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その夜、スラム街の奥にある廃教会――“夜影の聖堂”には、
薄暗い灯りがともり、低い祈りの声が漏れていた。
セラフィーナ、アウレリア、ルークの三人は、
信者に紛れて集会の中へと入っていく。
ジュリアンは外で待機し、周囲の警戒にあたっていた。
中は、古い木の匂いと湿った空気が混ざり合い、
どこか冷たい気配が漂っている。
信者たちは黒いローブをまとい、
中央の祭壇に向かって静かに祈りを捧げていた。
アウレリアはふと、列の端に立つ一人の少年に目を留めた。
顔色はひどく悪く、肌は紙のように白い。
肩は小刻みに震え、額には脂汗が浮かんでいる。
アウレリアは思わず近づき、小声で声をかけた。
「大丈夫……? 具合、悪そうだけど……」
少年はゆっくりと顔を上げた。
その瞳は焦点が合わず、苦しげに揺れている。
「……う、うぅ……気持ち……悪い……」
言葉を発した瞬間、少年は口元を押さえ、
吐き気をこらえるように体を折り曲げた。
アウレリアが慌てて支えようとしたその時――
――ピッ……ピピッ……!
セラフィーナが抱えていた受信機が突然反応した。
「っ……反応!?」
セラフィーナは驚きに目を見開き、
受信機の魔力パネルを確認する。
「ミラーの揺らぎ……強い!
この子、ミラーの影響を受けてる……!」
ルークが周囲を警戒しながら低く言う。
「まずいな……ここで倒れたら目立つ。
信者たちに気づかれたら、逃げられなくなる」
アウレリアは少年の肩に手を置き、
必死に声をかけた。
「大丈夫よ!しっかりして。
外に出よう、ここは危ない……!」
少年は苦しげに息を吐きながら、
かすれた声で呟いた。
「……ドラ……キュラ……が……来る……」
その瞬間、
教会の奥で、信者たちの祈りの声が一段と大きくなった。
――夜影の聖堂の集会は、
何か“儀式”の始まりを告げようとしていた。




