ep.2
ここは修二達がいる、試験会場。つまり普人族の会場だ。
「そういえば、さっき聞き忘れてたんだが、なぜこんな実験の真似事みたいなことをするんだ?
それに、俺たちが種族ごとに分かれる時、きれいに、各種族に分かれたのは偶然か?」
着いてすぐに修二は、残っていた疑問を口にする。
「実験の真似事って…。まぁ実際、実験というよりは、君たちで言うβテストに近いからね」
「βテスト?……ってことは、俺たちの後にも転生する奴らがいるってことか?」
言外にこの後も死に、転生する人がいると聞かされ、修二は驚くように声を発する。
しかし神は気にすることもなく、軽く答えを返す。
「そうだよ。だいたい数千年後に大勢の人が死ぬことになる。ちなみに地球の人々だよ」
「!?…な、なぜ?それは止めることができないのか?」
大勢の人が死ぬ。それも地球の人が。
そう神に告げられ修二はさらに驚く。
しかし神ならば何とかできるのではないかと思い尋ねるが、無残にも、
「無理だね。大勢の人がなぜ死ぬか。それは地球のある世界の寿命が来ているからだよ。
″物はいつかは壊れる″って聞いたことあるかい?」
「あ、ああ」
「それと一緒さ。その世界も、ついに壊れる時が来たんだ。
でも、それによって死ぬ人たちは、その人の寿命で死ぬわけではないから、ほとんどの人たちは転生するという形になるんだ。」
神の答えに「なるほど」と納得した顔を見せる修二。
なお、ここまで会話に参加していない悟史は全く理解していない顔だ。
「そして、分かれた種族がバラバラなのは偶然じゃないよ。
さっきも言ったけどこの転生は言わばβテスト。さまざまなデータが欲しいから、ある程度の″この種族を選ぶだろう″という基準の下君たちを選んだんだよ。
それでも、ここまでばらけるのは珍しいけど」
神は修二の二つ目の質問に答える。
それに対し修二は納得顔のまま小さく頷く。
「ではそろそろ本題に移ろうか」
「ああ、そうだな」
「早く早く、チートチート!」
神による軌道修正に――修二も悟史もテンションの差はあれど――二人とも乗っかる。
「これからやってもらうことを言うからよーく聞いててね?
これから君たちにやってもらうことは至極簡単。この紙に欲しい力を、1枚につき1つ書いてねー。
書く力はなんでもいいよー」
そう言うと神はどこからかA4サイズの紙を6枚取り出す。
駄洒落ではない。結して。
「な、な、なんでもいいんですかーー!!?」
「うん、なんでもいいよー」
なんでもという言葉に反応した悟史の顔には″チートキター″と描いてあるようだ。
分かりやすい顔である。
修二は悟史とは打って変わり、冷静に、神に質問をする。
「それはちょっと簡単すぎないか?それともほかの試験もこんなものなのか?」
「他の種族の試験と比べると普人族の試験はちょっと特殊だけど、だからと言って簡単とは限らないよ?」
「…どういう意味だ?」
修二はあまりに簡単そうに思える試験に疑問を持ったが、神の返答によってさらに疑問を深める。
「そのままの意味だよ。ただ強そうな力を書けばいいってもんじゃないってことだよ。」
「う~む。何か書くためのヒントはないか?」
「そうだねぇ~。何故種族ごとに分かれて試験を行うのかを考えてみるといいよ?
…ああ、あとメリットだけでなくデメリットも混ぜて書くといいよ」
「デメリットも?それはなぜ?」
「それは人間の肉体では、デメリットのない大きな力を使いこなすことが出来ないからだよ。
たとえ使えたとしても、人間にとって大きすぎる力は所有者の身を徐々に滅ぼしていくことになる。
それでもデメリットを書かない場合は、こっちで勝手に制限を掛けさせてもらうよ」
「つまり、デメリットを書くことによって、自分でデメリットを決めることが出来る。ということだな?」
「そうだね」
修二が神とのやり取りで、この試験について理解を深めている横で、悟史はやはり頭上にクエスチョンマークをたくさん浮かべていた。
「じゃあ紙を配るよー」
神は修二と悟史にそれぞれ3枚ずつ紙を渡した。
その紙には名前の欄と、効果と書かれた四角い枠しか描かれていない。
3枚とも全く同じだ。
「見ればわかると思うけど一応説明しとくと、名前の所に欲しい力の名前。
効果の所にどんな力なのかを詳しく。
ここからが大事なんだけど、君たちには今までにない力を考えて欲しいんだ。
絶対に新しい力じゃないとダメというわけではないんだけど、欲しい力が3つとも新しい力だったらボーナスとしておまけがあるから。
ぜひとも頑張ってくれたまえ」
書き方と、内容を詳しく、一気に説明していく。
そこでまた、新たな疑問が生まれた。
「今までのって、俺たちより前の人が考えたやつか?それって早くに来た人のほうが有利にならないか?」
「確かに、前の人たちのほうが若干有利だけど、たいして変わらないよ?
なぜなら、一番初めに呼んだ人たちよりも前に僕自身が5000個ほどすでに作っていたからね。
今までに3つとも新しい力を考えた人は一人しかいなかったよ。
でもその人は強い力より新しい力を優先したみたいで、ビミョーな力ばっかだったよ。
例えば、″決してドライアイにならない力″とか。
剣と魔法の世界に電子機器なんてないのにね」
「うわぁ…それはなんとも…」
あまりにも間抜けな考えに、修二も言葉を無くす。
「今ある力のリストなんかは見れるのか?」
「見れないよ。だって見せちゃったら面白くないもん」
「…面白くなくていい」
「あ、それと名前が違っていても効果がおよそ同じだったら、同じものとしてみなすから。
逆に名前が同じで、効果が全く違った場合は違うものになるから。まあ、あまりないけど。」
「…スルーかよ」
修二がため息をつきながら反論するが、神レベルのスルースキルには敵わなかった。
「じゃあ説明も終わったことだし、始めようか。
制限時間はないから、じっくりと考えてくれ。
ユニーク(面白い)でユニーク(唯一)なものを頼むよ」
言い終わると同時に、どこからともなく学校にある机と椅子が現れた。
机の上には鉛筆と消しゴムまで置いてある。
二つの机の間にはカンニング防止のためか、壁が隔ててある。
修二と悟史はそれぞれ、右と左の席に座っていく。
「相談はしちゃだめだよー。
それではー、よーい、はじめ!」
制限時間はないのに開始の合図を出す神。
たぶんノリだろう。
悟史は自分のなりたい像を思い浮かべながら、
修二はさっき神から聞いたヒントを思う浮かべながら、
自身の望む力を紙に書いていく。