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武侠鉄塊!クロスアームズ  作者: 寛喜堂秀介
第四章 鉄腕疾駆
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第二十六話 紫電改



「オウジョウケンゴって人を倒しにー」



 そう言った黒髪の少女に、即座に反応したのはミリアだった。

 魔女シスより受け継いだ“魔法の杖スタッフ・オブ・マジック”を具現化させると、少女に向けてひたりと据えた。



「敵ですね」



 目がわっている。杖先が赫灼かくしゃくたる光を放っている。

 大陸最大規模の火山群、火竜山脈のあぎと火焔山かえんざん。溶岩たたえるその火口に空間を接続し、飛ばす“杖の王”の奥義のひとつ、“溶岩弾”だ。


 それが、敵めがけて打ち出される、直前。

 長門かえでが、手でそれを制した。



「……かえでさん?」


「ちょっと待ってね――あなた、なんで健吾くんを倒したいの?」


「賞金! 倒したらお金いっぱいもらえるから!」



 かえでの問いに、少女は満面の笑顔で返す。

 あんまりな答えに、かえでのこめかみに青筋が浮かんだ。



「あ? なに、あんた、そんなことで健吾くん殺そうっての? 本気?」


「そだよ? なんか変?」



 少女は邪気のない顔で首をかしげる。

 二人目、ということは、間違いなく日本人のはずだ。

 それも中学生程度の少女。それが、なんのためらいもなく人を殺すと言う。

 そのことに、うそ寒いものを感じながら、長門かえでは眼前の少女をひたと見据える。



「じゃあさ、天掛さん? ちょっと提案があるんだけど」


「なにー?」


「あたしたちの仲間にならない? お金くらい、いくらでも出してあげるから」



 部下の豪商ギルダーが、である。



「やだ。めんどくさいもん」


「あんたね……ふん。なかなか自信家みたいだけど、あなたの武装で健吾くんに勝てるかしら? いや、健吾くんだけじゃない。あたしに勝てる?」



 かえでの挑発まじりの言葉に。

 天掛美鳥あまがけみとりは挑戦的な笑みを返した。



「じゃあ勝負する? 勝ったら……じゃあお金ちょうだい? いっぱい!」


「上等! こっちが勝ったら仲間にして使い倒してあげるからねっ!」



 言いながら、長門かえでは武装をまとう。

 不沈戦艦、“超弩級戦艦(スーパードレッドノート)”。その主砲部を含む一部が、少女を守るように包み込む。


 対する天掛美鳥からも、濃い武装の気配が放出される。

 不敵な笑顔を浮かべながら、少女はつぶやくように言った。



「勝てる? ぼくに?」



 言葉と同時。

 少女の体が浮き上がる。


 武装の力だ。

 実体化させていないが、長門かえでには、その正体の予想はつく。


 つぎの瞬間、天掛美鳥の体が天高く舞い上がった。



 ――やっぱり、戦闘機の武装!



 戦闘機。それもレシプロ機だ。

 幻音から、長門かえではそう判断した。



 ――ジェット戦闘機、戦闘ヘリ、複数ある飛行系武装から、レシプロ機を選んだ理由。想像がつくわ。



 長門かえでは不敵に笑う。



「発着場のないこの世界では、ジェット戦闘機の運用は困難。それに出力が大きすぎる。戦闘ヘリなら垂直離陸、ホバリングなど自在だけど、速度が不足。

 なによりも問題なのは、脳内に設計図を描けないこと。“一人目”……鉄轍也くろがねてつやくん、だったかしら? 彼の知識にも、現代兵器の設計図は無かった……レシプロ機、それも、離着陸の困難を“空想”の変則展開で補う曲芸的な運用。たしかに発想は面白いけれどっ!」



 叫びながら、長門かえでは周囲すべてに己の“空想”を展開する。



「――全砲門、展開。顕現率、下方修正。照準、上空の人型一機……」



 ――見てなさい。あなたが武装を具現化した瞬間、ハリネズミにしてあげるわ!



