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考えようによってはストーカーかと思われるほどメメント・モリはフォール家周辺に目を配っていたわけだが、そこはウン百年の信頼感があるのか、必要以上に出てこないからか、フォール家の人々はみんな、メメント・モリを信用していた。
マリーは、メメント・モリが影で暗躍しながらも、結構表舞台に出てきて楽しんでいる節もあったと思っている。
メメント・モリは新しいもの好きだった。
否、新しいメカが好きだといったところか。
例えば、新しいテレビを買うと、メメント・モリはたちまちそわそわしだして、分解させてくれと頼む。どうやら中の構造が気になるらしく、外からあちらこちらを眺めて古いのとどう違うんだと言いながら古い方のテレビをバラバラに分解し始める。
フローレンスはこうしたメメント・モリの頼みにたびたび困らされたが、やがて新しいものを買うときは、必ず一つ余分に買うようになった。
メメント・モリはそれを貰い受けると、古いものと一緒に、部品をひとつ残らず分解し、興味深そうに検分した。
「それっておもしろいの」
「非常に興味深い」
片目にルーペをつけて、古そうな見た事のない工具を使ってメメント・モリは次々に分解する。
マリーはそれを見ているのが楽しかった。分解を始めるとメメント・モリは作業に没頭してしまうが、部品を並べて中身をすべて明らかにするその過程は爽快だった。
いざ、すべて分解し終ると多くの使用人が見物に来て、中身はこうなっているのかと感心していく。
「メメ様はすごいね。こんなことできちゃうんだ」
「・・・素晴らしい製品は次々に世に出てくる。しかし、人の頭に蓄積された知は、死ねばすべて消えてしまう・・・世は儚いものだ・・・」
メメント・モリは常に悲観的で、無常観で物事を捉えていた。マリーはそこが不思議だった。どうしてこんなにも、すぐに彼は嘆くのだろう。
「とはいえ・・・このように形に残せば、知だけは生き続けるのである・・・」
偶にポジティブだった。
「マリー、見てご覧。こことここを繋げると・・・テレビが映るようになっている」
そう言って、中から引きずり出した基盤にケーブルを繋げて、メメント・モリはテレビを映してみせた。
へぇ、と感心して眺めているマリーに、メメント・モリはこうも言った。
「物質的に、目に見えるもので繋がっているからこうなるが・・・目に見えない力がこのケーブルを伝って行き交っているのだ・・・」
テレビやら車やらを分解すると、メメント・モリは自分が気になった部品を持っていって、自分の住居に消えて行った。どうやらそこで更に詳しく調べているらしい。
マリーはメメント・モリが住んでいるという地下室に行ったことがなかった。いつもカーテンの裏から現れるので、そこに扉があるのかとよく探ったが、マリーは何も見つけられなくて悔しい思いをした。
それでも、やはりマリーが呼ぶとすぐに現れ、母が危険に陥りそうなときも必ず登場してくれた。
例えば、フローレンスが地権者を名乗るやくざのような男を相手にしているとき、メメント・モリはさりげなく突然現れて、フローレンスの背後を横切った。
男たちは当然驚く。メメント・モリが部屋の角に消えると、ぎょっとしてそこを調べに行く。だが、そこには何もない。
そこへ駄目押しでもう一回メメント・モリは部屋を横切る。
やくざのような男はフローレンスに圧力をかけるのを切り上げて逃げ帰る。
そういう人間でも幽霊は恐いらしい。
多くの場合は幽霊のふりをするだけで利いたが、中には図々しくて鈍い者もいる。メメント・モリ自体を視界に入れず、そのままフローレンスと話を続けようとするのだ。
そういう輩には、フローレンスが大粒のダイヤモンドの指輪を泣く泣く手放して帰ってもらおうとする演技をする。これを差し上げますからどうかお帰りになって、と。
いじきたない輩は必ずダイヤモンドを手にするが、何を見たのか、ダイヤモンドに触れた途端、青い顔をして何かに追われるようにして部屋から去って行ってしまう。そして、二度と来ない。
「あのダイヤモンドって一体何なの?」
マリーが訊くと、メメント・モリは静かに答えた。
「欲深き者にその業の深さを幻に見せるのだ。すなわち、死はすぐそこにあるということを・・・」
要するに、何かしら死体とかゾンビとかが追ってくる幻影が見えるという代物だったらしい。
年を重ねれば重ねるほど、マリーはメメント・モリの謎に直面することになった。学校には同い年の子供がたくさんいたけれど、似たような人もいなかったし、そういう人がいるという話も聞かなかったし、男の先生の中にもメメント・モリに似た人は一人もいなかった。
一体あの人は、何なのだろう。何故、メメント・モリと呼ばれているの?錬金術って、何?
一体、誰なの?
マリーにとって当たり前のように優しい人でも、普通でないことは分かっていた。
それでも、メメント・モリがジュリエット、と口にするだけで不機嫌な心持になるくらいには、マリーの心に独占欲が育っていたわけだが。
「ねえ、メメ様。この町って怪談がたくさんあるのよ」
「・・・死の漆黒の闇が呼び寄せる物語か・・・」
「それで、ツアー組んで、この町に人がたくさん来るんだって」
「・・・死の本当の意味も知らず、楽しもうとするか・・・・それもまた妙というわけか・・・」
暗いのはいつものことなので、マリーは話を続ける。
「それでね、うちの屋敷の周りに結構怪談が多いってことが分かったの!」
「・・・・」
「まずね、三番通りの街灯の下を通ると、『死を忘れることなかれ』って囁かれるんだって」
「・・・・」
「それから十字路のユニコーンの銅像を触ると、ときどき通りを物凄い勢いで兵士たちの幽霊が走っていくのが見られるんだって」
「・・・・」
「似たようなので、うちの屋敷の塀についてもあるのよ。北の塀の模様に触ると、骸骨がたくさん降ってくるとか。教会のマリア様のステンドグラスの下にいると女の子の霊が現れるって。あと、うちの家のどれかの柩に触ると骸骨がたくさん教会内を踊りまわるって」
「・・・・」
「それからね、冒険者っぽい格好をした人に道を訊かれて、通り過ぎて振り返ると、誰もいなかった、とか。芸術家みたいな感じの綺麗な男の人から飴玉をもらって食べると、しばらく口から花弁が出る、とか。あと空を歩いているおじいさんがいるとか。本当、この町って怪談がたくさんあるのね~」
「それは私の友達だ」
「・・・え?えっ?!」
後から確かめると、人間に関する怪談はすべてメメント・モリの錬金術師仲間で、幽霊話のたぐいはすべてメメント・モリが長年町中にあちこち仕掛けた装置だと分かった。
町の人たちはそれらを用いて、怪談ツアーを組んで町興しをしていた。
屋敷の塀にツアーガイドが観光客を引き連れてやって来るたびに、マリーはおかしいような、事実を知っている気まずさが混じった気分になるのだった。




