その7
「なあ美樹 もう 後ろを振り返らず 前に進もう 俺には もう時間がないんだ これで さようならだね 最後のお願い 幸せになれよ 美樹」
涙が溢れて来ました
瞬が握った私の手から 懐かしい思い出が
私が涙で目が開けず 下を向いていたあいだに 手を握っていた瞬の感触が弱くなっていきました
慌てて瞬を見上げたときすでに姿は消えていました
翌日 旧友から 病床の瞬が息を引き取ったと聞かされました
瞬は 別れた私のこと 心配して テレビから会いに来てくれてたんだ
そして 私の幸せを見届けて旅立った
瞬が言った言葉
誰かに必要だと思ってもららえること だから生きて行ける
それが どんなかたちでもいい 自分の存在が誰かの支えに 助けになれてるということが 生きている意味
そんな存在でいるためには まず 一生懸命に 前向きに生きること 必ず そんな自分を 誰かが必要としてくれるはずだからと
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結婚して 6年が過ぎた
女の子が生まれ 多少の波風が立つこともあったけど 毎日慌ただしく生きてる
そんな日常のなかでポッカリ時間が空いた時 ふと瞬のことを思い出す
今も瞬は どこかでわたしのことを見てるのかな
そんな時わたしは心のなかで瞬に声をかける
「瞬 心配しなくていいよ そりゃたまには腹の立つことや 思い通りにならずイライラすることもあるけどさあ 瞬がくれた言葉を信じて 前向きに生きてるから」
その都度 テレビのリモコンが動いたような気がする