ep.5
青々と生い茂る森。
何処からか聞こえる鳥の声。
風により揺れた木の音。
人里からは数十キロはあるだろう森の中に1人の少年が佇んでいた。
神波修二、である。
現在は修二たちが神と分かれ、【アザルド】に来て1分くらいである。
今、修二が何をしているのかといえば、現状確認である。
「…ポーチの中身よし。…武器よし。…腕時計よし。…服は設定がなかったけどちゃんと着ているな」
指差し確認で1つ1つ確認し、問題はなかったようだ。
修二は改めて周りを見渡す。
しかし見えるものといえば、木、木、木、木、木ばかりである。
「…とりあえず安全確保だな。そういえば家に安全性能を付けてもらったがどのくらい安全なんだ?」
疑問を胸に腕時計へと視線を落とす。
すると、腕時計から神の出したものと同じウィンドウが現れた。
『ハウスウォッチの全機能知識を強制インストールしますか? yes / no』
「………ハウスウォッチってのはたぶんこの腕時計のことだよな。
…yesを押せばこの腕時計の機能全てが分かるんだろうが、…強制って響きがなぁ」
強制って文字に嫌な想像をしたようだ。
「まあ、神が作ったやつだし大丈夫だろう」
ポチッ
「…うっ!………うん?……微妙に頭が痛い?」
普通なら頭の中に強制的に知識をぶち込むと、激しい頭痛がするが、そこは神クオリティ。頭痛はするが、それは寝不足からくる頭痛と同じくらいまでに抑えられている。
安心安全設計である。
「…え~と、…うんよくわかった。これがとてつもなく便利で安全であることがよくわかった」
頭の中を整理した修二は、驚愕と呆れの混ざった表情を左手首にある腕時計へと向ける。
「家にはドラゴンのブレスもはじく防御結界があるから、安全なのは確実だな」
ドラゴンはこの世界の生き物の頂点に立つ存在である。*ただし、転生者を除く
「てことはまず、家を建てる場所を探さなきゃか」
そう言い、歩き回ること30分。
よさそうな場所を発見した。
「湖か。広いしちょうどいいな」
修二は湖の岸沿いに広く開けた場所を見つた。
岸から20mは木が生えていない。
「よし、さっそく」
(…家作成)
心の中で念じると、ハウスウォッチ(以降ウォッチ)から細い光が出る。
地形をスキャンしているようだ。
『ここに家を建てますか? yes / no』
yesを押す。
『住居者人数を指定してください』
人数によって家の大きさが変わるのだ。
2桁の人数になると、結構な豪邸になる。…一応調整はできるのだが。
「無駄に広い必要はないから、1人っと」
人数を指定し、建設ボタンを押す。
と、次の瞬間には目の前に、1階建ての一軒家が出現する。
そして、薄い膜が家を覆ったかと思うと、それは見えなくなる。
この時、建設予定地に生物がいる場合、防御結界の外にはじき出される。
「…ほんと、一瞬だな」
出来上がった家を呆然と見上げつぶやく。
「…とりあえず、中を見てみよう」
家に向かってテクテク歩く。
結界を、何もないかのように通り過ぎ、ドアの前に立つ。
そしてそのままドアノブを捻り、ドアを開ける。
「…当たり前のように開けたが、鍵いらずってすごいよな」
そう、この家には鍵が一切使われていない。
玄関のドアには鍵穴はあるが、それはダミーだ。いくらピッキングをしても開くことはない。
住居者以外は決して開けることはできない。
逆に住居者なら鍵がなくとも開けることが出来るのだ。
「おっじゃまっしまーすってのは変か…
おぉ……めっさキレイやん」
あまりの内装のすごさに、修二のキャラが壊れつつある。
家の中は、日本と同じで、玄関で靴を脱ぐ形式だ。
風呂、リビング、トイレ、キッチン、寝室、空き部屋が2つ。
一人暮らしには、少し大きいくらい。
しかし、本番はここからだ。
風呂は魔法を使用し、30秒でお湯を張れる。
大きさは、家を建てる時の人数によるが、今は大人3人が入っても余裕なくらい。
勿論、シャワーはある。
さらに、減らない石鹸、リンス、シャンプー。スポンジにバスタオルも。
リビングはテレビこそないが、冷暖房完備。
ソファのすわり後心地は抜群。
トイレは洋式の水洗。
すごいとこはやはり、トイレットペーパーがなくならない、ことだろう。
これでもう紙を気にすることはないだろう。
キッチンには、例の魔法で水が永遠と出てくる蛇口。
冷蔵庫の中はアイテムポーチと同じ空間になっており、様々な食材が入っている。勿論なくならない。
コンロの下の棚の中には、いろいろな調理器具が。
しかし、それらを無駄にするかのごとく、自動調理機(別名KO)がある。これはその名の通り、自動で高級料理店顔負けの料理を作ってくれる。
寝室にあるベッドの寝心地は、どんな人でも2度寝は確実と言えるほど。
さらに、ベッド自体に目覚まし機能が付いており、数パターンの目覚まし機能を楽しめる。
空き部屋のドアには電子版が付いており、その電子版で用途を指定すると、勝手に部屋の内装を変えてくれる。
掃除の心配は必要ない。
なぜなら外壁を含み、家の全てを魔法で清潔に保つからだ。
家に使われるエネルギーは全て魔力である。
その魔力は、空気中の魔素や太陽光を魔力に変換して得ている。実にエコ。
この家で引きこもってしまうやつを、だれが責められようか。いや責められない。
どうですか皆さん。こんな家に1度は住んでみたいとは思いませんか?
