ep.3
ストックが減っていく…
カキカキカキカキカキ…………
修二たち、普人族を選択した二人は、自身が求める力を書いては消し書いては消しを繰り返している。
そんなに書いて消してを繰り返して、紙は大丈夫か?…
大丈夫だ、問題ない。
なぜなら、紙、筆記用具それらは神が作りしものだからだ。
紙には〈摩擦耐性〉〈破壊不可〉〈折り目無効〉が付与されている。
〈摩擦耐性〉は消しゴムでどれだけこすっても、黒くならない、破れない、歪まない。
〈破壊不可〉はそのまま、切ったり、燃やして消し炭にしたりできない。
〈折り目無効〉はどれだけ折っても自然と元に戻る。鶴を折っても、開くとキレイに元通り。
まさにアーティファクトである。
しかし驚くのはまだ早い。
アーティファクトは紙だけではないのだ!
一見ただの鉛筆と消しゴムに見えるこれらも、実はアーティファクトなのである。
鉛筆には〈状態維持〉〈手に付かない〉〈破壊不可〉が、
消しゴムには〈状態維持〉〈効率UP〉〈破壊不可〉が付与されている。
〈状態維持〉は初めの状態を維持する。つまり、どれだけ書いても芯が減らない、どれだけ消しても角が削れない。ちなみに消しゴムは、角のある方の反対側は元から丸くなっている。
〈手に付かない〉は書いた文字が手の横のとこに付いて、黒くなることがない。
〈効率UP〉は簡単にまとめると、すごくよく消える。二擦りぐらいで真っ白。消し過ぎ注意である。
このように、鉛筆と消しゴムも神レベルのアーティファクトなのである。
試験内容よりも道具のほうが気合入っているのは気のせいである。きっと。
(神が言っていたヒントは、なぜ種族別に分かれたのか。何でこれがヒントになるんだ?
………そうか!そういうことか。何故気が付かなかったんだ。
神が言っていたじゃないか。種族別に分かれる理由、それは各種族に合った力を手に入れるため。
つまり、種族の特徴などを生かして考えろということか。)
道具の解説をしていると、修二が神の言ったヒントの意味に気が付いた。
神はそんな修二をニマニマしながら見守っている。
そんな中、悟史が「できたー!」と声を上げる。
「もうできたのかい?なかなか早くにできたね」
「こんなこともあろうかと、前からある程度は考えていたんだ!」
「へぇ~、どれどれ、どんなのを考えたのかな」
神の発言に痛い子宣言で返す悟史。
中二病ではないから許してあげてくれ。
「まず1つ目は、【最強無敵】。効果は、敵の攻撃を受けない。…うん、書くだろうと思ったよ。
続いて2つ目は、【全属性魔法】。効果は、全ての属性魔法を使用することが出来る。
…最後に3つ目は、【賢者】。効果は、…テストで必ず満点を取る。
くくくっ。…ああ、ごめんごめん。こういうのを考えるから君みたいな子は面白いんだ。」
「?」
神は悟史が考えた3つ目の力の、名前と効果のギャップがツボに入ったようだ。
笑いをかみ殺し、満足そうな顔をしている。
悟史には神がなぜそんな顔をしているのか分からなかったようだが。
「先に聞いておこうか。この中で前から考えていたのはどれだい?」
「そんなの決まってるだろ。…【賢者】だよ」
神の、答えは見えているが一応、といった質問に悟史はキメ顔で答える。
同情するくらいの残念オーラが漂っている。
「結論から言おう。残念だけど新しい力は、1つだけだったよ。
3つ目の【賢者】、これがそうだね。
名前が同じものはあるんだけど、同じ効果の物はさすがになかったよ」
「そうかー。1個だけかー、残念」
「3つ全てデメリットが書いてないからこっちで決めさせてもらうね。
前2つは効果がほぼ同じものがあるから、【最強】と【全魔法】に、
【賢者】は名前だけ、【賢き者】に変えてもらうね。効果は変わらないから安心して」
「うん、それでいいよ」
どうやら悟史の力は決まったようだ。
神と悟史の会話が終わるとき、ちょうど修二も力を書き終えたようだ。
「書き終わったぞー」
「はいはい、見せて見せて」
修二に声をかけられた神は、修二に向けて手を伸ばす。
紙を受け取った神は紙に目を通す。
「まず1つ目、【独自理論の具現化】。効果は、自らが考え出した理論を実際に再現することが出来る。ただし、理論はその世界の理に少しでも沿っていないと、再現不可。
2つ目は【適応力上昇】。効果は、肉体、精神が適応する速度や範囲を大幅に上昇。ただし、適応するには″適応しようとする意志″が継続的に必要。
最後3つ目は、【基本的人権の尊重】。…これはすごいね。効果は、主に3つ。
まず平等権。これは、他人に差別や迫害を受けにくくなる。また、仲間と認めたものも同様。
次に自由権。身体、精神ともに誰にも束縛することが出来ない。
ラストが知る権利。知りたいことを知ることが出来る。
これらの代償として…
仲間の者が差別、迫害を受けると沸点が低くなる。
恋などのように、一人の者に拘ることが出来にくくなる。
知りたいことに個人情報が多く含まれれば含まれるほど、知り得るまでの時間が長くなる。
……はぁ~、長かった」
長文を一気に言い終えた神は、軽く息を整えた後、ため息を吐く。
「悪かったな、長くて」
「いやいや、気にしないで。それだけしっかりと考えてくれたってことだからね。
…さて、新しい力だけど、なんと、3つとも新しい力でした!!
