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錬金術を売り歩く商人  作者: 独蛇夏子
錬金術を売り歩く商人
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屋根上歩行者の靴

即興小説トレーニング(http://sokkyo-shosetsu.com/novel.php?id=224842)から転載 お題:あいつの結末 制限時間:15分

 お嬢さん、そんなところにうずくまっていちゃ蹴飛ばされてしまうよ。お腹でも痛いのかね?とりあえず道の真ん中から移動しよう。

 おや、泣いているのかい。どうしたどうした。震えているね。ああ、寒いのかね。大分冷えているようだ。そうだ、これをあげよう。

 ガラス瓶に入っているこの赤い丸薬は「七味糖」という。一粒食べてみなされ。・・・どうだい?ピリッとして、甘くて、温かくなるだろう?ふふふ。これはスパイスが利いていて甘くて温かくなるという、三つの性質を兼ね備えたお菓子なのだ。しっかり味わいなさい。


 ご紹介が遅れました。じいさんは錬金術の商人である。由緒正しき黒いシルクハットを被り、黒い鞄にたんと錬金術の品をつめて旅して回る者だ。・・・そうしげしげ見なくてよろしい。


 ところでお嬢さん、一体どうしたのかね。こんなところで座り込んでいた事情は。・・・はて、最終面接とは如何に?ああ、雇用して下さいと言いに行くところなのだね。え、もう諦めた?

 電車が人身事故を起こした、とはどういうことなのかね?・・・ああ、移動手段がなくなってしまったのか。なるほど。

 それならじいさんはお嬢さんの役に立ちそうだね。

 丁度よい商品を持っているのだよ。


 ご紹介しまするは「屋根上歩行者の靴」。屋根の上の空間を歩むことのできる靴である。

 おや、なんだか不審げだね。心配することはない。じいさんも同じ人が作った靴を履いているが、なかなか便利な優れもの、一度として空から落っこちたことはないよ。

 さあ、急いで、急いで。靴を履いて。大丈夫、ここで出会えたのも何かの縁、その靴はお嬢さんにぴったりのはずだ。

 そんな不貞腐れた顔をしないで、涙を拭いなさい。

 じいさんは自棄という言葉が大嫌いである。

 自棄を起こしていないで、諦めないでしっかり好機を掴みなさい。


 靴を履いたかね?

 初めてだろうからじいさんも付き添おう。さあ、腕に掴まって―――地面を蹴って!


 驚いたかね、すごい跳躍力だろう?

 その靴は空気にとっかかりを作ってくれ、そのとっかかりの上を歩けるようにしてくれるのだ。

 だが気をつけて、その靴は基本的に屋根の上の空中しか歩けない。建物と建物の間はしっかり飛び越えて!

 よしよし、いい調子だ。

 しかも気付いたかね?この靴は一歩を踏み出す度、いつもより数倍の推進力が出るよう作られているのだ。風のように進めるだろう?


 しっかり走って!風を切って走れば気持ちいいものだ、きっと涙も吹き飛ばしてくれる!


 お嬢さんが目指していた建物はあれかね?

 よし、ここから降りようか。

 ゆっくり地面を目指すよう、足を運んで。靴は降りる感触をしっかり察知してくれる。


 ―――さあ、着いた。

 あっという間だったろう?

 よかったよかった、お嬢さんも笑顔になった。しっかり間に合ったようで、じいさんも錬金術の商人冥利に尽きる。


 おや、返してくれるのかい。

 ・・・遅刻しそうなときに、ずるしそうだから、ね。確かにそうか。秘密の道具とは、そういうものだね。

 お嬢さんはしっかり、自分の足で歩ける人のようだ。

 さあ、行って。健闘を祈っているよ。

【七味糖】スパイシーで、甘くて、体の温まる赤い丸薬。スパイスの風味を七パターン楽しめる。


【屋根上歩行者の靴】屋根の上の空中を歩ける靴。屋根上の空間にとっかかりを作り、その上を歩く。一歩の推進力は普段の数倍。ただし昇るときと降りるとき以外は屋根上限定なので注意が必要。

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