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橋の下の調査と聞き込みを終えた四人は、警察署へ戻った。
ジュリアンがルークとアウレリアに声をかける。
「規制薬物対策課に知り合いがいるんだ、
話を聞きに行こう。
この周辺の薬物事情について詳しいはずだ」
ほどなくして、背の高い男性が資料を抱えて現れた。
柔らかい目元に、無精ひげが少し伸びているが、どこか温かみのある雰囲気をまとっている。
**王都警察・規制薬物対策課
ハロルド・グレン刑事。**
「やあ、ジュリアン。……可愛いお嬢さんも一緒か、寒い中の現場調査、ご苦労さんだったな」
アウレリアは少し照れながら会釈する。
ハロルドには、アウレリアと同じ年頃の娘がいるらしく、そのせいか、彼はどこか“父親の目”で彼女を見ている様だ。
ルークが地図を広げる。
「橋の下が薬物の売買場所だったと聞いた。詳しく教えてほしい」
ハロルドは資料を机に置き、真剣な表情に変わった。
「……あそこは最近まで、規制薬物の売人どもが集まる“たまり場”だった。
先週、大規模な取り締まりをしたばかりでな。
だが、全員を捕まえられたわけじゃない」
アウレリアが不安そうに眉を寄せる。
「そんな危険な場所に、リディアが……?」
ハロルドは優しく声をかけた。
「アウレリアちゃんといったかな?
被害女性はただ帰宅途中に巻き込まれただけだ。……うちの娘も君と同じ年だ。
娘を持つ親として考えるだけで胸が痛むよ…」
その言葉には、父親としての本音が滲んでいた。
セラフィーナが魔力解析機を抱えながら口を開く。
「薬物の残滓があれば、魔力の乱れで分かるかもしれない。
この機械、薬物由来の魔力の変質にも反応するから」
ハロルドは驚いたように目を見開いた。
「そんなことまで分かるのか……。
頼りにしてるよ、セラフィーナ。
この事件、薬物が絡んでる可能性は高いと思う」
ジュリアンが深く息を吐く。
「つまり、薬物の影響で錯乱した誰かがリディアを襲った……?」
ハロルドは静かに頷いた。
「そうだ。この辺で蔓延していた薬物は、ミラーと言って、脳の“本能”を動かす部分──扁桃体や脳幹に直接作用するんだ。
本来なら前頭前皮質が理性でブレーキをかけるんだが……それを弱めちまう。
結果として、恐怖や怒り、憧れみたいな強い感情がそのまま暴走する。
売人どもは“本性を映す鏡”なんて甘いことを言うが、実際はただの本能暴走薬だ。
理性が剥がれ落ちて、本能だけがむき出しになる。
……だから危険なんだよ。」
アウレリアは拳を握りしめた。
ハロルドはその姿を見て、まるで自分の娘を見るような目で言った。
「無理はするなよ、アウレリアちゃん。
でも……君を応援はするが心配もしている…」
その言葉に、アウレリアは小さく頷いた。
同時にあたたかく感じた。




