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武侠鉄塊!クロスアームズ  作者: 寛喜堂秀介
第六章 鉄腕進撃
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第三十五話 誓い


 ロードラント首都ローザリア、宝玉宮。

 その一角に、座敷わらしのように居ついている天掛美鳥あまがけみとりは、ベッドに寝転びながら、ウサギのような無の表情でほけーっとしている。



「健吾にぃと長門さんが居ないからー、毎日が日曜日ー」



 微妙に節などつけつつ、無の表情のまま口ずさむ怠惰少女。



「休みじゃないのじゃです。美鳥さん」



 そこに、ミリアが扉を開けて入ってきた。

 銀髪碧眼の幼い少女は、美鳥の様子を見て、無表情のままため息をつく。



「美鳥さんは、飛行機で、トレント王国に攻め入った健吾さんたちと情報の交換をするって大事な仕事があるんですから」


「あしたからがんばるー」


「美鳥さん……働かなきゃご飯作りませんよ?」



 半眼でミリアが言うと、美鳥は非難がましい目を向ける。



「そんな目してもダメです。働かざる者食わすべからずです」


「うにゃー! ミリアちゃんのいじわるー!」



 起き上がると、ゆらゆらと部屋を出て行った美鳥を見送りながら、ミリアはため息をついた。



「まったく、困った人なのじゃです」



 北伐を始めたロードラント解放軍の状況。

 トレント国境線の状況。南のクラウリーでも、帝国残党と解放都市との間に大規模な軍事行動のきざしが見えている。


 それゆえ、天掛美鳥が首都ローザリアに残されたのだ。

 彼女の“紫電改シデンカイ”なら、周囲の状況を探りながら、ついでにかえでと無線通信で情報交換できる。


 お目付に残され、健吾と別れることになったミリアは、ちょっぴり不機嫌だった。







 トレント王国。

 かつて存在した北方の蛮族たちとの同化政策の末、一大勢力を築いた強国。草原と騎馬の国。

 大陸横路たいりくおうろをつき進み、国境の砦をぶち破った王城健吾と長門かえでは、帝国領トレントに入った。


 広がる草原を横目に見ながら、健吾とかえでは大陸横路をひた走る。



「ひゃっはーっ! こりゃいいぜっ!」


「ちょ、健吾くん――じゃなかった、健吾、待ちなさいよっ!」



 車輪の王イールの“絶影鉄輪クレイジーホイール”を片足に装着し、高速で走る健吾を、かえでは鹿毛かげ駿馬しゅんめを走らせ必死で追う。

 途中、いくつかの村を横目に見ながら、健吾はふと首をかしげた。



「妙だな。帝国野郎が居やがらねェ」


「たまたま見回りに来てなかった……ってわけでもなさそうね。大方、こっちの進撃に備えて、兵を都市に集めてるってところじゃないかしら?」



 言い合いながら、なお進み、二人は国境近くの都市ウッドストックにたどり着いた。


 街はしん、と静まり返っていた。

 目抜き通りを行き交う人の姿もない。

 街中のだれもが、息をひそめているような、そんな異様な雰囲気。



 ――いや。



 かすかに。ほんのわずかに、血の匂いを感じる。

 通りが広場に行きあたった場所で、健吾は行き足を止めた。



「健吾、どうし――」



 遅れて馬を止めたかえでも、その事実に気づいたのだろう。絶句した。


 二人が見る先には、なにも無かった。

 人通りのない広場の中央に、舞台があるだけだ。

 だが、無人の舞台からは、かすかだが、真新しい血の臭いがする。


 健吾は舌打ちした。

 ここで、つい最近、人が殺された。それも、かなりの人数。



「――殺されたのはトレント人の武装使いアームズマスターですよ」



 ふいに、いずこからか声がかけられた。



「誰だ」



 健吾の問いに答えるように、声の主は通りの影より姿を現した。

 ひょうひょう、といった風情の、三十がらみの無精ひげの男だった。

 あわてて整えたような、半分ぼさついたこげ茶色の髪に、着古した上下の衣。ぎょろりとした目には、どこかあどけなさが感じられる。



「失礼しました。手前ウッドストックの住人でウィストンでございます」


「そうかよ。で、ここでなにがあった?」



 健吾は男の自己紹介を聞き流しながら、問いただす。

 問答無用の雰囲気を察したのか、男は苦笑しながら説明を始めた。



「“槍の王”ランスの野郎の命令ですよ。南方からいずれ鉄塊の王が攻めてくるってんで、加勢して帝国の敵にまわりそうなトレント人の武装使いアームズマスターを、先手を打って殺しちまった、って次第です」



 ぎり、と拳を握りしめる健吾にかわって、長門かえでが尋ねる。



「帝国兵は? 街中、静まりかえってるのはなぜなの?」


「帝国のやつらは、処刑後街から退きました。この街に関しては……いつものことですよ。鉄塊の王が来るってんで、巻き込まれたくないから引きこもってるんでしょう――恐れてるんですよ。槍の王を」



