表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
武侠鉄塊!クロスアームズ  作者: 寛喜堂秀介
第三章 鉄塊鍛造
15/55

第十四話 鍛造

◆これまでのあらすじ

銀髪の少女ミリアを助けたことがきっかけで、帝国と戦うことになった健吾は、居並ぶ強敵を次々と倒していく。その後湾岸都市タッドリーで同じ日本人、長門かえでを仲間にした健吾は南の大国オルバンに攻め込んで“鎧の王”メルヴを打倒し、恩人である魔女シスをついに助けた。

 鎧の王の死、そして帝国領オルバン陥落の報は、電撃のごとく大陸を駆けまわった。


 最も驚いたのは、帝国の首脳部、ではない。

 大陸東部。エヴェンス王国解放軍の首脳陣だ。

 長である王城健吾を補佐しているアウラスと、解放軍中核三都市の代表たちは、途方に暮れた。


 そもそも王城健吾たちがいきなりオルバンに攻め込んだ、という情報自体が寝耳に水。

 そのうえ鎧の王を破り、首都ボルソンを陥落せしめ、あげくにオルバン王国全土を解放。それが数日のうちの出来事なのだ。


 つい先だっては湾岸都市タッドリーで湾岸諸都市の開放を手伝っていたかと思えばこれである。速すぎて、物理的にはもちろん、心の準備すら追いつかない。


 だが、とりあえず。

 現状が非常にまずいということは、四人とも理解している。


 なにしろ王城健吾は解放軍の長だ。

 そんな彼が、万一オルバンの王座に就いてしまっては、エヴェンス国内の政情が非常にややこしくなる。


 他国の王を主として戴く。

 たとえ実情は違うとしても、この否定しようのない事実は、民衆や解放軍指導者の反感を買わずにはいられないのだ。



「いずれにせよ、ケンゴ殿の元に早馬を。ケンゴ殿のことです。自ら王の座を望みはしはないと思いますが、万一そうなるとすれば、先にエヴェンス王になっていただくかなくては、国内に不穏を残すことになります」



 アウラスにも、破天荒な健吾の考えは、いまいち理解しきれていない。

 自らが駆けていって心情を尋ねたい気持ちを抑えながら、壮年の優男は部下に命じた。







 オルバン王国首都ボルソン、風の宮殿。

 アウラスたちが右往左往しているころ、王城健吾はいまだこの宮殿に居た。

 まるごと健吾に従うことになったオルバンの政情。その実態を把握するのに手間取っているのだ。長門かえでが。



「おい、おやっさんとかミリアが心配だし、一旦戻っていいか?」


「かわりに、その“おやっさん”って人連れて来て、マジお願い。なんでその人、解放軍ばっちり制御して解放地政策も問題なくこなしちゃってんの? 化物?」



 上がってくる情報を半泣きで精査しながら、かえでは答えた。


 健吾に出来ることはない。

 やっても邪魔になるだけだとも言う。

 とりあえず、将軍たちを脅して国内での無駄な徴発を止めさせた後は、かえでの好意に甘えて鎧の王との戦闘でガタガタになった体を癒している。


 休めと言ったのはかえで自身だが、そのことに関して、彼女は本気で後悔し始めていた。

 二人に助けられた魔女シスが、「妾を助けるために負った傷なのじゃし」と介抱を引き受けており、健吾は健吾でけっこううれしそうなものだから、厄介事を丸投げされている形のかえでは、余計に納得いかない。



