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異世界転生したら子供探偵やってみた  作者: 紬衣琉


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__ソフィアの日記__


もう、いつもの本屋へ行く勇気すらない。

公園のベンチでうずくまり、空腹と絶望に耐えていた時、真っ白な法衣を着た人が隣に座った。

「君はこの世界に疲れたんだね。本来帰るべき場所は、ここじゃない」

その人はパンと温かいお茶をくれた。 そして、私の魂は肉体を脱ぎ捨て、物語のような「誰も傷つかない場所」へ行けるのだと言った。


生まれ変わり。 『ソウル・リバース』という集会に行けば、それが叶うらしい。 参加のための「準備金」が必要だと言われたけれど、未来が買えるなら安いはずだ。だけど、お金はない。

借金をしてでもこの毎日を終わりにしたい。 明日、あの人が教えてくれた場所へ行ってみようと思う。







ここで日記は終わっていた。



アウレリアは震える指で日記を閉じた。


胸の奥が、ぎゅうっと締めつけられる。

息が苦しい。視界が滲む。


「準備金なんて、ただの搾取じゃない!弱ったソフィアをだましたんだわ」


前世で見てきた“追い詰められた人の心”が重なり、

アウレリアは胸を押さえた。


「……ソフィア」


アウレリアがかすれた声で名を呼ぶと、

アンディはそっと膝を折り、彼女と目線を合わせた。


「彼女は、一人で苦しんでいたんですね」


その優しい声に、アウレリアは唇を噛みしめた。


「……助けたい。遅くなる前に」


アンディが静かにうなずいた、その時だった。


「おいおい……そんな顔すんなよ、嬢ちゃん」


壁にもたれていたプロビーが、ぼさぼさの髪をかき上げながら口を開いた。


「確かにソフィアちゃんは追い詰められてた。

 でもな、だからって“もう終わり”って決まったわけじゃねぇ」


アウレリアは驚いたようにプロビーを見上げた。


プロビーは肩をすくめ、ぶっきらぼうに続ける。


「俺らが探せばいいんだよ。どんな連中だろうが、

 しらみつぶしに聞き込みゃ、必ず尻尾をつかめる」


アンディが苦笑しながらも補足する。


「兄さんの言う通りです。私たちは探偵団ですからね。」


プロビーはアウレリアの頭を、乱暴にならないように軽くぽんと叩いた。


「嬢ちゃん、へこむ暇があったら動こうぜ。ソフィアちゃんは、まだどこかで生きてる。だったら、助けに行くしかねぇだろ」


アウレリアは目を瞬かせ、そして小さくうなずいた。


「……うん。行こう。絶対に見つける」


ルークがにやりと笑い、手を叩いた。


「よし、決まりだな。探偵団、出動ってわけだ」


こうして、ソフィア捜索は新たな決意と共に動き出した。










「……見つけたぜ。真っ白クソヤローのアジトだ」

一時間後、どこからか戻ってきたプロビーが、腰を叩きながら不機嫌そうに地図を広げた。

「プロビー、もう少し品のある言い方を。……それで、場所は?」

アンディが服についた埃を払いながら、手帳を取り出す。


「王都の北西、古い地下貯水槽だ。まったく、カルトってのはどうしてこう、ジメジメした場所が好きなのかねぇ。

俺の膝の持病が悪化したら殿下に特別手当を請求してやる」



四人は現場の地下へと続く階段へ向かったが、入り口でルークが足を止めた。


「……待て。強力な結界だ。登録された者以外が触れれば、警報が鳴り響くぞ」


ルークが虚空に石を投げると、火花が散って石が弾き飛ばされた。


「おいおい、アンディ。お前の得意な『スマートな交渉』でこの壁、なんとかならないのか?」

プロビーが皮肉っぽく笑う。


「無理ですよ兄さん、魔法に交渉は通じません。……ルーク君、解除にどれくらいかかる?」


「解除はできない」


重苦しい沈黙。

プロビーは

「これだから魔法は嫌いなんだ」


と毒づき、アンディは

「殿下に申し訳が立たない……」

と天を仰いだ。



その時、アウレリアが静かに一歩前へ出た。

「……私が、先に行くわ」



ウレリアの手が、まるでもともと何もなかったかのように結界を通り抜けた。



「なっ……!?」

プロビーが目を剥き、アンディは驚きで眼鏡を指で押し上げた。



「おいルーク! 嬢ちゃんのその手はどうなってんだ? 物理法則か魔法のバグか、それとも俺の膝の持病がついに目にきたのか?」