 不甲斐ない同胞に対してだろう。苦いものを噛みしめるような表情。



「恐れてる?」


「王として無能で、また猜疑心の強い槍の王は、帝国人、トレント人問わず、疑いあらば殺し続けてきた。十年に渡る恐怖支配は、敵愾心以上に、槍の王への恐怖を植え付けてしまったんですよ。だから、貴方が来ても、この場に居もしない槍の王を恐れ、難が及んではたまらないと隠れてるんですよ――鉄塊の王」



 承知していたのだろう。ウィストンはさりげなく健吾の素性を言い当てた。


 しん、と静まった街中を、健吾は見回す。

 この静寂が、そのまま槍の王への恐れなのだろう。



「王城健吾だ。お前はなんで出てきたんだ?」


「いや、お恥ずかしい話ですが……野心ゆえです」


「野心?」


「ええ。旧王国時代、武装の才なく、また身分卑しい手前には、出世など望めなかった。だが、手前には才がある。この国の大臣だって務まると信じている」



 だから、鉄塊の王に協力して、この国トレントの政治を回す地位につきたい。

 目を輝かせながら、ウィストンは己の野心を語った。



「帝国に取り入ろうとは思わなかったの?」



 かえでが横から尋ねると、ウィストンは、ひょうひょうと答える。



「力こそ正義の帝国流にゃ、とてもじゃないが馴染めませんし、それに」


「それに?」


「手前はトレント人だ。帝国人にゃ尻尾を振れません」



 その言いようが気に入った健吾は、獣のごとき笑顔を浮かべて言った。



「この国を助けてェ。手伝ってくれるか?」


「もちろんで。すでに街の有志は集めております」



 言葉とともに、三々五々と、人が集まってきた。

 武装使いアームズマスターは居ない。頭数も、20に満たない。だが、誰もが燃える闘志を瞳に宿している。



「――おじちゃん?」



 と、集まる人に混じって来た子供が、野獣めいた健吾に目をやりながら、ウィストンに声をかけた。



「坊主。このお方が鉄塊の王だ。この国を助けに来てくれたんだぞ」


「この国を、たすけに?」



 だが。曇る瞳で、幼い子供は健吾に問うた。



「……なんで、もっとはやく……お父さんが殺される前に、来てくれなかったの!?」


「おい、坊主! ――すみません。こいつ、親が処刑されたとこで」


「いいさ」



 あわてて弁解しようとするウィストンを制して、王城健吾はかがみこみ、子供と同じ視線で声をかける。



「ガキンチョ。すまねェな。オレは間に合わなかった。お前の父ちゃんを助けてやれなかった」



 目尻から涙をにじませ始めた子供に、健吾は真摯しんしに声をかける。



「――でも、今からは。お前の周りの人間を一人だって殺させやしねェよ」



 苛烈な怒りを押し殺しながら。

 王城健吾は力強く、子供の両肩に手をかけ、誓った。

 ウィストンとその仲間たちが、健吾に対し無言で感謝の意を示した。







 そうして、健吾の進撃は続く。

 同様に、武装使いアームズマスターを血祭りにあげられ、帝国兵の居なくなった都市との交渉を、ウィストンたちに任せながら、大陸横路をつき進む。


 そして、健吾たちはヴァ―プール砦にたどり着いた。

 大陸横路が西に向けて大きく屈曲する場所に存在するこの砦は、大陸往路と首都ルートンに向かう街道を抑える、トレント屈指の重要拠点だ。



「妙ね」



 馬の足を止め、砦を眼前にしながら、長門かえでがつぶやいた。



「――ここまで帝国側の目立った抵抗がない。“槍の王”はなにをしてるのかしら」


「臭うなぁ……ぷんぷん臭うぜ。なにかを狙ってやがる臭いだ」


「そうね。恐らくは、あのヴァ―プール砦こそ、こっちを食い破ろうっていう敵の牙じゃないかしら?」


「なら、答えは簡単だ」



 王城健吾は不敵に笑う。

 健吾とかえで、二人の万夫不当は、眼前の砦を目指し、駆けだす。



「おおおっ! ぶち破れえっ!」



 吼えながら、王城健吾は拳を突き出す。

 機械腕の武装、“鉄機甲腕クロスアームズ”が、砦の城門を――微塵に打ち壊した。



「て、て、鉄塊の王だーっ!?」



 城門を粉砕され、城壁のなかに入り込んだ健吾の姿に、砦を守っていた帝国兵達が悲鳴をあげた。

 この国ではじめて見る、憎むべき帝国兵の姿だ。王城健吾は口の端をつり上げる。



「よう、帝国野郎ども。ご存じの通り王城健吾だ! ぶっ潰しに来てやったぜよろしく!」


「うわあああっ!」



 悲鳴とともに、武装の気配をまとう鉄の矢が、ナイフが、投げ槍が健吾を襲う。

 だが。



「――オレの体にゃ届かねェよ」



 鉄の巨腕を交差させ、すべての攻撃を健吾は防ぐ。

