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ノクティアの話が終わると、しばし静寂が落ちた。
アウレリアとルークは互いに目を合わせ、同時にうなずいた。
最初に口を開いたのはルークだった。
「……わかったよ、ノクティア。
君の頼みなら、断る理由なんてない。
数少ない友人のためだからね」
その声は軽く笑っているようでいて、どこか真剣だった。
続いてアウレリアが静かに言葉を紡ぐ。
「私も……引き受けます。
ノクティアさんにとって、そのソフィアという子が特別だったのが伝わりました。
放っておけません」
アウレリアの言葉に、ノクティアはぱちりと瞬きをした。
その表情は、王女としての威厳でも、物語好きの少女の興奮でもない。
ほんの少しだけ、照れたような、くすぐったいような――
そんな年相応の顔だった。
「……そなたらは、優しいのう。
妾が頼んだとはいえ……ここまで言ってくれるとは思わなんだ」
ノクティアは視線をそらし、頬にかすかな赤みを帯びた。
「礼は必ずする。
どうか……ソフィアを見つけてやってほしい」
その声は、王女ではなく、一人の少女としての願いだった。
その後のディナーは、驚くほど和やかに進んだ。
ノクティアは料理そっちのけでアウレリアに興味津々だった。
ルークが連れてきた“頭のキレる子供”という印象はすぐに覆され、
目の前の少女は、子供らしい無邪気さと、大人びた落ち着きを同時に持つ――
なんとも不思議な存在に見えた。
「そなた、本当に面白いのう。
年相応の顔をするかと思えば、急に母のような目をする」
ノクティアはワインを揺らしながら、じっとアウレリアを観察する。
アウレリアは苦笑しつつも、否定はしなかった。
前世の記憶が、ふとした瞬間に表情に滲み出るのは自覚している。
そんなアウレリアを見て、ノクティアはふと小さく呟いた。
「……まさか、そなたが転生者……などということは……」
期待といたずら心を含んだ紫の瞳がアウレリアを射抜く。
しかしノクティアはすぐに自分で首を振り、くすりと笑った。
「いや、そんなわけないか。
物語の読みすぎじゃな、ハハ」
ルークはパンをちぎりながら、呆れたように笑う。
「ノクティア、ワインの飲みすぎたんじゃないのかい?」
「妾は真剣なのだぞ。
転生者が実在したら、どれほど面白いことか!」
ノクティアは胸を張って言うが、その横顔はどこか楽しげで、
アウレリアを“特別な誰か”として見ているのが伝わってきた。
アウレリアはその視線に少しだけ戸惑いながらも、
どこか悪い気はしなかった。




