その6
テレビから 瞬が居なくなった
リモコンも移動しなくなった
いつも 当たり前のように居た彼が いなくなった
部屋の空気が変わったみたいに寂しくなった
休日 婚約者とのデートの予定もなく 近くの公園を 散歩していた
久しぶりに ポッカリ空いた一日
木陰から誰かの視線を感じて 振り向くと
テレビに居た 瞬が立って私を見ていた
錯覚じゃない
あの 瞬だ
「瞬 だよね?うそ なんで?」
「驚かせて ゴメンね どうしてもカオリン いや 美樹に会いたかったから」
「私の本当の名前 知ってたの?ごめんなさい 香織なんて名前 使ってて でも どうしてテレビから居なくなったの?」
「美樹 忙しかったから 僕のライフポイントのゲージ見てなかったでしょ?もうゼロに近くなってたこと 気がついてなかったよね」」
「ごめんなさい 気づいてあげてなかった」
「もう回復できないレベルだから 最後にどうしても美樹と こうして話がしたくて 最後のポイントを使って 会いにきたんだよ」
最後?
どうして?
「美樹は 自分を必要としてくれる人と現実の世界で巡り会えたんだね だからバーチャルの僕を必要としなくなった だからライフポイントが無くなったんだよ」
「じゃあ もう瞬とは 会えなくなるの?嫌だよ そんなの だって私が変われたのも 結婚できるのも みんな瞬と 出会えたからなんだもの これからも側に居てほしいよ
私には 瞬が必要なの 大切な存在なの」
「ありがとう美樹 お前から 最後に その言葉が聞きたかった 必要だっていう言葉が」
「え?その話し方 テレビの向こう側の瞬じゃないあなた 本物の高木 瞬?うそでしょ?」
「ゴメンな 美樹 俺 一緒に暮らしてた頃 お前に寂しい思いばかりさせてたよな 一言 謝りたかった 美樹 俺はお前を幸せにしてやれず別れてしまった 今の婚約者の人は 美樹のこと 必要だと 大切な存在だと 言ってくれてる だから美樹は 幸せになれるよ」
「瞬 私こそ 将来の不安から あなたに嫌なことばかり言ってた だけど 瞬のこと 嫌いになんかならなかったんだよ」