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扉が静かに開いた瞬間、店内の空気がわずかに揺れた。
振り返ったルークとアウレリアの視線の先に、ひとりの女性が立っていた。
長く波打つ銀髪が、シャンデリアの光を受けて柔らかく輝いている。
瞳は深い紫色で、まるで夜空に浮かぶ星のような静かな光を宿していた。
彼女の纏うドレスは、濃い紫を基調に金の刺繍が施された中世風の意匠。
胸元は透け感のある生地で品よくまとめられ、腰には小さな革のポーチが揺れている。
首元には紫の宝石が輝くペンダントが添えられ、全体として“物語の中から抜け出してきたような”雰囲気を漂わせていた。
「待たせたか?」
ノクティアはそう言って、まるで舞台に立つ役者のように微笑んだ。
ルークは肩をすくめながらアウレリアに耳打ちする。
「……いつもこんな感じ。
とーっても偉そうなんだよ」
アウレリアは目を細めて、ノクティアをじっと見つめた。
(なるほど、“くせ者”っていう噂は本当みたいね)
ノクティアは二人の席へと優雅に歩み寄り、スカートの裾を軽く持ち上げて一礼した。
席に座り、頬杖をつきながらノクティアは話し出した。
「アウレリア嬢。
今日はそなたに会って話してみたくてな。
もちろん、妾の依頼が気に入らなければ断ってくれて構わん。
でも、きっとそなたならば興味をそそられると思うぞ」
その声は、王族らしい威厳と、物語好きの少女のような期待に満ちていた。
アウレリアは困惑しながらも、
「王女様、私に会って話したいようなこととは、どんなことでしょうか?」
おずおずと話したが、ノクティアはひらひらと手のひらを振って言った。
「やめよやめよ、堅苦しい。
妾のことはノクティアと呼んでもよいぞ」
ルークはやれやれと言いながら、
「ノクティア、君は曲がりなりにも王女なんだから、アウレリアも困ると思うよ?」
ノクティアは、
「なぜじゃ? 妾が許すと言うておるのに」
上品ながら豪快に笑うノクティアは、とても魅力的に見えた。




