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翌日。
アウレリアとルークは、エミルの家を訪れた。
チャイムを押すと、疲れ切った表情の母親が扉を開けた。
「……昨日は、本当にありがとうございました」
アウレリアは深く頭を下げたあと、
「エミルくんに、少し話を聞きたいんです」
と静かに申し出た。
しかし母親は、すぐに首を横に振った。
「……ごめんなさい。
あの子はまだ……人と会える状態じゃ……」
そのとき、奥の暗がりから弱い声が響いた。
「……いいよ、お母さん……入ってもらって……」
母親は驚き、泣きそうな顔で振り返った。
「エミル……本当に大丈夫なの……?」
エミルはかすかに頷いた。
母親は震える手で扉を大きく開き、
「……どうぞ……」
と二人を中へ案内した。
***
家の中は真っ暗だった。
カーテンはすべて閉められ、
光が漏れないように布で押さえつけられている。
空気は重く、湿っていて、
まるで外界から切り離された別世界のようだった。
ソファにはエミルが座っていた。
肌は青白く、唇は乾き、
目の下には深い影が落ちている。
アウレリアは真剣な眼差しで、
静かに問いかけた。
「……エミル。
あなたが……リディアを殺したの?」
その言葉に、
ルークと母親が同時に息を呑んだ。
「アウレリア!?」
「な、何を言って……!」
ルークが驚きと困惑の入り混じった声で問いただす。
「どういうことだ、アウレリア」
アウレリアは深く息を吸い、
昨日の病院で見たカルテの内容を思い返した。
「昨日、医師のカルテが少し見えたの。
エミルくん……“ポルフィリン症”だった」
ルークが眉をひそめる。
母親は唇を噛みしめ、視線を落とした。
アウレリアは続けた。
「光に当たると皮膚が焼けるように痛む。
だから家を真っ暗にしてるのよね。
そして、病気が進むと精神にも異常を来す…」
そして、静かに言葉を重ねた。
「ポルフィリン症は……
“ドラキュラ伝説”の元になった病気でもあるの、精神障害で現実と妄想が混同して、自分がドラキュラだと思っていたのではないの?」
部屋の空気が凍りついた。
その沈黙を破ったのは、
弱々しい咳き込みだった。
エミルが胸を押さえ、苦しげに息を吐く。
「……そう、です……」
母親が震える声で叫ぶ。
「エミル、やめて……!」
だがエミルは首を振り、
アウレリアをまっすぐ見つめた。
「……僕が……リディアさんを……殺しました」
その告白は、
まるで重い石が床に落ちたように響いた。
エミルは静かに、
しかし確かに語り始めた。




