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武侠鉄塊!クロスアームズ  作者: 寛喜堂秀介
第二章 魔女救出
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第九話 魔女


 荷駄が、大路を行き交う。

 街のあちこちで商談を交わす、商人たちの声。

 海と大河の商船が緩やかに行き交い、荷降ろしされる品々も、実に多種多様。

 国内に未曽有みぞうの変事が起こる中、また、その渦中にあるにもかかわらず、交易都市、タッドリーは栄えていた。



「……すごい、です」



 田舎育ちのミリアは、目を白黒させていた。

 首都エアの壮大さ、人の多さも想像を絶するものがあったが、人の密度と熱気、そして活気に関しては、タッドリーのほうが上だ。



「ほっほっほ。この程度、タッドリーでは珍しくもありませんぞ?」



 屋敷に着いても、まだ酔ったような風情のミリアに、ギルダーが得意げに胸を張った。



「そうですね。ギルダーさんの場合、自分が一番珍しい生き物ですからね」


「ですぞっ!?」



 誇らしげな極彩色の雪だるまに、ミリアは容赦がなかった。


 王城健吾が長門かえでを追って駆けていき、また、ふたり並んだその姿が妙に絵になっていた。

 その事実が、少女の心に微妙なトゲを生じさせていたのだが、彼女自身、心のもやもやの原因に気づいていない。


 それから。

 中天にあった日が、西に半ば傾いたころ、二人は帰ってきた。

 そして、挨拶もそこそこに、二人はそろって屋敷の奥へと引っ込んでいった。


 ミリアはちょっとだけ、納得がいかない。







 ミリアがもやもやしているころ、王城健吾と長門かえでは屋敷の一室で、向かい合うようにして座っていた。

 帝国の守将が使っていたという屋敷は、各所に金銀がちりばめられた豪奢ごうしゃな造りで、健吾には少々居心地が悪い。



「じゃあ、あらためて、まずはあたしの話をしましょうか」



 勝気な瞳をまっすぐ健吾に向けながら、長門かえでは口を開いた。

 悠然ゆうぜんと椅子の背もたれに体重を預けながら、両手を机の上で組む美少女は、不敵な笑みを崩さない。



「――健吾、あなたもあの魔女に喚ばれた人間でしょ?」


「ああ」


「で、あなたも魔女に与えられた。“知識”と“武装”を」


「……ああ」



 事務的な確認といった風情のかえでの質問に、健吾はうなずいた。

 二度目の問いに答えたとき、健吾の声には淡い苦みが混じっていた。

 そのことに気づいているのだろうが、黒髪の美少女は構わず言葉を続ける。



「あたしも同じ。気がついたら森の中で、目の前にはあの魔女が居た」



 少女の言葉に、健吾も思い出す。魔女の姿を。

 それがなんらかの感情に結びつく前に、長門かえでが言葉を割りこませた。



「彼女は言った。“皇帝を倒したい。協力してほしい”って」



 言われて健吾は思い出す。魔女の声を。



「――まっぴらだって思った。彼女からの偏った情報だけで、皇帝を悪だと決めつけたくなかった。ちゃんと自分の目で見て、耳で聞いて、ありのままのこの世界を目にしたかった……だから、旅に出た。旅に出て、いくつもの悲劇と、どうしようもないこの国の惨状を見てきた」



 かえでが言った。

 言葉に歪みはない。真実をまっすぐに見つめる真摯な瞳が、そこにあった。



「最初は、大陸統一のひずみによる、一時的なものだと思ってた。これは過渡期に生じる自然現象のようなもので、じきに帝国は安定に向かうって。ゆっくりと、こんな悲劇は終息していくだろうって、なるべく干渉は避けてきた。いま、あたしが手を出せば。簡単に国を滅ぼせるような武装で国を荒らせば、帝国の安定は遠のき、かえって苦しむ人が増えるって、我慢してた」


「……てめえも難しいこと考えやがんなぁ」



 あきれたように、健吾は息をついた。



「そんなに難しく考えるから、世の中難しくなるんじゃねぇか? シンプルでいいんだよ。シンプルで」


「……ある意味才能ね。うらやましいわ……でも、うん。同感。あたしはある程度、世界の歴史を知ってたから、それにこの世界を重ねてたから、神様の目線で世界を見てた。はるか高みから傍観ぼうかんしてた。あたしは今、ここにいるのにね」



 少女は語る。

 その結論に至るまでに、彼女はどれほどの悲劇を目の当たりにしてきたのか。



「――そう気づかされたのは、このタッドリーに流れ着いたとき。つまんない理由で子供が斬り殺されようとしててね。それが、すぐ手に届く距離で……思わず、子供を助けてた。帝国兵を殺してね。あれほど自制してきたのに、自分に言い聞かせてきたのに、ほんと自然に手を出しちゃってた」



 苦笑か、それに類するものを浮かべて。

 長門かえではなお語る。



「――それで、なんか吹っ切れた。いま、ここで、悲劇が起こってる。それを見過ごしに出来るほど、あたしは強くない。そんなことにいまさら気づいて、それで、タッドリーを解放した。守将のエメルを倒して三老会と結んで、ね。そんな時、健吾くんのうわさを聞いて、思ったの。協力できないかって。帝国の力の支配による悲劇から、この国を解放するために」



