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白百合亭は、王都でも屈指の格式を誇るレストランだった。
黄金の壁面には繊細な装飾が施され、天井からは巨大なクリスタルのシャンデリアが輝いている。
黒いテーブルクロスに包まれた円卓には、銀器とガラス器が整然と並び、花々と柔らかな照明が空間に優雅な陰影を落としていた。
まるで宮廷の晩餐会のような雰囲気だ。
ルークは店内に足を踏み入れると、ひとつため息をついた。
「……やっぱり、まだ来てないか」
アウレリアが横目でルークを見る。
「いつもこんな感じなの?」
「うん。あの人、基本的に人を待たせるタイプなんだよね。
“王女だから”っていうより、“ノクティアだから”って感じ。
気分と物語の展開次第で動いてるっていうか……」
ルークは懐かしがるような顔をしながら、店員に声をかけた。
「予約していたルーク・エルバートだ。先に席に案内してくれ」
店員は丁寧に一礼し、二人を奥の窓際の席へと案内した。
シャンデリアの光がグラスに反射し、アウレリアは思わず目を細める。
「……きれいね、とっても高そう……」
ルークは椅子に腰を下ろしながら、肩をすくめた。
「王女様の依頼って、どんなものなのかしら」
ルークは飲み物を注文しながら返事をした。
「それがまだ、俺もよくわかってないんだよ。
ただ、“アウレリアに会いたい”って言われてさ。
気に入らなかったら断っていいって言ってたけど……
まぁ、あの人のことだから、何かしら面白い話を持ってくると思うよ」
ルークはニコッと笑い、グラスのワインを飲んだ。
アウレリアはグラスの水をひと口飲み、静かに窓の外を見つめた。
王女ノクティア。
その名の通り、物語のような人物が、今まさにこの場所へ向かっていた。




