45
ジュリアンが手を叩いた。
「よし、決まりだ。
じゃあ全員で現場――レストランの非常階段へ向かおう」
《ブランシェ・コート》
街の中心部にある、白を基調とした上品なレストラン兼ホテル。
外観は清潔感のある白壁に、繊細な金細工の装飾が施されており、
昼は光を反射して柔らかく輝き、夜は街灯に照らされて幻想的な雰囲気を醸し出す。
内装はさらに豪華で、金のレリーフや曲線を多用したクラシック調。
天井には小さなシャンデリアが並び、壁には淡いクリーム色の装飾パネルが続く。
モデル撮影の現場として選ばれる理由が一目で分かるほど、絵になる空間。
2階は小規模なホテルになっており、全ての部屋がスイートルーム。
白と金を基調とした清潔感のある内装で、
広い窓からは街の景色が一望できる。
部屋数は少ないが、その分サービスは丁寧で、
“知る人ぞ知る隠れ家ホテル”として人気がある。
ミラは、このレストランのウェイトレスとして働いていた。
事件当日、アリシア・ヴェルネッタの撮影が行われており、
マネージャーのダミアン、カメラマンのレオンも同行していた。
現場はブランシェ・コートの裏手にある非常階段。
そこは昼間でも薄暗く、
白い外壁とは対照的にどこか冷たい雰囲気をまとっていた。
アウレリアは階段を見た瞬間、目を輝かせた。
「ここが……ミラさんが落ちた場所……!」
セラフィーナもすぐに駆け寄る。
「構造的に危険的。手すりの高さも微妙
落下軌道を計算すると――」
「はいはいストップ!」
ジュリアンが二人の肩を押さえるようにして止めた。
「二人ともテンション上がりすぎ! 現場は遊び場じゃないからね!」
アウレリアは頬をふくらませる。
「遊んでないわよ、真剣に見てるの!」
セラフィーナも負けじと言い返す。
「わかってる。これは仕事的」
ジュリアンは頭を抱えた。
その横で、ルークはため息をつきながら階段をゆっくり見回していた。
「……まったく、子どもか二人は」
そう言いながらも、彼の視線は鋭い。
ふと、手すりの一部に目が止まった。
「……ん?」
ルークはしゃがみ込み、指先で手すりの側面をなぞる。
そこには、金属がえぐれたような細い傷が走っていた。
「ジュリアン。これを見ろ」
ジュリアンが駆け寄る。
「傷……? 手すりに?」
アウレリアとセラフィーナもすぐに集まってくる。
セラフィーナは目を細めた。
「この角度……落下の衝撃じゃない。
何か硬いものが強く擦れた跡的」
アウレリアは息を呑む。
「じゃあ……ミラさんは“自分で落ちた”んじゃなくて……」
ルークは静かに言った。
「誰かに“押された”可能性がある」
非常階段に、重い沈黙が落ちた。