いや~すごいね~。まさか3つも新しいのを考えるなんてね~。
そこで、ボーナスの内容を教える前に、いくつか質問があるんだけどいいかな?」
「ああ、かまわん」
驚きの声で試験結果を発表した神は、そのまま修二に疑問点を問う。
「順に聞いていくとしようか。
まず、【適応力上昇】だけど、具体的にはどういった力なのかな?」
「簡単だ。環境に合わせて身体が変化するだけ。例を挙げるなら、日焼けだ。
日焼けは身体が、吸収する熱の量を抑えるために肌を黒く変化させているものだ。
別に日焼けしやすい力って訳ではないが、まあだいたいそういった力だ」
ふむふむと頷きながら、神は次の質問に移る。
「次は、【基本的人権の尊重】から。
平等権の他人から差別や迫害を"受けにくくなる"ってのは何で、全く受けないにしなかったの?」
「差別や迫害の大抵のものは複数人以上から受けるため、全く受けないにしてしまうと、その人たち全員の思考や感情といったものを操作し、すり替えてしまわなければいけなくなる。
そうなると力が大きくなりすぎると思ったんだが。
実際はどうなんだ?」
「よくわかったね。
確かに全く受けないというのは、その人の感情もろもろを強制的に抑え込むことになるからね。
今でもなかなか大きい力だけど、それ以上に大きくなり、制限をもう1つ2つ追加しなくちゃいけなくなっていただろうね」
自分の考えを語り、最後に答えを求めた修二に、追加説明をしながら神が答える。
「最後の質問だけど、これは僕からではなく悟史くんからだよ」
「っえ?お、おれ?」
「うん、そうだよ。何かあるんじゃないかい?
別に修二くんにじゃなくて、僕に質問でもいいよ?」
神は最後の質問と見せかけ、変化球を悟史に向かって投げる。
「あー、あります、質問」
「遠慮せず言っていいよー。ばっちこーい」
「ええと、それじゃあ。
修二さんの3つ目の力って、3個の力ってことじゃないんですか?」
聞くタイミングを逃していた悟史は、神の妙なテンションに戸惑いながらも質問を口にする。
なお、悟史が落ち着いているのは、修二が考えた力が自分のものとは程遠く、テンションガタ落ちしたためである。
「そう、気になるよね、それ。
完結に言うと、修二くんが考えた3つ目の力、【基本的人権の尊重】はあくまでも効果が3つあるだけなんだ。
そう考えると悟史くん、君も同じような力を持っているんだよ?」
「え?ありましたっけ?」
「よ~く考えてみて、【全魔法】はどういった力だっけ?」
「【全魔法】は…、全属性の魔法を…あっ!」
「どうやら気づいたみたいだね。
そう、【全魔法】は全属性魔法を使えるようになる力、つまり火魔法が使えるようになる、水魔法が使えるようになる…など複数の効果を合わせて出来ているんだ。
だから修二くんの力も、一見3個の力のように見えるけど、実の所3つの効果で出来ている1つの力なんだよ」
「…なるほどー」
なんとか理解できたのか納得顔で頷く悟史。
「さて、疑問も解消されたことだし、ボーナス特典の発表だよ。
ボーナス特典は…力以外で、欲しい物を1つだけあげちゃうよ。
なんでもOKだけど、物でお願いね。
これ以上力を上げちゃうと肉体が爆ぜちゃうからね」
「う~む、欲しい物かぁ」
神がめっさ物騒なことを言うが修二は華麗にスルーして考え込む。
暫くして決まったようで、顔を上げた修二が、
「安全便利で持ち運びができるような家をくれ」
普通の者が聞いたら無茶だと思う物を要求する。
「っえ?そんなんでいいの?
もっとすごいのでも大丈夫だよ?」
しかし、神クオリティなら余裕のようだ。
「なら、その家に枯れない水源となくならない絶品食材でも置いといてくれ」
「了解したよ。細かいとこはこっちに任せて」
「うむ、任せた」
「じゃあ無事に特典も決め終えたから、転生前、最終工程に移るよー」
「…まだあるのか……」
げんなりとした声を出す修二。
心なしか悟史も疲れているようだ。
「ほらほら元気出して。次で本当に最後だから」
そうして修二たちは最終工程に移る。