でもお高いんでしょう?
今なら、可愛いペットを付けて、お値段なんと(ry
「…頭ん中がまだ整理しきれていないようだ。
…ん?…ペット?」
修二は頭の中で繰り広げられた会話に疑問を持つ。
すると、タイミングを見計らったかのように「…みゃー」という鳴き声が聞こえてくる。
「…猫か?…どこだ~?」
「おーい」と猫に呼びかけながら家の中を探し回る。
寝室の前に着くと声が大きくなる。
ドアを開け中をぐるっと見渡すが見つからない。
しかしこの部屋の中から聞こえる。
そこでベッドの下を覗く。
「ここかっ」
「…みゃー」
そこには子猫がいた。
両耳の中、尻尾と両手両足の先だけが白い黒猫だ。
修二がベッド下の子猫に手を伸ばすと、逃げることなく手の上に乗る。
修二の掌の1.5倍くらいの大きさだ。
「…こんなところにいたのか。
…?なんだ?紙?」
黒猫の尻尾に文が結び付けられていた。
「動くなよーっと、…なになに?『ボッチの一人暮らしは辛いよ?主に心が。 by神』…うっせぇ!」
読んだ紙を下へ投げつける。
ベットの上にいた黒猫がビクッっと反応する。
「…まあペット1匹くらい全然負担にならんから別にいいが」
そう言いながら黒猫を抱き上げ、頭を撫でる。
黒猫は気持ちよさそうに目を細める。
「お前名前は…あるわけないか。
そしたら…う~ん……
よしっ、今日からお前はクーシーだ」
「…みゃー」
「あ、性別考えないで決めてしまったが、クーシーは雌なのか?」
「…みゃー」
「おぉそうか、てか頭いいな」
修二は暫くクーシーと戯れる。
夕食の時間になり、寝室から出ようとしたとき、さっき投げつけた紙が目に入った。
紙を拾ってみると、裏にも何か書かれていたようだ。
『ステータスと念じると、君のステータスと黒猫のステータスが見れるよ』
「……もっと早く言ってくれよ。いやまあしっかり見なかった俺が悪いんだが…
…ステータスはまた今度で」
修二はため息を吐きながらキッチンへ向かう。
「う~む、そのうち自分でも料理してみたいけど、しばらくは機械任せだな」
そう言い、電子パネルに映る料理選択、必要な食材を冷蔵庫から取り出し、KOにぶち込む。
確認ボタンを押して、ハイしゅーりょー。あとは10分ほど待つだけ。
今夜はオムライスだ。
「あ、…猫って何食べちゃダメなんだ?
…ステータスには書いてなさそうだし、クーシーに聞いても分からんだろうし…
力使ってみるか。もしかしたら個人情報に引っかかるかもしれんが、試してみるか」
自分のごはんはさっさと作り、クーシーのを忘れていたようだ。
しかし何を出していいのかわからないため、力を使い、知るようだ。
「…って言ってもどうしたらいいんだ?
…今までのパターンからして念じるのか?」
(…クーシーは何が食べられないんだ?)
推測を立て、試しに念じてみる。
どうやら正解だったようだ。頭の中に知識が流れ込んでくる。
「ふむ、どうやら知りたいことを念じるといいみたいだな」
ついでに力の使い方もしることができたようだ。
「…クーシーは人が食べるものならなんでも食べるのか。
普通の猫とは違うのだろうか?…まぁそれはともかく、夕飯だな」
急いでクーシーの分も追加する。
数分後、1人と1匹そろって夕飯を食す。
その後は嫌がらないクーシーと一緒に風呂に入って寝た。
こうして、異世界生活第1日目が終了した。
KOは〔機械に、お任せ♪〕の略です。
クーシーは、くろ、しろ、のくとしを繋げただけです。
ネーミングセンスが壊滅的………。