 にやりと笑う野獣の表情に、帝国兵たちは悲鳴をあげながら後じさる。


 彼らが逃げ込む建物の入り口に、一人立つ男の姿がある。

 年のころは四十過ぎ。白髪交じりの紫檀したん色の髪に、口ひげ。

 鋼の巨躯きょくを白く染められた皮鎧で覆い、どしりと構える古つわもの。



「テメェは強ェな」


「……トレント副王ハルマン」



 健吾の言葉に、男が名乗りを以って応じた。



「へえ? 副王さまのお出ましか。短いつき合いだが――よろしくなぁっ!!」



 王城健吾は挨拶がわりとばかり、“鉄機甲腕クロスアームズ”を繰り出す。

 だが、それよりも早く、ハルマンは身をひるがえした。



「――いや、御免こうむる」



 砦の奥へ消えていく副王ハルマン。

 虚をつかれた健吾は目を見開いて。



「てェんめえええっ!」



 激昂し、追いかけようとした健吾を、長門かえでが肩を掴んで止めた。



「健吾、待って……待ち伏せよ」


「だからどうした? かえでも見ただろ? ここに来るまでのことをよ。エヴェンスも酷かったけどよ、ここほどじゃなかったぜ? 心ごと反抗心ぶち折ってよ、遅かったって。親はもう死んだって涙ぐむガキンチョども量産してよぉ……ブチ切れてんだよ。オレは!」



 声を荒げる健吾に対し、長門かえでは不敵に笑う。



「だったら、相手につき合うことなんてないわ。ぶっ潰してやりましょう――あたしたちのやり方でね……にひ」



 かえでの言葉。

 その意図を察して、健吾は獣の笑みを浮かべた。



「……そうだな。そうだよな! こんな砦、ぶっ潰しちまってもかまわねェよな――おおおっ! “鉄機甲腕クロスアームズ”!!」


「その通り。この国のみんなに見せてやりましょう? 帝国支配の象徴が、ぶっ潰れるありさまを! ――“超弩級戦艦スーパードレッドノート”!!」



 耳をろうするような轟音が、断続的に響いた。

 王城健吾の武装、“鉄機甲腕クロスアームズ”による、鉄拳粉砕。

 長門かえでの武装、“超弩級戦艦スーパードレッドノート”による空想砲撃。


 破壊の嵐が荒れ狂い、巻き起こる轟音が砦からの魂消たまぎるような断末魔をかき消していく。


 そして、砦がその形を大きく崩し始めた時。



 ――地が揺れた。



「なんだ?」


「健吾、防御をっ!」



 ほとんど同時に、大地にぽっかりと穴があいた。

 城壁が崩れる。天より降る瓦礫がれきの雨を、空想状態の武装で防御しながら、王城健吾と長門かえでの姿は、砦とともに、深淵に吸い込まれていった。







「っだーっ!!」



 吼えながら、王城健吾は瓦礫を跳ねのけた。

 周囲は闇だ。音の跳ね返りが近く、天井は低いようだ。



 ――洞窟かナンかに落ちたってとこか?



「おい、大丈夫か? かえで」


「大丈夫よ」



 声をかけると、すこし離れた所から声がして、ふいに辺りが光で満ちた。



まぶしっ!?」


「戦艦の探照灯サーチライトよ。具現化してないから光量は落ちてるけど、あたりを照らす用途ならちょうどいいわね」



 天井は、やはり低い。

 高さは2メートル少々。

 健吾の“鉄機甲腕クロスアームズ”を振りまわすには狭い空間だ。


 天然の洞窟ではない。

 明らかに掘削した形跡がある。

 つまり、この巨大な落とし穴のごとき存在は、帝国の用意した罠だということだ。



「ここは」


「……それがしは臆病ものでな。いつ結社が決起しても対応できるよう、準備は常にしている」



 屈曲した虚ろの向こうから、声が聞こえてきた。



「この砦の、自壊する仕掛けも、そのひとつだ」


「テメェは」



 音もなく、声の主が姿を現した。

 黒髪茶瞳、神経質そうに朱柄の棒を揺らす壮年の男。



「“槍の王”ランス」



 男は名乗る。低く身構えながら。



「それがしを破滅に導く結社の主、鉄塊の王、貴様の命を――頂戴する」



 金属質の異音。

 直後、長門かえでの脇腹を、背後から黒い刃が貫いた。




◆ぼくの考えたかっこいい武装使い(アームズマスター)


ナンバー14


名前:スティーブ

武装:丸匙の武装“穴掘埋装グランドスコップ

備考:帝国領トレントの武将。副王ハルマンに仕え、“槍の王”の命令で国内各地に穴を掘りまくった。趣味は穴掘り。土を使った構造物や塹壕を掘るのが得意。たった一人で砦を作れる、通称ミスターマインクラフト。幼いころの体験で特殊性癖おとこのこに目覚めた。天敵はダンジョー。頑張って作った土の建物をよく「気に入らねえ」と爆破されていた。

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