 少女の瞳は、まっすぐ健吾をとらえて離さない。

 長門かえでの真摯な言葉を受けて、健吾は言った。



「こまけェことはいいさ。シンプルにいこうぜ。帝国野郎をぶっ飛ばす。みんなの笑顔を取り戻す。それさえ出来りゃあ、オレぁ満足なんだ――お前もそうなんだろ? かえで」



 言われて。

 あらためて、手をさしのばされて。

 長門かえでは、にひ、と楽しそうに笑った。



「そうね。あんたのその単純な考え、好きよ。王城健吾」



 険のとれた、ひどく魅力的な笑顔に、健吾も笑顔を返す。こちらは野獣の笑顔だ。


 少女が、さしのばされた健吾の手をとる。

 それから、にひ、と、照れたように笑って、長門かえでは先の展望を語った。


 王城健吾。長門かえで。

 ともに大陸でも隔絶した“武装使いアームズマスター”だ。

 このふたりが協力する限り、旧エヴェンス王国の解放は、もはや未来の事実と言っていい。


 そろそろ、“その先”を見定めて動いていかねばならない。



「だから、今こそ。この大陸の現実を知った今こそ、あの魔女と、しっかり話をするべきだと思うの。帝国の支配が強固だった時に、すでに皇帝を倒すことを目論んでいた彼女と……健吾」


「なんだ?」


「あなたが召喚されたのは、わたしの先? 後?」


「後だと思うぜ。“異世界観光してくるって言って出てった三人目”ってのはアンタだろ?」


「うん……まあ、うん。合ってるんだけど……」



 すごく微妙な顔になる長門かえで。



「でもまあ、あたしの後なら、あなたのほうがあの人の消息に詳しいわよね? 魔女さんはまだ宵闇の森にいるの?」


「いや……」



 健吾は頭を振った。

 そして、自身を見つめるように、虚空に視線を定めながら、長門かえでに伝えた。



「――あの人は……魔女は、連れて行かれた」







「どういうこと? 彼女が、連れ去られた? いつ、誰に?」


「落ちつけよ。説明するからよ」



 思わず席を立った長門かえでを抑えて、健吾は語った。

 王城健吾の体験を。



「――つっても、最初はかえでと変わんねぇよ。いきなりばれて、言葉わかるようにされて、それから、いろいろ情報交換? みてェなことして……まあもう四人目だったからか、ずいぶん日本の事情にくわしいみてェだったが。思い出したら、むちゃくちゃ警戒されてた気がするな。武装のことも、“これを教えるとみんな逃げるから”とか言ってなかなか教えてくれなかったし」



 長門かえでが苦笑を浮かべた。

 完全に彼女たちの責任である。すこしくらいは、健吾の野獣めいた容姿も関係していただろうが、



「――それから、頼まれた。“皇帝を倒してほしい”ってな」


「それで、あなたはなんて答えたの?」


「……答える前に、奴が来た」



 健吾は口元を引き結んだ。

 目元に、怒りの色が強く見える。



「奴?」


「男だ。デカイ図体で、雷みたいな声の、鎧の武装使いアームズマスターだ」



 ぎり、と軋むような音がした。

 健吾が歯を食いしばった音だ。



「あいつは“やっと見つけた”っつって魔女を捕まえようとして、戦いになって……んで連れ去られた。っつーか、まだ武装を使えねェオレの命と引き換えに、自分で鎧の男についてったんだ。“心配するでない”っつってよ。ンで最後に、こっそり武装の知識をくれたんだ」



 それから一週間以上、健吾は宵闇よいやみの森で、武装の修練に明け暮れた。

 そして、無力な自分への怒りにひと段落をつけると、森を出たのだ。鎧の男と魔女、双方に借りを返すために。



「……まいったわね。あの人、肝心な時に居ないなんて」



 話を聞き終えてると、長門かえでは難しげにうなった。



「――その、鎧の武装使いアームズマスター。健吾は心当たり、あるの?」


「ああ」



 健吾はうなずく。

 最初は知らなかった。鎧の武装使いアームズマスターとしか。

 しかし、アウラス――健吾を献身的に補佐する、ミリアの父からの情報で、すでにその正体は判明している。



「オレが倒してェのは。魔女を連れ去ったのは――“鎧の王”。帝国領オルバン王メルヴだ」



 帝国領オルバン。

 エヴェンス王国の南に境を接する国だ。

 エヴェンス東南端に位置するこのタッドリーからは、グロスター川を隔てて至近の距離にある。


 メルヴは、その地を治める八王が一角、“鎧の王”だ。

 帝国領オルバン首都ボルソンから、はるか離れ、国を跨いだ宵闇の森に、彼がなぜ現れ、魔女を連れ去ったのか、それは分からない。



「――だが、とにかくオレは、借りを返さなきゃなんねェんだ。なにがなんでもな!」



 握り拳を震わす健吾。

 その上に、白く、細い手がふわりと添えられた。長門かえでの手だ。



「手伝うわよ――ううん、違うわね」



 少女はかぶりを振ってから、言い直す。



「――あなたが、自分の手でやりたいことの邪魔はしない。だから、手伝わせて」



 その、言葉に。

 王城健吾はしばらくあっけに取られて……ふいに、笑いだした。



「くっくっく。おい、マジかよ。こんな女居るのかよ……オイ、テメェ性別詐称してんじゃねえのか?」


「ちょっと、失礼じゃない!?」


「うれしいんだよ! マジかよ惚れちまうぜこの男前が! へへっ。頼むぜ、相棒!」



 健吾の言葉に、今度は長門かえでが目を見開いて。

 それから、少女はひどく魅力的な微笑をうかべ、返した。



「にひ。こっちこそよろしくね、相棒!」




◆ぼくの考えたかっこいい武装使い(アームズマスター)


ナンバー2


名前:ヴィンセンス

武装:鈴の武装“鈴々響々ティンクル・ティンクル

備考:帝国領ノルズ王国で盾の王ルースに仕えていた武将。鈴の音を響かせ、周囲の状況を探知する武装を使う。人間レーダー。というか乗船武将全員合わせてプチイージス艦。プチじゃ足りなかったよ……

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