 殺してしまわないため、わざと顕現率を落としながら、長門かえでは敵の出方を待つ。

 だが、天掛美鳥は2、300メートルほど上空を旋回するのみ。



「どうしたの? 来ないのー?」


「あなたこそ、武装を具現化しなさい!! 死にたいの!?」



 挑発めいた少女の言葉に、かえでが叫び返す。

 だが、かえでの言葉に少女が返したのは、不敵な笑み。



「なんで? そんなの小回り利かないし――弱いじゃん」



 言うや、少女の体が沈んだ。

 自然落下を越える速度で、一直線に、少女はかえでめがけて突っ込んでくる。



「こんのーっ! 死んでも知らないわよ! 全門一斉射撃っ! てーっ!!」



 長門かえでの周囲から放たれる、冒涜ぼうとく的な破壊圧。


 その、幻の弾丸の嵐を。衝撃の波を。

 見えるかのごとく、泳ぐように、天掛美鳥はかわしていく。



「当ったれー!」



 断続的な機銃の発射音。

 それを、かえでは避けすらしない。



「具現化すらしてない機銃なんて、喰らうもんですかっ!!」



超弩級戦艦(スーパードレッドノート)”の装甲だけで、幻の機銃掃射を跳ね返す。



「ミリア! 危ないから退がってて!」


「危ない? 誰がー?」



 たとん・・・、と、軽い音。

 にこりと笑いながら、天掛美鳥は立っていた。

 かえでの“空想”した戦艦。その幻めいた装甲の上に。

 少女が指差すその先は、多数の部位パーツを並列展開したため生じた――防御の隙!



