま、やっこさんたちが捨てたってんなら、手前どもトレント人としては、ありがたく拾わせていただくつもりですがね」



 ウィストンはそう言いながら、首都で人を募り、行政機構を抑え、各方面との折衝にあたりつつ、近隣の都市に、解放軍への参加を呼びかけていった。


 健吾が来たときは、街中死んだようになっていた首都ルートンは、ようやくその営みを取り戻し始めた。


 そして、ウィストンの到着からさらに4日後。

 長門かえでがミリアに助けられながら、首都ルートンにやってきた。



「おい、かえで、大丈夫かよ。なんでこっちまで?」


「ちょっと貧血気味だけど大丈夫。理由は、説明するわ」



 そう言う少女の顔色は、まだ青白い。

 とりあえず場所を健吾が仮住まいしている屋敷に移し、彼女をベッドに寝かせた。



「おふとんだー」


「ちょ、なんではいってくるの? なんで当てるの? いやがらせなの!?」



 すばやく同じベッドにもぐりこんだ天掛美鳥に猛抗議しつつ、かえでは説明する。



「まず、ロードラント王国内の帝国勢力は、無事排除できたわ」



 エヴェンスからの援助と、なにより健吾が槍の王を倒したことが大きかった。

 帝国領トレントからの救援が期待できなくなり、同時に逃げる先を失って孤立した帝国軍は、心を折られてしまったのだ。



「それがひとつ。もうひとつは……にひ。みんなも、健吾といっしょに戦いたいって」



 少女は勝気な瞳を細めて笑う。



「みんな?」



 首をかしげる健吾に、かえでは笑いながら答える。



「エヴェンス王国、オルバン王国、ノルズ王国、ロードラント王国……それに、クラウリー王国からも。みんな、健吾といっしょに帝国と戦いたいって。このルートンを目指して集まってるわ」



 その、言葉を聞いて。



「そうか……なあ、かえで」


「なによ」


「オレは幸せもんだな……こんな好き勝手やる馬鹿野郎つかまえてよ、いっしょに馬鹿をやろうって言ってくれる奴らが、たくさんいるなんてよ」



 かたわらでミリアが「わたしも! わたしものじゃです!」と声なき声で主張しているのはともかく。



「そうね。みんなでいっしょに馬鹿やって……帝国をぶっ倒してやりましょう。ねえ、健吾」



 ベッドに身を横たえながら、拳を突き出してくるかえでに。



「おう」



 と、健吾は拳を合わせた。






◆ぼくの考えたかっこいい武装使い(アームズマスター)


ナンバー16


名前:ポルポル

武装:甲冑の武装“銀騎士シルバーチェイン

備考:帝国の元将軍。トレント王国で、槍の王の配下にあったが、ごく早期に結社との関与を疑われ、投獄。その後バナナで自殺しそうになりつつ、十年におよぶ獄中生活を送っていた。牢獄自体は貴族用でそれなりに快適だったらしい。十年たってやっと解放されたと思ったら、周りは敵だらけで、チャチなもんじゃあ断じてねえもっと恐ろしいものの片鱗を味わった。「あ…ありのまま今起こった事を話すぜ!」




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