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儀式が始まると、祭壇の前に立った代表の男が、
黒い香炉に火をつけ、白い粉を混ぜた香を焚き始めた。
もくもくと立ち上る煙。
甘ったるく、どこか金属のような匂いが鼻を刺す。
その瞬間――
――ピピッ、ピピピッ!
セラフィーナのミラー検出機が激しく鳴り出した。
「っ……反応が強すぎる!
この香……ミラーが混ざってる!」
アウレリアとルークが同時に顔色を変える。
「まさか……集会全体を“ミラー漬け”にしてるの!?」
セラフィーナは受信機を抱えたまま叫んだ。
「このままじゃ全員がミラーを吸ってしまう! 窓を開けて!」
三人は急いで窓や扉を開け、
ミラーの混ざった煙を外へ逃がしていく。
ミラーの煙が外へ流れ出し、集会が混乱し始めた中――
アウレリアはぐったりした少年を抱え、教会の外へ飛び出した。
「ジュリアン! この子が……!」
外で待機していたジュリアンは、
アウレリアの腕の中でぐったりしている少年を見て、
すぐに状況の深刻さを理解した。
少年の顔色は真っ白で、呼吸は浅く、
額には脂汗がにじんでいる。
アウレリアは必死に頷いた。
「香にミラーが混ぜられてたの!
この子、吸い込んで倒れそうなの……!」
ジュリアンはアウレリアの肩に手を置き、
真剣な目で言った。
「アウレリア、君はこの子を病院に連れて行ってくれ。
俺は中に入って、ハロルドさんに応援を頼む」
アウレリアは驚いたように目を見開く。
「でも……私も手伝える!」
ジュリアンは首を振った。
「今はこの子の命が優先だ。
君が一番、彼を安心させられる。
頼む、アウレリア」
その言葉に、アウレリアは迷いを振り切るように頷いた。
「……わかった。必ず連れて行く」
ジュリアンは短く微笑み、
「気をつけて。俺たちもすぐ片をつける」
と言い残し、教会の中へ駆け戻っていった。
アウレリアは少年を抱き直し、
「大丈夫、すぐ病院に行くからね……」
と優しく声をかけながら、夜の街へ走り出した。
――こうして、アウレリアは少年を救うため、
ジュリアンは事件を止めるため、それぞれの役目を果たし始めた。
中では、信者たちが混乱し始めていた。
代表の男は逃げようとしていたが、
中に飛び込んできたジュリアンが素早く回り込み、腕を掴んで押さえつける。
「規制薬物使用の現行犯だ。観念しろ!」
セラフィーナが証拠として香炉と粉末を押さえ、
ルークが応援を呼ぶ。
こうして――
“夜影の聖堂”の代表者は、ミラー使用の容疑で逮捕された。