「まあ、いいんだけど……なんだかなー。なんだかよねー……恋、とか? でも魔女さんトシだし」



 執務室で書類に筆を走らせながら、かえでは失礼なことをつぶやく。

 つぶやきながら、色気のある場面を想像してしまい、思わず筆先を滑らせてしまった。



「あっちゃぁ……はぁ。我ながら何やってんだか。健吾くんと魔女さんで変な妄想しちゃうなんて。不謹慎不謹慎」



 ひとりごとをつぶやいていると、鎧姿の武人たちが、勢いよく扉を開けて執務室に駆けこんで来た。



「奥方様!」


「我等オルバン王国十三将軍(欠員八名)!」


「新たなご報告に参りました!」



 ああこいつらのせいか、とため息をついて、かえでは報告を受ける。

 彼らがかえでを王城健吾の女あつかいするから、変に意識してしまうのだ。







 さて、かえでの妄想ほどには、健吾と魔女シスは色気のある話をしているわけではない。

 ベッドに横になった健吾は、魔女と別れてから、今に至るまでの経緯を、かたわらに座る魔女シスに話していた。


 宵闇の森で修業したこと。

 通りすがりの幼い少女を助けたことがきっかけで、八王と戦うことになったこと。

 それから、なりゆきでエヴェンス王国解放軍の長になったこと。長門かえでと出会ったこと、そして、オルバンに攻め入ったこと。


 一通り話を終えると、年齢不詳の美女は、深いため息をついた。



「しかし、呆れたぞ。よくも鉄塊などで八王と戦ったものじゃ」


「……など、って。そんなに弱ェか?」



 健吾は納得がいかない。

 不格好でも、これまで数々の強敵を葬ってきた武装なのだ。

 だが、ローブ姿の魔女は、紫の瞳をまっすぐ健吾に向けながら、「弱い」と断言した。



「概念を持たず、鍛えることもしない。ただ具現化しただけの“空想鉄塊”。これは原始の武装じゃ。そこから――鉄塊を武器に鍛え上げ始めてから、人の、人としての歴史が始まったと言ってよい」



 魔女シスは続ける。



「鉄塊と武装がぶつかれば、武装が必ず勝つ。その結果が覆ったのは、ひとえにお主が持つ圧倒的な鉄量のおかげでしかない……しかし、健吾よ。お主、どうして鉄塊を武装に選んだのじゃ?」



 わからない、と言うように、魔女シスが首を傾ける。

 ベッドの健吾を見下ろしながらだったためか、その拍子に長い金髪がフードの中からこぼれ落ち、年齢不詳の美女はうっとうしそうに、見事な金髪をぞんざいにフードの中にしまい込んだ。