「跳弾で、詰みっ!」


「さ・せ・る・かぁっ!!」



 天掛美鳥の機銃の発射。

 長門かえでの装甲再構築。

 その、いずれよりも早く。



 ――轟。



 飛来した巨大な腕が、天掛美鳥を掴みとった。

 圧倒的な質量を持つ鉄の巨腕。こんな武装の使い手など、一人しかいない。



「健吾くんっ!」「ケンゴさん!」



 長門かえでの、そしてミリアの視線の先。

 宝玉宮の正門ちかくに、王城健吾は立っていた。

 展開するは機械腕の武装“鉄機甲腕(クロスアームズ)”。鉄の巨腕を伸ばしながら、健吾は獣じみた笑みを浮かべている。



「よう。帰って早々、誰だか知んねェけどよ……かえでを殺すってんなら、オレの敵だぜ」



 ロードラントの解放諸都市を守るため、奔走ほんそうしていたはずの王城健吾は、なんの違和感もなく、そこに居た。







 王城健吾。長門かえで。

 ふたりは顔を見合わせて、おたがい口の端をほころばせる。



「健吾くん。首尾は?」


「上々だ。留守をこそこそ狙って来やがった帝国野郎どもは、二度とそんな気が起きねェくらいぶっ潰してやったぜ」


「そう。あたしたちが心配で帰ってきた、なんて言ったら、とっちめてやるつもりだったけど」


「バーカ。かえで、テメェが居るのに心配するかよ。もっとも、さっきはヤバかったみてェだけどな?」


「あたしの防御は間に合ってたわよ。でも、ありがと。助かったわ。相棒……にひ」



 たがいに歩み寄りながら、くつくつと笑いあう。



「ぶー、ずるっこー。はなせー」



 鉄の巨腕に捕われたまま、少女は頬を膨らませて抗議している。

 そんな彼女を離してやりながら、王城健吾はにやりと笑う。



「代わってやろうか?」


「そうね。あたしの武装じゃ相性悪いみたい。任せるわ。あなたと、あなたの武装クロスアームズに」



 ぱぁん、と勢いよく、たがいの手を打ち鳴らす。

 選手交代。くるりと振り返った長門かえでが、不敵な笑みを浮かべながら天掛美鳥に告げる。



「選手交代よ。条件は同じ。健吾くんに勝てたら、お金なんていくらでもあげるわ……にひ、勝てたら、ね」



 不敵に笑う長門かえで。あわてて彼女に駆けよる銀髪の幼い少女、ミリア。

 そしてかわりに歩み寄ってくる野獣のごとき男に、天掛美鳥は毒のない視線を向けた。



「ケンゴ……きみがオウジョウケンゴ?」



 その、ぞんざいな問いに、王城健吾はにやりと笑う。



「ああ。テメェがどこのどなた様かは知らねェけどよ。はばかりながら王城健吾、相棒の敵を倒すのに、手加減はねェぜ!」


「ふふっ。じゃあ、捕まえてみる? ぼくの――“紫電改シデンカイ”をっ!」



 挑発的に微笑みながら、空を駆けあがる天掛美鳥。

 宙を自在に舞う少女に、王城健吾は野獣の笑みを崩さない。



「“届け”! オレの“鉄機甲腕クロスアームズ”!」



 健吾が雄叫ぶ。

 大小二対の鉄の腕が、天に掲げられる。

 健吾が身につけた鉄腕と同期した、鉄の巨腕がうなりをあげて宙に舞い上がった。



「うわ、ちょっとこれ反則ー!?」



 避ける暇もない。天掛美鳥は、鉄の巨腕にはたき落とされ、さらには空中でふたたび捕獲された。



「――勝負あったな、ガキ」



 健吾は宣言する。

 それに反発するように、少女は巨大な鉄の手から逃れようともがく。



「やだやだやだお金欲しい楽したいおいしいもの食べたいー!」



 駄々っ子のような少女の様子に、健吾はあきれて頬をかく。



「これ、どうしたもんだろうな」


「いや、あたしに聞かれても……ホントどうしましょう。スパッとやっちゃうってのも後味が悪いし」



 健吾とかえでが困ったように顔を見合わせる。

 そこに。



「いい手がありますのじゃです」



 ぽむ、と、ミリアが手を打った。







 宝玉宮の一室、健吾の部屋。

 大理石の机の上に、翠玉のごとき質感を持つ青磁の皿や鉢が所せましと並ぶ。


 盛られているのは、戦時ゆえ、さして贅沢なものではない。

 猪肉と端切れ野菜を煮込んだものや、牛骨と、少量の魚骨を割り入れた野菜スープ。

 だが、最適量に加えられた香辛料が、それらを魔法のように美味に仕立て上げている。

 ハムだけは上等なもので、それを分厚く切って、表面で油がはじけるくらい火であぶったもの。

 チーズにも火が通してあり、小さめにカットされ、盛りつけられた塊は、皿の上でとろりと溶けている。



「なにこれー! 超おいしー! 超おいしー!」



 貧困な語彙ごいを精いっぱい使って感動を表現する少女に、ミリアは得意げに胸を張った。



「なるほど、胃袋を攻める、か。わかっててもあたしじゃ無理ね」



 相伴にあずかりながら、長門かえではしみじみとつぶやいた。


 怠惰で快楽主義的な少女だからこそ、胃袋さえつかめば、言うことを聞かせられる。

 そうは言っても、かえでの料理の腕は、好意的に見ても十人並みといったところだ。真似は出来ない。


 もっとも、かえでにも奥の手はある。



「にひ。天掛さん、これ、飲んでみて?」



 いたずらっぽい笑みを浮かべながら、少女はコップを差し出した。

 ミリアが調理している間に、厨房で仕入れた材料でこっそり作っていたものだ。



「なにこれ――えっ!?」



 美鳥の目が見開かれた。

 磨き上げられた銀のコップの中では、気泡を弾けさせる、透明感のある淡黄色の液体。



「――ひょっとして……炭酸?」


「そう。あたしの戦艦特製レモネード。消火装置に炭酸ガスが使われてるから、流用して作れるのよ」


「わーい! 炭酸だ炭酸だー!」


「へえ。懐かしいな! うめェっ!」



 と、現代人には好評だが、このレモネード、ミリアには「舌が痛いです」と不評だった。


 ともあれ、ミリアたちの歓待の結果。

 胃袋をがっつりつかまれた天掛美鳥は、胸を地面にこすりつける勢いで健吾たちに土下座した。



「なんでも言うこと聞きますから部下にしてくださいでもふだんはなるべく寝させてください」



 なんというか、ダメな感じの屈服宣言である。



「これ、どうしたもんかしら?」



 長門かえでは頭を抱えた。

 なにせ有能ではあるが、やる気が決定的に足りていない。

 どう扱ったものか、今から頭が痛い。


 健吾のほうは気軽なものである。

 というか、健吾は基本的に幼い少年少女には甘い。



「ま、いいんじゃねえか? 美鳥っつったか? オレが預かってやるよ」


「やったーおにいさん大好きー!」



 気軽に応じた健吾に、喜び抱きつく少女。

 ミリアと、そしてかえでのこめかみに、青筋が浮いた。







 ここに、三人の日本人がそろった。

 だが、魔女シスを助けるまで、王城健吾は歩みを止めるつもりはない。


 そして大陸の情勢もまた、健吾たちに休息を許さない。

 首都ローザリアを侵さんとする脅威は、すでに南方に生じていた。





◆登場人物

天掛美鳥あまがけみとり……ゆるふわ享楽系女子中学生


【武装データ】


武装:戦闘機の武装“紫電改シデンカイ

使い手:天掛美鳥

特化概念:なし(戦闘機の完全再現)

鉄量:S

威力:SS

備考:世界で唯一、飛行可能な武装。速度、威力ともに規格外。

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