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そこにあったのは、こじんまりとした古い建物。
外壁は蔦に覆われ、どこが入り口なのか一見してわからない。
まるで森の中に迷い込んだ小屋のようだった。
ルークが眉をひそめる。
「これ、営業してるのか?」
プロビーは顎で建物を指しながら言う。
「してるしてる。
ここ、ちょっとだけ認識阻害の魔道具が使われててな。
常連じゃないと入り口が見えにくいんだよ」
アンディが補足する。
「盗難防止と、珍しい本の保護のためらしいです。
殿下もよく通われていました」
ルークが入り口を探してキョロキョロしていると――
「……ここよ」
アウレリアが迷いなく蔦をかき分け、
隠れるように設置された木の扉を見つけた。
プロビーが目を丸くする。
「お、やるじゃねぇかアウレリアちゃん。
初見で見つけるとはな」
アンディも感心したようにうなずく。
「殿下が気に入るわけですね」
アウレリアは軽く肩をすくめただけだった。
扉を開けると、かすかな紙とインクの匂いが鼻をくすぐる。
中は外観からは想像できないほど広く、
天井まで届く本棚が所狭しと並んでいた。
本は山積みになり、棚から溢れ、
床に積まれた塔のような本の山もある。
ルークが思わず呟く。
「……すごい場所だな」
プロビーは肩をすくめる。
「まぁ、殿下が入り浸る理由もわかるだろ。
ここは宝の山だ」
アウレリアは静かに店内を見渡した。
――ソフィアは、この場所でノクティアと出会った。
その手がかりを求めて、四人は本の迷宮へと足を踏み入れた。
本屋の中には、三人ほどの客が散らばって本を読んでいた。
しかし、肝心の店主らしき人物は見当たらない。
ルークが客に声をかける。
「すみません、ソフィアという子を知らないですか?」
客たちは顔を上げるが、皆そろって首を横に振った。
「聞いたことないねぇ」
「常連なら覚えてるけど……顔を見たことある程度で、名前もわからないよ」
ルークと双子は店主を探して店内を歩き回るが、どこにも姿がない。
「おかしいな……いつもならカウンターにいるんだが」
アンディが首をかしげる。
プロビーは本の山をつつきながら、面倒くさそうに言う。
「おーい店主ー。仕事しろよー。……返事なしか、」
そんな中、アウレリアはふと、棚の影に気配を感じた。
「こんにちは。店主さんかしら?」
その声に、影からひょこっと若い男が飛び出した。
「えっ……!? 見つかった!? なんで!?」
驚きすぎて声が裏返っている。
アンディが目を丸くする。
「マック? そこにいたのかよ」
青年は胸を押さえながら深呼吸した。
爽やかな顔立ちで、どこか人懐っこい雰囲気がある。
「びっくりした……認識阻害の魔道具、ちゃんとつけてたのに……
普通は見つからないはずなんだけどなぁ」
プロビーが眉をひそめる。
「おいおい、なんで店主がそんなもん身につけてんだよ」
マックは苦笑しながら答えた。
「うちのじいちゃんの教えなんですよ。
“本屋は本が主役、店主はいないくらいがちょうどいい”ってね。
じいちゃん、世界中を旅して本を集めてた人で……
その蔵書を守るために、認識阻害の魔道具を使ってたんです」
アンディが感心したようにうなずく。
「なるほど……それを受け継いだわけですね」
「はい。じいちゃんが亡くなって、僕が二代目になりました。
本が好きで、じいちゃんも好きで……だから店も魔道具も全部引き継いだんです」
プロビーは腕を組んでぼやく。
「にしても、アウレリアちゃんは普通に見つけたけどな」
マックはアウレリアをじっと見つめた。
「……ほんとに不思議だなぁ。
魔道具が効かないなんて、初めて見たよ」
アウレリアは苦笑いをするだけだった。
アウレリアは店内を見渡しながら、マックに向き直った。
「それはそうと……ソフィアという子について、何か知っているかしら?」
マックは「ああ」と小さく声を漏らし、腕を組んで思い出すように天井を見上げた。