「選んだわけじゃねェよ」



 女の仕草に色気を感じたからだろうか。

 魔女シスから視線をそらしながら、健吾は彼女の質問に答える。



「――武装を武器に鍛えるやり方がイマイチわかんなかったんだよ。ま、どの道やってるヒマもなかったけどな」


「ふむ。お主は覚えが悪かったからの。別れる前に一気に渡したので、覚えきれんかったか」



 言いながら、金髪紫眼の美女は、手に持つ鉄杖を健吾に向けた。

 物騒な大きさと重量だが、健吾が恐れる様子はない。



「おっ、ひさしぶりだな。これやると頭がかゆくなるんだよなあ……」


「それはお主の頭の出来が……いや、みなまで言うまい。“繋げる”ぞ。杖の武装“魔法の杖スタッフ・オブ・マジック”よ……」



 魔女シスの声とともに、杖に、鈍い光が宿る。

 鈍く輝く杖が、健吾の額に優しく触れた、瞬間。

 大量の情報が、波となって健吾に押し寄せてきた。



「おっ、来たぜ。おお……なるほどなあ」


「うむ。いま伝えた通りじゃ。武装を鍛え上げるまでには、“想像”“鍛造”“形成”“固定”“具現”の五段階を経ねばならん」



 健吾の脳裏に、その言葉が意味するところが自然と思い浮かぶ。


“想像”とは、武装の材料、“空想鉄塊”を生み出す工程だ。

“鍛造”で空想のハンマーを振い、鉄塊を鍛え、“形成”で望む形に作り上げ、名をつけることで“固定”する。

 こうしてできた“空想”状態の武装を、現実のものとして実体化させるのが“具現”だ。この五工程を経て、武装は完成する。



「しかるに、健吾。お主の鉄塊は“想像”“具現”の二工程のみしか経てはおらん。これでは武装としてあまりにも弱い」



 魔女の言葉に、健吾はふと気づいて言った。



「でも、鎧の王んときに、なんか変わったぜ? ちょっと縮んでで丈夫そうになった。ありゃたぶん“鍛造”ってやつだな」


「うむ? “観”せてみい……なるほど、お主の言う通りじゃ。これは“鍛造”。おそらく鉄塊を、超硬度を誇る鎧の王の武装、“無敵甲冑ジ・アーマー”に何度も打ちつけたことが、図らずしも鍛造の役目を果たしたのじゃろう」


「へェ? ちょっと得した気分だぜ――っ」



 体勢を変えようとして痛みを感じ、健吾は小さくうめく。

 その様子に、年齢不詳の魔女がため息を落とした。



「死にかけたというに、なにを言っておるか。それに、“鍛造”工程を経たとはいえ、まだまだ武装と称するには工程が足りぬのじゃぞ?」


「へいへい、わかってるさ。ま、正直オレもかえでの奴の“超弩級戦艦スーパードレッドノート”とかには憧れるしよ。あれ、ラムネとか作れるし」



 やけに嬉しそうな健吾に、魔女シスが目をすがめる。



「命がかかっとるのじゃから、真面目にやるのじゃぞ。今までは相性が良かった。いや、鎧の王は相性が悪かったが、あくまで奴は防御系の武装じゃった。妾はお主の鉄塊を両断出来る武装使いアームズマスターを、少なくとも二人は知っておる」


「やけに親切だな? 魔女さん、あんた帝国側っぽいのに、なんでだ?」



 首を傾げる健吾に、彼女は心底疲れたように、ため息をついた。



「もう手遅れだと思い知らされたわ。少なくとも、妾の望む形での帝国存続は叶わぬ。この上は、お主らに協力できるだけ協力して、その功で、せめて皇家の血統が絶えぬよう、主らに慈悲を乞うまでじゃ」



 その、態度に。

 健吾は切実なものを感じ、疑問を口にした。



「魔女さん。なんでそんなに帝国にこだわってんだ?」


「……話した方が良いとは思うのじゃが」



 金髪紫眼の魔女は、健吾をじっと見つめて、はあ、とため息をつく。



「――主ではなあ。不用意に漏らして問題を起こさぬか、ちょっと心配じゃ」


「おいおい。オレをナメんなよ。男、王城健吾、他人にしゃべんなと言われれば、金輪際しゃべらねェぜ?」



 ベッドに横になったまま、健吾が胸を張ると、魔女シスは整った顔に微苦笑を浮かべ、健吾の手をとった。



「心配しとるのは信義の部分ではないわ。そっちはとうに信じておるよ。なにせ、お主は命がけで妾を助けに来てくれたのじゃから」


「お、おう。まかせといてくれ!」


「……なにをどもっておるのじゃ?」



 魔女シスはきょとんとして首をかしげた。


 金髪美人である。スタイルも抜群だ。

 そんな彼女に手をとられたのだから、意識しない方がおかしい。

 おかしいのだが、実年齢に反してそっちの部分で未発達にもほどがある彼女は、気づいていないようだった。



「いや、別に。それより、任せときな。魔女さんがピンチになったら、また駆けつけてやるぜ!」


「う、うむ。その……ありがたく思う、ぞ」



 物語に出てくる英雄のような言葉に、今度は魔女シスが照れた。

 そんな二人の様子を見て。



「中・学・生かーっ!!」



 気になって様子を見に来た長門かえでが、全力で突っ込んだ。





【武装データ】

武装:杖の武装“魔法の杖スタッフ・オブ・マジック

使い手:魔女シス

特化概念:“繋げる”

鉄量:A

威力:S+

備考:健吾たちを召喚した、世界の常識を破る規格外の武装。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