「兄さん、落ち着いてください。……ルーク君、これは一体?」



ルークは一瞬、苦渋の表情を浮かべてアウレリアの前に立ち、二人を遮るように手を広げた。


「……待ってくれ。これには事情が——」



「いいのよ、ルーク」




アウレリアがルークの服の裾を軽く引き、静かに制した。

ルークは振り返り、アウレリアを保護するように低い声で耳打ちする。


「……アウレリア嬢、これは君にとって最大の切り札だ。

王族の使いである彼らにまで、今ここで教える必要はないんだよ。

……君が『普通じゃない』と知られれば、どんな面倒に巻き込まれるか」



ルークの瞳には、彼女の身を案じる真剣な光が宿っていた。

しかし、アウレリアは小さく首を振った。



「ルーク、ありがとう。でも、今は一分一秒が惜しいわ。それに——」


アウレリアは前を向き、驚愕したままのプロビーとアンディをじっと見つめた。


「プロビーさん、アンディさん。私たちはソフィアを助けに来た『探偵団』でしょう? 仲間を信じられないなら、この先にある闇には勝てないわ」



プロビーは鼻を鳴らし、アンディは真摯な面持ちで頷いた。

アウレリアは二人の目を見つめて告げた。



「驚かないで。私、あらゆる魔法が効かないの。認識阻害も、攻撃魔法も、この結界も。私の体質は……魔法そのものを無効化してしまう『アンチ魔法』なのよ」



「アンチ魔法……! おいアンディ、歴史の教科書かお伽話の読みすぎじゃないだろうな?」


「兄さん、実在するなんて私も信じられませんが……目の前の現実は嘘をつきません」



ルークは大きなため息をつき、降参したように肩をすくめた。


「……まったく。君って人は、本当に肝が据わっているというか、

お人好しというか」



「ルークだって、私が危なくなったら助けてくれるでしょ?」

アウレリアが少しいたずらっぽく笑うと、ルークは観念したようにニヤリと笑った。


「もちろんだよ。……よし、プロビー、アンディ。今の話はここだけの秘密だ。

もし外部に漏らしたら、君たちの『殿下に内緒の経費』を全部ぶちまけるからね」



「へっ、脅しはお前の専売特許かよ」

プロビーは不敵に笑い、コートの襟を立てた。


「いいぜ、嬢ちゃん。その『チート体質』、存分に拝ませてもらおうじゃねぇか。

アンディ、行くぞ。

嬢ちゃんが道を作ってくれるんだ、最高の席を用意してもらおう」



アウレリアは三人の信頼を背に、迷いなく暗い地下の奥へと足を踏み入れた。




結界を通り抜けた先には、想像を絶する巨大な空間が広がっていた。



かつて王都の水を支えていた地下貯水槽は、今や「ソウル・リバース」という名の、病んだ信仰の揺り籠と化していた。

天井は高く、規則正しく並ぶ巨大な石柱が、松明の微かな光を受けて不気味な影を床に伸ばしている。



アウレリアは、ルークたちが結界の基点を探している間、ひとり静かに貯水槽の周りを見て回った。


「……異様な場所ね」


壁一面には、本来の用途には不必要なほど精緻なレリーフが彫り込まれていた。


それは救済を描いた宗教画というより、どこか幾何学的で、

見ているだけで三半規管が狂いそうな、うねるような文様だった。



アウレリアは壁に指を這わせる。

(魔法的な仕掛けは、私には感じられない

でも……この匂い。湿気とカビに混じって、甘ったるい、鼻の奥にこびりつくような匂いがする……)



足元に目を向けると、古い水路の跡に沿って、真っ白な花びらが点々と落ちているのが見えた。


「白百合……?いや、違う。」


それは丁寧に乾燥させられた、見たこともない形状の薬草の破片だった。


アウレリアはさらに奥、貯水槽の中心部へと視線を向けた。

そこには、周囲よりも一段高くなった円形の石舞台がある。

その上には、日記に書かれていた真っ白な法衣の人間が、まるで抜け殻のように円を描くようにきれいに並んでいた。



「ねぇ、あそこ……」 アウレリアが指をさした瞬間、一段と強い風が地下の奥から吹き抜け、火影が大きく揺れた。



アウレリアの本能が、激しく警鐘を鳴らしていた。


「……みんな、来て! あそこ、様子がおかしいわ!」


彼女の声が巨大な石の広間に反響し、プロビーとアンディ、そしてルークが表情を険しくして駆け寄る。


そこはもはや、祈りの場ではなかった。 静寂という名の


冷徹な死の展示場ようだった。

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