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錬金術を売り歩く商人  作者: 独蛇夏子
錬金術を売り歩く商人
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亡大陸のメープル・シュガー

即興小説トレーニング(http://sokkyo-shosetsu.com/novel.php?id=224390)から転載 お題:小説家たちの会話 制限時間:15分

 パンを捨てちゃいか―――――――んっ!!!

 道路にパンを投げ捨てようとするとは何事かい、小さなお嬢さん。じいさんがスライディングキャッチしなければ、間違いなくパンは地面に叩きつけられていた。不衛生である。もっと食べ物は大切にしなくてはいけないよ、お嬢さん。

 なに、もう食べない、いらないって?

 そんなに泣いてどうしたね。パンは美味しいよ。パンに罪はないはずだ。


 おや、どうしたのかね、後退りして。

 え?変なおじいさん?誰のことだ?・・・失敬な、じいさんのことだな!まったく、誰もじいさんの装身具の素晴らしさを分かろうとしないなんてあんまりである!

 よいかい?じいさんが被っているこの黒いシルクハットは由緒正しきシルクハットなのである。して、この片眼鏡は・・・いてで!こら!髭を引っ張るでない!え?何で結んでいるかって、白くて長い顎鬚は先っぽをリボンでまとめて結ぶのが紳士の嗜みなのである!当たり前ではないか。

 じいさんは錬金術の品を売り歩く商人なのである。決して怪しい人間ではない。ほら、この黒い鞄にたくさん品物が入っている。


 ・・・まるで小説家たちの会話、とな。

 空想的といいたいのだね。なんだかお嬢さんは哲学的な雰囲気だね。


 まあ、とにかく、パンは捨てちゃいかん。パンは素晴らしい食べ物なのだぞ。

 それを体現するのは・・・これ、「亡大陸のメープル・シュガー」!

 ガラス瓶に琥珀色の液体が入っているのはわかるね?これはとろりとしたメープル・シュガーなのである。

 驚くことなかれ。ただのメープル・シュガーではない。これは昔海の底に沈んだという大陸の楓のメープル・シュガーなのだ。海の底から見つかった楓の種を、亡き大陸を再現した箱庭に植えて育てた木からとったメープル・シュガーなのだよ。


 さて、この白いパンにメープル・シュガーをかける。とろり、とろり。好きなだけ、かける。じいさんは表面にうっすらついているのがお勧めだね。ちなみにパンはトーストでもよい。

 ほら、食べてご覧。きっと食べたことのない、珍味なのだ。


 ・・・ほーら、お嬢さんの目が真ん丸になった。

 一口食べればやみつきに。それが「亡大陸のメープル・シュガー」なのである。美味しいだろう?


 おや、泣くほど美味しいかね。そう、パンには罪はないよ。

 悪いのは、お嬢さんに虫を載せたパンを無理やり食べさせた輩たちである。食べるという、大事な行為に、悪意が向けられるのは、大変みじめな気分になるね。

 それを思い出してしまうから、お嬢さんは配給されたそのパンを食べたくなくて、持て余したのだね。

 だが、パンをどうか嫌いにならないでやってほしい。

 とても美味しいものがあると、お嬢さんが知らないでいるのは勿体ないからね。

 何でじいさんがお嬢さんが辛い思いをしたと知っている、とね?ふふ、この片眼鏡、「真実スコープ」がお嬢さんがパンを捨てようとしたことの真実を見せてくれたのである。

 少しはじいさんの言うことを信じてくれたかい?


 それでは、じいさんはこの「亡大陸のメープル・シュガー」をお嬢さんにあげよう。少しずつ食べなさい。

 お代は大丈夫、もうもらったよ。何がお代だったって?秘密だよ。

 お嬢さんもその「亡大陸のメープル・シュガー」は秘密にするといい。他の誰も知らない、ほっぺたの落ちるほど美味しい、素晴らしい食べ物があるということを、大事に秘密にして持っているといい。

 秘密を持っている人は、どこか魅力的に見えるからね。

 きっとお嬢さんは魅力的な女性になる。

 くじけることはない。

【亡大陸のメープル・シュガー】とある大陸が沈んだといわれる海底から引き揚げられた楓の種を、大陸を再現した箱庭で育て、成長した木から作ったメープル・シュガー。珍味。透明ガラス瓶入り。

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